47:なんてことは口が裂けても言えない。
砂船の制圧に三十分も掛からなかった。
冒険者だった過去を持ち、今は五十人の騎士をまとめる隊長を務めるロバート卿は、砂船の上で指揮を執る人物を見極めるのも早かった。
俺が錬成した石槍を投げ、あっさり指揮官を倒す。もう一隻の方でも同じように指揮官を見つけ、槍を投げていた。
このたった二投で、砂船の甲板はパニックに。
まぁ浮遊石も壊れて動かなくなったしな。
次に岩山の上から矢を放ち、甲板上の連中を倒す。それが終われば下へ降り、キャット・ルー族とキンバル族の戦士たちが砂船に乗り込み、船内に逃げ込んだ連中を捕縛した。
「はぁ……もう終わったのか」
「暴れ足りないにゃ~」
「まったくだわい。張り合いのない連中じゃ」
あの親子は血の気が多いなぁ……。キャット・ルー族がそうなのかと思ったけど、他の人たちは鎮圧に成功して喜んでるだけだし。誰も「もっと暴れたい!」なんて言ってる人はいない。あの親子だけだ。
「生きとる連中用に、また新しい牢屋を作ってくれんかディルよ」
「わかりました」
「バルシャよ。お主んところの砂船を呼べんか? わしんとこのは遠くにおってな。死体を運んで欲しい」
「承知した。サンドワームどもの餌にしておこう」
ワ、ワームの餌か……まぁ砂ばかりの土地だし、埋葬も難しいからなぁ。
この辺りにポイ捨てすれば、モンスターを引き寄せてしまう。だからわざわざ遠くに運んで、そこに捨てるのだろう。
「き、貴様らっ。同じ砂漠の民に対し、なんて惨いことを!!」
連行される男のひとりがそう叫んだ。
なるほど。あの男は砂漠の民サルージ族で、運ばれる遺体の中にもサルージ族が混ざっていたのだろう。
「では聞きますがサルージ族の方。あなた方がやった事で、他の砂漠の民全てが商業国の敵と認定されようとしているんですよ。それについてどう思われますか?」
「な、なんだこのガキは。貴様には関係ないだろ!」
「はい。僕には関係ありません。僕は砂漠の民ではありませんので。だからお聞きしているんです。部外者だから聞けることだってありますからね。同じ砂漠の民が商業国に攻め入られる口実を作ったことについて、どう思われますか?」
男は何も答えようとしない。
だから言葉を続ける。
「何千、何万もの兵士が砂漠へと進軍してくるんです。いかに地の利があっても、何十倍もの兵力差があるんですよ。最終的に負けるのは砂漠の民です。少し考えればわかりますよね?」
「ぐ……」
「同じ砂漠の民が虐殺されるんです。嬉しいですか? 楽しいですか?」
それでもだんまりだ。
「そういえば、ここにはサルージ族の女性や子供、お年寄りがいませんね。働き盛りの男たちだけだ。となると、商業国の兵士はサルージ族の里も――」
「さ、里が襲われたのか!? 家族は、妻は無事なのかっ」
声を上げたのは別のサルージ族だ。
「自分の家族は大事ですか。まぁそうでしょうね。ここにいるキャット・ルー族もキンバル族も、守るべき家族がいます。その家族が今、窮地に立たされているのはあなたがたサルージ族のせいです。同時に、あなたの家族が窮地に立たされているのも、あなたのせいですから」
そう話すと、家族の安否を叫んだ男がその場に崩れた。
「そんな……そんな……俺はただ、もっと楽な暮らしをさせてやりたかっただけなんだ。金があれば他所から水も食料も、綺麗な服だって買ってやれる。だから……」
「人の物を盗んで、そのお金で買った物で? 誰かの血の付いたお金で買ったものには、目に見えない血がついています。血のついた服を、あなたは奥さんに着させているのですか?」
「ぁ……あぁぁ……」
「お子さんは? いつも食べさせている料理は、お前のために他人の命を奪い、盗んだ物だぞ。美味しいだろ? 毎日ご飯が食べられて幸せだろ? そう、聞けますか?」
「うぅ……うううぅぅぅぅぅぅ」
男は蹲って泣き出した。彼だけじゃない。何人もが砂の上に膝をつき、青ざめた顔で呆然としていた。
あちこちで後悔の念を口にしている。
でも、もう遅い。遅すぎたんだ。
国ひとつを怒らせたんだ。後悔したところで、もう許しては貰えない。
せめて家族を守れるよう、大人しく連行されることだな。
数日後、砂漠の民の各部族の族長たちがこの岩山へと集まった。
驚いたことに、そこにはエルフの姿もあった。
やや褐色の肌――エルフって色白だというイメージだけど、ダーク・エルフってやつかな?
まぁこの世界にダーク・エルフという種族はいないようだけど。
「ふふ。坊主、砂漠エルフが珍しいか?」
「あ、す、すみません。じっと見つめてしまって。はい、その、エルフ族を見るのは、そもそも初めてでしたので」
「おや、そうだったか。まぁ我らエルフは本来、森で暮らし人間の前にはあまり姿を見せぬからのぉ」
二十代半ばに見えるこの美女が、砂漠エルフの族長だという。見た目は若くても、実際は……。
「ほっほっ。この肌が気になるか? エルフは本来、人間族に比べても色白だからのぉ」
「あ、いや……」
気にならないと言えば嘘になる。確かに、なんで褐色肌なんだろう。
「日焼けじゃ」
「へぇ、日焼け……え、日焼け!? ええぇぇぇぇ!?」
「ほっほっほっほ。予想を裏切らぬ反応、感謝するぞえ。砂漠の者どもはみな、同じような肌の色だからのぉ」
ま、まぁね。うん。キャット・ルー族もキンバル族も、そして集まってきた他の部族の人たちも褐色肌だ。
多少薄い人もいるけど、俺やロバート卿らと比べると確実に黒い。
「ひ、日焼けってことはその……痛まないんですか?」
「うむ。妾ぐらいになるとな、慣れた」
慣れるもんなんだ!?
「母者、さっきから誰と話しておるのじゃ」
「おぉ、リディ。見ての通り、人間族の幼子じゃ。くふふ。面白いマナをしておるぞ」
面白いマナ? えっと、マナってのは所謂魔力のことで。魔力が面白い?
リディと呼ばれた少女のエルフは、族長を母者と呼んだ。つまり族長の娘か。
こちらは十歳前後に見えるけど、実際は百歳をゆうに超えているんだろうな。
なんてことは口が裂けても言えない。




