44:そんな意地悪はしないよ。
追加の坂道を三回、連続で錬成すると地面へと繋がった。
先陣を切ったのは族長のダンドさん。
い、いいの? 族長は先陣って、大丈夫なのか?
俺の不安を察してか、そのすぐ後ろをロバート卿が追う。
頼んだよ、ロバート卿。
大人たちが静かに坂道を駆け下りていく。でも直ぐに喧騒が聞こえ、剣戟も加わった。
「僕らも急ぎましょう」
「にゃ」
坂道をすぐに駆け上がり、岩山の頂上を南側へと走った。
目的の場所には先に錬金魔法で錬成しておいた岩を置いてある。
「キャロ。これを押して落とすんです」
「これを?」
「はい。あなたのお父さんに頼まれたものです。この下には岩山の内部へ入るための亀裂があるんですよ」
「それを塞ぐってことかにゃ! にゅふふ。奴らひとりも逃がさないにゃよ」
そう。ひとりも逃がさないために、唯一の出入り口であるここを塞ぐのだ。
これが族長に頼まれたもの。
岩は子供の俺が押しても転がるようにしてある。キャロと二人なら容易に落とすことが出来た。
縁から落ちた場所を確認。
今日は月が出ているので、なんとか転がり落ちた岩も見える。
「完全に塞げたかな?」
「バッチシにゃ」
「じゃ、もう片方も準備しましょう」
「え、なんでにゃ? こっちを塞げばもう出られないにゃよ」
確かに。外側の亀裂だけ塞げば盗賊どもは逃げ出せなくなる。内側は別に奴らを逃がさないために塞ぐのではない。
「亀裂の通路に盗賊どもが逃げ込んだのを見計らって塞ぎます。そうすれば一度に何人も人数を減らせますから」
「にゃはっ。つまり閉じ込めるってわけにゃね。にゅふふふふ。お主も悪よのぉ」
「いひひひ。そんなこたぁございませんですよぉ」
「にゅふふ」「いひひ」
って、俺たちは何をやっているんだ。
岩山の上から下を覗き込み、盗賊が亀裂のトンネルへと入って行くのを確認する。
事前に味方には、絶対にトンネルへ入らないよう伝えてあるし、追いかける必要もないと言ってある。
「八人は入ったにゃ」
「出口がないとわかれば出てきますし、そろそろ塞ぎますか」
「にゃー!」
用意していたもう一つの岩を、キャロと一緒に押して崖から落とす。
ドスーンっと音がして、岩が亀裂を塞いだ。
目の前に岩が落ちてきて悲鳴を上げている盗賊もいた。
すると隣のキャロが弓を手にして矢を放った。
短く聞こえた悲鳴。凄いな、命中してるよ。
でもキャロが矢を放ったことで、こちらの居場所がバレてしまったようだ。下からも矢が飛んできた――が、届かない。
風は岩山の上を通ったあと、そのまま内側の地面に向かって吹き下ろしている。
高さ六、七十メートルの距離でも吹き下ろす風に逆行して放っても、届くわけがない。
代わりに俺が石爆弾をお見舞いしてやろう。
両手をついて錬金魔法発動。そして崖の縁を少しだけ削って、削った分を魔法陣の一番先端から落とす。特に錬成もなしで落とす。
それだけで十分だから。
「いてっ」
「くそっ。あだっあだだだだだっ」
「早く上の奴を殺せっ。おい、誰か登れよっ」
「俺が行くっ。援護しろっ」
あー、登ろうとしてる。無駄なのに。
そんなことするなら、どんどん錬金して岩爆弾増やしちゃうぞ……いや、少し上って来るのを待とう。
「ディル、どうしたにゃ?」
「んー、もうちょい待ちましょう」
「な、なんでにゃ!?」
慌てるキャロ。そして下品な笑い声が下から聞こえてきた。
「げはははははははっ。もう石の在庫がなくなったか? 矢もないみてぇだな」
「よっしゃ。俺も登るぜ!」
「やれっ。やっちまえ!」
チラっと下を覗くと、登って来ているのは四人ってところか。
先頭の男が目前まで登ってきたら――。
両手をついて、錬金魔法を発動させる。
「ん? なんだ、この光は」
「魔法陣です。ご苦労様でした」
男が掴んだ崖の縁を錬成し、丸い球体にした。
「へ?」
男が間の抜けた声を上げた瞬間、下へと落下する。
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
「ぎぇぇぇぇっ」
あ、下から登ってこようとしていた人が巻き添え喰らったか。
その様子を唖然とした顔で見ていた他の連中。一瞬間をおいて、それからこちらを見上げた。
「みなさんもどうぞ」
ひとりだけにプレゼントなんて、そんな意地悪はしないよ。
両手をついて錬成した岩のボールを、どんどん上から転がしていく。
「にゃっは~。うちにもやらせるにゃ」
「じゃあ僕が錬成するので、キャロは奴ら目掛けて落としてくださいね」
「まっかせるにゃー」
キャロと俺の共同作業で、次々に悪党どもを撃ち落とす。
岩を錬成して丸い玉に形を変える。当たればなかなか痛いだろう。
次の岩をと思って指先に魔力を流し込み、両手を足元に突くと――魔法陣の中で錬成された岩の玉が勝手に飛び出した!?
まるで意思を持っているかのように、岩肌を登って来る悪党へと飛んでいく。
「んがっ」
「おっと、命中した。今の……なんだったんだろう?」
まぁアニメとかでそういうの見たことあるけど、もしかして俺にも出来たりする?
よし、確かめてみよう。
そう思ったけど、登って来る奴がいなくなってしまった。残りの連中は踵を返して逃げ始める。
キャロが追い打ちをかけるように矢を放ち、ひとりを倒す。残りは――。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
躍り出た巨漢――ダンド族長が大きな斧をたった一振りしただけで倒してしまった。
「つ、強い……」
「にゃは。強くなければ族長は務まらないにゃ」
「な、なるほど。だからキャロも強いんですね。将来が楽しみです」
きっといい族長になるだろう。
「にゃっ。べ、べべ、別に、う、うちは、しょ、将来のことは……ふにゃあ~」
ん? なんか耳がぺしゃんこになってるような。
「おーい。もう終わったぞい。二人とも、下りてきて大丈夫じゃ」
「あ、はーい。了解しましたぁ。さ、キャロ、行きましょう」
立ち上がってキャロに手を差し出す。
彼女はその手を一度見つめた後、それからそっぽを向いて俺の手を取った。
ん? も、もしかして嫌だったのかな?
その割にはしっかりがっつり握ってるんだけど。




