41:ククク。ざまぁみろ。
――拝啓、ディルムット様。
「んーっと……いかがお過ごしでしょうかっと。それからぁ……はぁ、なんて書こうかしら」
せっかくフィレリクス商会の方がお手紙を届けてるって言ってくださったのに、何を書けばいいか思いつかないわ。
「これからはフェアリー・ワイバーンのおかげで、月に二回はお手紙を出せるってことだけど……うぅん」
「――様。エヴァンゼリンお嬢様」
呼ばれた気がして振り向くと、専属メイドのアニーがすぐ横に。
「きゃあぁぁっ。メ、メリンダ。お手紙書くときは見ないでって言ったのにぃ」
「まだ『いかがお過ごしでしょうか』しか書いていないではありませんか。部屋に籠ってかれこれ二時間ですよ」
「え、もうそんなに経ったの?」
「経ちました。それよりもお嬢様、今日も召し上がらないのですか?」
メリンダの後ろにはケーキやクッキーをたっくさん乗せたトローリーがあった。
あぁ、いいニオイ……ダ、ダメよ、絶対にダメ!
「い、いらないわっ。言ったでしょメリンダ。私、ダイエットするんだって。だからおやつはいらないわ。食事だって一日一食だけにして!」
「い、一食!? いけません、それではお体を壊してしまいます」
「平気よ。だって今まで食べ過ぎてたんだもの。その分、これから減らすのよ」
「何を仰っているのですが。今まで食べた分はもう消化してしまっているのですから、その分なんてございませんっ」
ダメよ。私、痩せるって決めたんだもの。痩せなきゃディルムット様にも会えないわ。
こんなブヨブヨした体じゃ、恥ずかしくて無理。
笑われたくない。嫌われたくない。
ディルムット様にだけは……。
「ね、それよりメリンダ。お手紙って何を書けばいいのかしら? ディルムット様に何を伝えれば、喜んでくださるのかしら」
「お嬢様……。うぅん……そうですねぇ。あ、シュパンベルク男爵家の元領地のことなどどうでしょう? お優しい令息でしたし、気になさっているのではないでしょうか?」
「あっ、そうね! シュパンベルク男爵領、いいえ、伯爵領のことは王都でも噂になってますものね」
ディルムット様の伯父様が領主を務めるようになってまだ二カ月。なのにもう問題を抱えて火の車だって話なの。
でもこんなこと書いて、ディルムット様が余計に心配なさるんじゃないかしら。
だってディルムット様の伯父様が大変な状況なんですもの。
「ねぇメリンダ。身内が大変な目に会ってるっていうのに、そんなこと伝えて大丈夫なのかしら。優しいディルムット様だから、心を痛めるはずだわ」
「お嬢様。それはないかと思いますよ」
「え、どうして?」
「男爵家と伯爵家は、決して仲がいいわけではないのです。むしろ伯爵家は男爵家から、お金を無心なさっていたのですから」
お金をむしん……むしんって何かしら?
「メ、メリンダ……あの、あのね。むしんって、どういう意味かしら?」
「あっ。失礼しました。まだ習っていない言葉でしたね。あまりいい意味ではないのですよ。お金を無心するというのは、相手の都合を考えず金銭を要求するという意味ですから」
お金を要求……え!?
じゃあ、ディルムット様の伯父様は、ディルムット様のお父様にお金を要求していたってこと!?
「伯爵は先代から爵位を譲り受けた時、その事業も引き継いだそうです。そしてなりふり構わず事業を広げようとして失敗し」
「借金をしたってこと? その返済のためのお金を男爵家に?」
「これは内緒でお願いしますね。ですがわりと有名な話なのですよ」
そんな……身内からお金を毟り取られていたなんて。
むんっ。そうね。この事実はきっと書くべきだわ。
「それよりもお嬢様。後ほどお医者様がお見えになられますから、しっかり診ていただいた方がよろしいかと」
「え? お医者様が? 私は元気よ?」
「何を仰っているのですっ。ここ最近、ずっと顔色が悪かったではありませんかっ。今朝だって貧血で倒れそうだったのに」
「で、でも……」
どうってことないわ、このぐらい。
貧血ってことは血が減ってるってこと。つまり体重も減るってことじゃない。
順調にダイエット出来てるってことよね?
「失礼します、お嬢様」
「あ、カルダン先生っ」
公爵家の専属医の先生だわ。私、どこも悪くないのに!
「お嬢様。ダイエットをなさっているとお聞きします」
「そうなのっ。だから先生、応援してください。私、どこも悪くないんですからっ」
「いいえ。そのようなダイエットでは、後々リバウンドして、今よりもっと体重が増えてしまいますぞ」
……え?
それはダメェー!!
「ですのでお嬢様。わたくしが無理のなく健康にダイエットできるよう、お手伝いいたします」
「そうですお嬢様。カルダン様にご指示を仰ぎましょう」
「ど、どうすればいいのですか?」
「食べるのです。もちろん、これまで通りではなく、少しずつ量を減らしていきましょう」
た、食べるの!? それじゃあ痩せれないじゃない。
私は痩せたいのに、食べろだなんて酷いわ。
あ、これも書いておこうっと。
「あぁ、やっぱりそうなったかぁ」
ようやく自分の部屋を持てたことで、ゆっくりエヴァンゼリン嬢からの手紙を読むことが出来た。
手紙には元男爵領のことも書かれていて、予想通りの結果になっていることもわかった。
鉱山の水没はまだ解消されておらず、工房も使えないから取引先に納品も出来ない状況。
更に男爵家がこれまで稼いだお金は、そのほとんどを税金として国に治めてある。残りは持ち出して、今はここの金庫の中だ。
屋敷に飾っていた調度品や家具もフィッチャーの実家に買い取ってもらってるしね。
あそこにはなーんにも残っていない。
農作物の収穫期も終わった後だったし、お金に換えられるようなものは一切ない。
鉱山を動かすには水を抜かなきゃいけないけど、抜くための装置は作り置きしていないからクソ伯父がなんとかするしかないだろう。
当然、錬金魔法が使えるわけじゃないから専門家を雇うしかないし、その作業にもお金がかかる。
そのお金をクソ伯父が持っているのかどうかだ。
エヴァンゼリン嬢の手紙からは、鉱山は廃坑したという噂が貴族の間でも流れていると書かれているし。お金はないんだろうな。
ククク。ざまぁみろ。
「それにしても、やりたいことを医者に止められたかぁ。いったい何をやろうとしたんだろう? でも医者に止められたってことは、それが体によくないってことだろう」
お医者様の言うことはちゃんと守って、健康でいてください――と書いておくか。




