4:あの男は俺の伯父上殿なのか?
「メイドを呼んでこよう。ここを掃除しなきゃならないし」
「えぇ、そうね。でも何かしらね、この木屑。天井から落ちてきたのかしら」
と言って両親が天井を見上げる。
い、いや違うんです父上殿、母上。それは俺が錬金魔法で――とりあえず実際にやって見せるか。
「ちゃー。こえ、こえ見て」
「え? 見てとは、何を――魔法陣!?」
「んで、こうっ」
浮かんだ魔法陣を両手で押し倒し、真ん中にもう一本あった編み棒を乗せる。
頭に浮かんだのはやはり【粉砕】だ。
「ふんちゃい」
口にすると、魔法陣の上にあった編み棒が粉々に。
あ……二本目を粉々にしてしまたあぁぁぁぁぁっ。
「うきゃああぁぁぁぁぁぁっ。ごえーちゃい、ごえーちゃいはーうぇ」
涙目でそう訴えたが、父上殿も母上の聞いちゃいない。床の魔法陣に釘付けだ。
あ、もう魔法陣は消えているんだけどね。
「な、なんてことだ」
ああぁぁ、ごめんなさいごめんなさいっ。
「じゃあ、この木屑もディルが魔法で……」
すみませんすみません。必ず弁償しますんで。
「凄いぞディルムット! 魔法を授かったというだけでも凄いのに、もう使えるようになっているなんて」
「え……」
「本当、凄いわディル。それに、木屑にしてしまったことをちゃんとごめんなさいが出来て、偉い子ね」
「あぅ……」
おこ、られない? 二本もダメにしてしまったのに。
それどころか褒められた。
「心配しなくていい、ディルムット。編み棒はまた作ればいいのだから」
「そうよディル。庭師のトニーにお願いすれば、すぐに作ってくれるわ」
「ちゅく……りゅ……しょうか!」
そうだ。作ればいいんだ。
司祭も言ってたじゃないか。以前、魔法錬金を授かった人も、いろんなものを作ったって。
錬金だから無から何かを作る事は出来ない。何かを作るには素材が必要。
素材は、この木屑だ。
指先に魔力を纏わせ、木屑に触れる。
浮かんだ魔法陣を木屑の上にダンっと押し倒し、最初の分もかき集める。
「何をやっているんだい?」
「れんちん。ちゃい、れん……まほー」
バンっと両手を突いて頭に浮かんだのは、さっきの粉砕とは違う。
置いた素材によって、浮かぶ文字は違うのだろう。たぶんできる作業工程が浮かぶのかもしれない。
今浮かんでいるのは【合成】【形成】だ。
編み棒を粉々にしたものだから、合成だな。形も整えないといけないのだろうか?
「んちょ、ごーちぇーとけーちぇー」
両方だ。
頭に浮かぶ文字が変わる。【何を形成するのはイメージを浮かべよ】と。
編み棒をイメージすると、木屑が七色に光って形が変え始めた。
で、出来た?
錬金魔法で物作りが出来た!?
あー……出来たけどこれは。
「おぉぉぉぉ! なんて凄い息子なんだお前は」
「え、えぇ、そうね……でもディル、これは……」
言わないでくれ母上。わかっている。
魔法陣に乗せた木屑は二本分。その全てを合成、形成して作られた編み棒は、異様に長い編み棒になった。
素材の量と完成品はイコールでなければならない。気をつけよう。
「ごえーちゃい。もういっかぃ。あ……」
もう一度錬金しなおそうとしたら、魔力を練るときに眩暈がした。
これは、もしかして。
「ディル? まぁ、顔色が……」
「魔力を消費し過ぎたのだろう。ディルムット、今日の錬金魔法はお終いだ。これ以上やると気を失ってしまうぞ」
やはりそうか。これは魔力の枯渇だな。
錬金魔法三回でこれとは……魔力が少ないのだろうか?
ベッドに寝かせられた俺は、そのまま気絶するように眠ってしまった。
だが目覚めたあとはスッキリ回復。
ただ丸一日眠っていたようだ。
目を覚ますと母上に泣きつかれ、すぐにやって来た父上殿にも心配そうに見つめられる始末。
あまり無茶はしないでおこう。
だけど魔力は増やしたい。どうやって魔力を増やばいいのか、それは父上殿が教えてくれた。
「ディルムット。二回だ。一日二回、錬金魔法を使ってもいい。二回だぞ、わかるか?」
「あいっ」
「よし。魔力というのはだね、魔法を使えば使うほど増えるものだ。もちろん、本人の潜在的な魔力量というのは決まってはいるけれどね。だけど鍛えなければ潜在的な量まで到達することも出来ないんだ」
「ほぉ~」
使えば使うほど量が増える。これは俺にとって朗報だ。
しかしたった二回までとは……。
まぁ、また丸一日眠る訳にもいかないしな。仕方ない。
だが、何日かして気づいた。
錬金魔法を一回使うごとに、俺の魔力の三割ちょいが抜けていく。おそらく三回使えば、ちょうどゼロになるぐらいだ。
更に、錬金する素材の大きさでも消費する魔力量が変わることもわかった。もちろん、大きい方が消費魔力も多くなる。
なら小さいものを錬金すればどうだ?
と思ったが、編み棒だって十分小さい。しばらくは父上殿が用意してくれた、小さな積み木を錬金して鍛えるしかないな。
そして一日二回までと言われたが、魔力は時間の経過で回復する。
朝一で二回錬金魔法を使った後、午後に二回。夜寝る前にまた二回と、計六回は使えることもわかった。
これで少しは鍛錬が捗る。
一カ月、二カ月と繰り返すうちに、一度に使用できる錬金魔法の回数も増えていく。
努力すればした分だけ、能力に反映される。
無駄にならない――それだけで俄然、やる気も出た。
周囲に見守られながら、魔力の向上、そして錬金魔法の練習に日々励む中。
嵐は突然やって来た。
一歳と二カ月。この頃になると、俺も屋敷の食堂で食事を摂るようになった。
メイドさんに手伝って貰いながら、親子での昼食を楽しんでいるとだ――。
バンっと突然、食堂の扉が開かれ男が現れた。後ろには困惑気味の執事が立っている。
「おぉ。我が愛しの弟よ!」
「あ、兄上っ。どうなされたのですか、突然」
あ、兄上? じゃあ、あの男は俺の伯父上殿なのか?
その伯父上殿は、こちらが食事中なのもお構いなしにずんずん入って来て父上殿の手を取った。
「弟よ。ついに俺しにも息子が誕生したのだ。我が跡取りとなる息子が!」
「そ、それはおめでとうございます」
「おめでとうございます、伯爵様」
おぉ、それはめでた……い……ん?
俺の食事の面倒を見てくれていたメイドさん、苦虫を噛み潰したような表情をしている。
とても祝福しているような顔ではない。それは伯父上殿の後ろから入ってきた執事もそうだ。
父上殿や母上も苦笑いを浮かべていて、心から祝福の言葉を口にしたような雰囲気ではない。
「あぁ、おめでたいのだ。我が息子が誕生したのだからな。……なのにだ!」
伯父上殿の表情が一変する。その声も荒々しいものになった。
「なのにサウル! お前は祝い金のひとつも寄越さないとは、どういうことだ!」
は? い、祝い金!?
金を寄越せって、まさかそれを言いにわざわざ来たのか!?




