39:ドリル二丁拳銃!
屈強なドワーフが二人がかりで持ち上げ、ひとりがハンドルを回す。
ギュギュルグィイイイィーンっと回転するドリルが、地面に穴を開けていく。
いやぁ、我ながらカッコいいなぁ。ドリル二丁拳銃! とかやってみたいけど、そうなると刃の部分を小さくしなきゃいけない。
カッコよさよりも実用性の方が大事だからね。
「さて、それじゃあこちらもやりますか」
「にゃ? こちらもって、どういうこと?」
キャロの質問に、俺は人差し指を上に向けた。
滝の上側だ。水量が減った原因自体はそっちだろうからね。
ここまで登って来るのに、崖階段を錬成したのは十回は数える。同じように滝の上に向かって階段を錬成し、安全に登る。
滝の上には川の跡がしっかり残っていた。流れている水はちょろちょろというもの。
上流に向かって辿っていくと、十分ほどで原因がわかった。
左手側には崖がある。一部が抜け落ちたようになっているのは、その一部が下にあるからだ。
「土砂で川を堰き止めてしまったんですね」
「水が流れる音が聞こえる……あっちに向かってるにゃ」
キャロが指さすのは川の右手側。その先は辺境と隣接するリーガル領だ。
土砂の溜まった所まで行くと、リーガル領で水害が多い理由もなんとなくわかった気がする。
土砂の向こうには幅五メートルほどの川。その流れはこちら側ではなく、右側――リーガル領へとほとんどが流れていっていた。
「ほんのわずかに、右側に傾斜があるんですね」
「流れが土砂によって塞がれたため、溢れた水が全て右側の斜面を下ってしまったのでしょう」
「そして新たな川を作った、か……どうりでここ七、八年の間に水が減った訳だ」
土砂を撤去すれば、水は以前のようにゼナスへと流れていくだろう。
これで多少は水不足が改善されるはず。
「何やってるにゃ。早くさっきの魔法でパパパっと土砂を取り除くのにゃ」
「ダメですよ。そんなことをしたら、今下で作業しているドワーフ族が流されてしまうますから」
「あ……そ、そうだったにゃ。えっと……ん? あっちにも滝が見えるにゃ」
あっち……あ、本当だ。
右奥の方は崖になってて、水が流れ落ちていくのが見える。
あの滝。
「この川と上流の方で合流してます、よね?」
「そのように見えます」
試しに上流へと向かうと、案の定、合流していた。
その川幅はこちら側のザっと三倍以上。つまりリーガル領へ流れる水量の方が多いってことだ。
「ディルムット様。あちらにも滝が見えます。この山脈を流れる水の多くが、リーガル領へ流れているようですね」
「だから水害が多いのか。これはリーガルの領主に報告して、川の流れを変える相談もしたいところですね」
「お互いの領内にとってプラスになることですから、拒みはしますまい」
何をするにしても、一度村へ戻らないとな。
「親方たちと合流して、今夜はここで野宿したら明日は村へ戻りましょう。王都からの知らせも……あれ? ど、どうしたんですか。な、なんで泣いているんです、キャロ?」
キャロが大粒の涙を浮かべている。よく見るとオルマンさんも、目を潤ませていた。
「凄いにゃあ~」
「す、凄い?」
「そうにゃ。こんなに……こんなにいっぱい水が流れているなんて、凄いことにゃあ~」
え……水がたくさんあるなら泣いてる?
隣のオルマンさんもうんうん頷いているし。
あぁ、そうか。砂漠の民にとって、この水量は奇跡に等しい量なのか――って、アレンさんも!?
わかってはいたけど、三人を見ていると水って物凄く大切なものなんだなって考えさせられる。
これななんとしてでも、リーガル領主と交渉しなきゃな。
「明日帰るのか。こっちの作業は二、三日かかりそうなんだがな」
「そうですか。でも王都からの知らせもありますし。もちろん、直ぐ届くとは限りませんが」
その夜、明日の予定について親方たちと話し合った。
滝の下への掘削作業は順調に進んでいるけど、なにせ直下掘りは出来ない。下に空洞があった時、危険だからだ。
「村へはお前さんらだけで戻ってくれ。わしらがいなくとも、ロバート卿とキャット・ルー族の嬢ちゃんがいれば大丈夫だろ」
「ふっ。まっかせるにゃ。ディルはうちが守ってやるにゃよ」
「ちょっ。頭撫でるのは止めてくださいっ」
子供に子供扱いされるなんて……。
「わかりました。じゃあせめて三日間、快適に過ごせるようにしておきますね」
「おぅ。よろしく頼むわ」
「快適に? いったい何をするんにゃ?」
ドワーフ族はクッション性のいいベッドより、硬いベッドを好む。だけど体型故に、真っすぐな床に寝ると体が痛くなるらしい。
だから――。
「れんっきん――と」
地面に両手をつき、ドワーフ用のベッドを土で錬成する。
長方形の土の真ん中にある窪みにお尻を合わせ、頭の方にある盛り上がった部分が枕だ。
「な、なんにゃ、それ」
「ベッドですよ」
「うにゃあ~! こ、こんな硬い土が、ベッド!?」
「おぉ、これよこれ。この絶妙な窪みが気持ちいいのさ」
「あぁ、坊ちゃんが錬成してくれるベッドは、ほんっと最高だぜ」
「うえぇぇ……マジにゃか」
ま、種族ごとに最適解はいろいろだからね。
翌朝、ドワーフ族たちを残してゼナス村へと引き返すことに。
早朝にロバート卿とオルマンさんが狩りに出て、数日分の肉を仕入れて来てくれている。
俺もわずかな時間で野草やキノコを見つけて来たから、これでドワーフ族の食料は大丈夫だろう。
水があるというだけで、森の恵みがこんなにあるなんて。以前はそれが当たり前で気付かなかった。
「それじゃ、みんな気をつけてくださいね。安全第一です」
「わかってらぁな」
出発した俺たちは、翌日の暗くなる直前には村へと到着。行きと違ってボロボロの階段を解体したり階段を錬成したりがない分、思ったより早く村へと戻ってきた。
そして――。
「ディルムット様。いいタイミングです」
「フィッチャー。もしかして王都から知らせが?」
そう尋ねると、糸目の彼は眼鏡をくいっと上げ、ニヤリと笑った。




