38:俺の胸は自然と熱くなった。
「うわぁぁ……」
「これを登るのかよ……」
俺と親方、それからドワーフ族がげんなりした顔で頭上を見上げる。
断崖絶壁をどう登るのかと思っていたけど、実は階段があった。あったにはあった。でもここを登るのは、正直恐ろしい。
「なんせ五十年も前に作られたものだからな」
とアレンさんがいう。
木材で作られた階段はあちこち傷んで穴が開いてたり、そもそも足場がなかったりしている。
「これよ、オレらドワーフの体重に耐えれるんですかね、親方」
「見りゃわかんだろ。無理だ」
あぁあ。断言しちゃったよ。でもまぁ、俺も無理だと思う。
「坊、なんか新しく作れねぇか?」
「うぅーん。あの岩を使ってやってみましょうか。その前に、このボロボロの階段を回収したいので、取り壊して貰っていいですか? 一応再利用出来ると思うので」
「おう。任せときな」
ということで階段は撤去。近くにあった石に両手をついて、錬金魔法を発動させる。
再成形――形をイメージして……さっきまで階段のあった場所へとそのイメージを移す。
ズゴッと音を立てて地面から飛び出したのは、岩の階段だ。
「たった五段分じゃねえか」
「わ、わかってますよ」
それなりに大きな岩を錬成したんだけど、それでも五段分かぁ。
いっそ崖を錬成してみる?
崖に両手をついて、イメージを固める。
魔法陣の形に崖が凹むと、その下の部分が階段になる。とはいえ、出来た段数は八段ほど。魔法陣のサイズに依存かぁ。
まぁさっきよりは増えたしいいか。
「さっきの木材は手すりに使ったのか」
「え、えぇ。何もないより安心でしょう」
「どうした。思ったより疲れたようだな」
確かに少し疲れた。今までで一番の大物錬成だったからかもしれない。あと、両手で錬金魔法を使うと、完成までの時間が短縮されるかわりに魔力の消費が二倍になっている。それでガッツリ魔力を持っていかれたんだ。
両手の時の方がイメージの再現度も高い気がするけど、課題も多いなぁ。
赤ん坊の頃から錬金魔法やってるけど、それでも全然魔力が足りないなんて……。俺って実は魔力少ないんだろうか。
「さぁさぁ、登るにゃ~」
……なんで?
「あの、どうしてキャロがここに?」
「必死に引き留めたのだが、駄々をこねて言う事を聞かないのだ」
「オルマンさんが困ってるじゃないですか」
「オルマンはそれが仕事にゃ~。ほら、早く行くのっ」
キャロに手を引かれ、完成したばかりの崖階段を登っていく。あ、うん。頑丈に出来てるな。
八段登ってはまた錬成の繰り返し。
こうしてキャロとオルマンさんが同行することになった。
まぁ王都からの知らせが届くのは、どんなに早くても四日後だしな。滝まで三日、往復で六日。ちょうどいいのかもしれない。
「モンスターにゃ! うちに任せてっ」
道中ではモンスターがちょこちょこ姿を現した。その度にキャロが飛び出して行って、あっという間に片付けてくれる。
「キャロって、十三歳でしたよね」
「そうにゃよ?」
「どうしてそんなに強いんですか?」
「はにゃ!? い、いやだなぁ~。強くてカッコよくでかわいいだなんて」
後半二つは一言も口にしていないんだけどな。
休憩を挟みながら、山道をどんどん進んでいく。登ったり下りたり、また登ったり。
日が暮れる前に野宿の準備をして、一泊したら翌朝からまた進む。
二日目の昼前から、だんだんと景色が変化した。
「木だ。木が生えてますよ!」
「本当にゃ。オアシスで見る木とは違うのにゃ~」
「はっは。山だからよ、木が生えてんのは当たり前ぇなんだが、なんか久しぶりに見た気がするなぁ」
気がするじゃなくって、実際久しぶりなんだよな。
この辺りにはまだ生えていないが、ずっと西の方では木々が生い茂っているのが遠目からもわかるほど。
つまり、あの辺りの地面には水分が豊富に含まれていると言う事だ。
だがこちら側には水がない。
更に歩き続けて翌日の昼過ぎ。
まばらに木が生える場所までやって来ると、アレンさんが言う滝へと到着した。
「これが滝、にゃ?」
「……うぅん」
「そんなバカな。十年前に見た時には、もっと水の量が多かったはずなのにっ。それに川が……」
川だって!?
確かに上から水が落ちてきているんだし、滝と言えなくもない。
だけどその水量は少なく、蛇口から流れるような、そんな程度しかなかった。
しかも水が流れ落ちる先は岩や石がゴロゴロ。その岩に当たった水は……ん? いったいどこに水が流れて行っているんだ?
「こりゃ上も下も崩落したようだな」
「親方。上も下もって……え、滝つぼ?」
「あぁ。これを見ろ。ここには以前、水が流れていたんだと思うぜ。そうだろ、アレンの旦那よ」
言われてアレンさんが頷く。
決して大きなものではなかったようだけど、十年前に来た時には村の方へ流れる川があったそうだ。
「その川は、昨晩野宿した近くの岩山まで伸びていて、そこから地下に流れ込んでいたんだ」
「そいつが地下水になって村まで届いていたってわけか」
「けど川なんてどこにもないにゃ。それなら村の井戸に溜まってる水は、どこから来てるにゃあ?」
その水はこの滝から流れ落ちている水で間違いないだろう。
水が地表を流れていないのなら――。
「この下を流れているんでしょうね」
「だろうな。いくら落ちてくる量が少ないとはいえ、一日中ずーっと流れてんだ。それが全部岩に当たって、蒸発してるなんてこたぁねえだろうよ」
「じゃ、下がどうなっているか見てみましょうか」
「だな」
ドワーフ族のみんなが担いでいた荷物を下ろす。
「あのおじさんたちは何をしてるにゃ?」
おじさん? あぁ、ドワーフ族のことか。
「そうか。砂漠の民もドワーフ族を知らないんですね」
「どわーふ? 知らないにゃ~」
「お嬢、以前学んだはずだが? ドワーフ族は大地の妖精族で、手先が器用な職人でもあり、戦士でもあると」
「そ、そうだったにゃ。ちょっと忘れてただけにゃよ!」
ちょっとじゃなく、すっかりの間違いでは?
「彼らドワーフ族には僕が錬金開発したアレを使って、穴を掘ってもらうんです」
「あれ?」
ドワーフ族のみなさんが、ひとり一つずつ担いで来た荷物。
分解して持ち運びやすくしたパーツをここで組み立てれば――。
「手動ドリルの完成!」
ジャキーンっと効果音が聞こえそうなワンシーンに、俺の胸は自然と熱くなった。




