31:もちろん俺が殴るわけじゃない。
館の敷地内にはテントがいっぱいで狭いから、ボロミオシとその部下の兵士、それから盗賊たちは村の中央に集められた。
「はぁ……もう二度と馬にゃあ乗らねえぜ」
「あぁ、俺もさ」
「馬のあぶみに足が届かねえんだ。振り落とされねえよう、鞍にしがみつので必死よ」
とドワーフたちが愚痴をこぼす。
お、お疲れ様です。
「兄ちゃん、なんでドワーフのおっちゃんたちを男爵様と一緒に行かせたんだよ。もしもって時のことを考えたら、危ないじゃんか。おっちゃんたちはさ、職人なんだしよ」
「チク、ドワーフ族は確かに腕のいい職人だけど、同時に戦士なんだよ」
「え? せ、戦士?」
そもそも、樽のような体で筋肉モリモリなんだ。見た目からして強そうじゃないか。
「おう、坊主。わしらのことを心配してくれてんのか。だがまぁ、坊の言う通り、わしらは職人であるのと同時に戦士だ。その辺の腑抜け盗賊どもにゃ、負けやしねーよ」
「盗賊よか馬の方が怖ぇーぜ」
「がーっはっはっはっは。だとよ」
よっぽど怖かったんだな。それでよくこの作戦に協力してくれたもんだ。
これはどうにかして酒を手に入れないとなぁ。
「ふぅーん。おっちゃんたちが強いのはわかったとして、なんで男爵様たちの方に? おっちゃんたちだけでこの村を守ってもよかったんじゃ」
「うん。それも考えたんだけどさ、向こうは向こうで、きっと待ち伏せしているだろうからね」
「わしらドワーフは種族の特性として、全員、夜目が利く。夜行性の獣よりも遥かによく見えるのさ。だから坊は、待ち伏せしてる奴らを見つけるために、ドワーフ族を同行させたってわけだ」
「うへぇ~。すげーや!」
その読みは当たった。自称蛮族を追いかける父上殿たちを、盗賊団は待ち伏せしていたのだ。
「バカな連中だぜ。岩陰からヒョコヒョコ顔を出さなきゃ、俺らだって気づけなかったのによ」
「相当気にしてたなぁ。おかげですぐ見つけたんだがよ」
そう言ってドワーフたちが笑う。さすがに夜目が利くといったって、見えない位置に隠れている者には気づけない。ほんと、バカでよかった。
ま、待ち伏せが成功していたって、うちの騎士団とドワーフがやられるなんてことはないんだけどさ。
そして、いざ戦闘となれば父上殿の光魔法で周囲は明々と照らされる。
明るくなることを事前に知っているこちら側と、知らずに驚く盗賊団。
どっちが有利かなんて、聞かなくてもわかる。そのうえ、実力の差だってあっただろうし。
「ディル!」
「兄上っ」「にぃちゃま!」
「母上、ジーク、ティファニー。三人とも、怪我はありませんか?」
と声を掛けてから、それがおかしなことだと気付いた。
安全な場所に避難するよう指示したのは俺だし、なんだったら母上は治癒魔法も使える。怪我なんてあるはずがない。
「あなたの方こそ大丈夫なの? どこも怪我はない?」
「はい。大丈夫です、母上。父上の方も、怪我人を出すことなく終わったようです」
「そう、それならよかった」
と言って、母上は俺をぎゅっと抱き寄せてくれた。
温かい。荒地は夜になると冷え込みが激しくなり、だから余計に温かく感じるんだ。そうに違いない。
「だ、男爵殿。オレは自分の金を受け取りに来ただけですぞ。そ、それを何故、このような仕打ちを?」
あっちはなんか凄いこと言ってるなぁ。
オレの金? 村の金の間違いだろ。百歩譲ってそれも違うとしても、だったら国の金だ。
「辺境監督者としての報酬は、年十二万ペレーのはず。それをまるまる貯蓄していたとしても、十五年間で百八十万ペレーだ。地下にあった隠し部屋に蓄えられていた金貨は、それより一桁多いだろうね」
「そ、そんなことはないさ。はは、はははは」
「それに、自分の物だと言う金貨を受け取るのに、何故みんなが寝静まっている夜中に来るのか」
盗賊団まで引き連れての来訪である。どこからどうみても「受け取りに来た」ではなく「奪いに来た」だろう。それにこいつ。
「父上。彼は僕を殺すと言っていました」
「な……に……。わたしの息子を……かわいい息子を殺す、だと」
ざわり。
辺りの空気が変わる。
父上殿。父上殿ー。火、火を纏っておられますよ。落ち着きましょうねぇ。
「あなた、落ち着いて魔力を押さえましょうね」
「あっ。カティア、ついかッとしてしまって。すまない」
はぁ……まったく。ご自分の魔力量が多いってこと、忘れないでいただきたいものだ。
これに怯えたボロミオシや盗賊たちが震えあがった。
「た、助けてくれ男爵。オ、オレは仕方なくやったんだっ。全部、そう全部奴らの指示だったんだ!」
「んなってめぇ、俺らに罪を着せようっていうのか!?」
「オレは悪くないっ。こ、この通りだ。な? そ、そうだ。あの金の二割はあんたにやろう。な? い、いや三割……四? ご、五割。どうだ、半分くれてやろう。な?」
はぁ。ここまで頭が逝っちゃっているとは、嘆かわしいことだ。
「あのお金は君のものではない。あれについては国王陛下にご報告して、ご指示を仰ぐことにする。金貨一枚でも、君のものではないからね」
父上殿がそう言うと、ボロミオシは苦虫を噛み砕いたような顔をした。
あんまり反省していないようだな。
「男爵様っ。こんな奴生かしておく必要があるんですか!?」
「そうだ。俺らはこいつのせいで、どんだけ苦しい生活をしてきたことか」
「男爵様っ」
住民たちが声を荒げる。相手は縄で縛られているし、それを見て溜まっていた鬱憤が爆発したんだろう。
でもここで処刑なんて出来ない。罪を犯したのなら、法の裁きを受けさせなければならないから。
とはいえ、彼らの怒りも収まらないだろうし。
「父上。ここで死なせるとマズいんですよね?」
「う、うん。いろいろと調査もしないといけないだろうしね。取引内容との辻褄合わせも必要だし、たぶん他にも甘い汁を吸った者がいるだろうから」
そいつらもまとめて捕まえる必要がある。だから殺すわけにはいかないのだ。
「では……――ならいいですかね?」
「ん? そりゃまぁ……どうするんだい?」
「はい。殴ります」
「ん? 殴る、だけ?」
そう。殴るだけだ。もちろん俺が殴るわけじゃない。
「みなさん、聞いてください。この男は取り調べを受け、法の下で裁きを受ける必要があります。だからここで処刑は出来ません」
そう言うと、不満そうな声が上がる。
「ですから、死なない程度にみなさんで一発ずつ殴ってください」
「一発……な、殴っていいのか……」
「どうぞどうぞ。死なない程度でお願いしますよ。あ、縄で縛ってますし、抵抗出来ないから安心してください。なんでしたらあっちの兵士や盗賊たちもどうぞ。んー、ひとり五十発ぐらいは殴れますよ」
と笑顔で伝えると、村の人たちも笑みを浮かべて応えてくれた。
うん。これで住民の怒りも収まってくれるだろう。
荒れ地の夜に、男たちの悲鳴が響き渡る。
さぁて、寝るかぁ~。




