30:ちょっとアニメみたいにカッコよく出来たぞ。
カンカンカンと、真夜中にけたたましく鳴る鐘の音。
遠くで「蛮族が攻めて来たぞーっ」という声も聞こえた。
暗闇の中、俺はじっとその時を待つ。
チクに盗賊団の話を聞いた二日後。今日は新月で普段よりも外は暗い。
でも盗賊なら、このぐらい慣れているだろう。
だから今日あたりに来るんじゃないかなって思ったんだけど、ドンピシャだ。
外ではずーっと「蛮族だー」「逃げろー」って騒いでいる声が聞こえる。聞き覚えの無い声だ。
父上殿は少し前に、ロバート卿と他四十九名と馬に跨って出撃している。蛮族を追い払うために。
母上たちと使用人、騎士たちのご家族も、今は館にはいない。
いるのは俺と――
その時、カタンという音がした。
真っ暗で何も見えないが、灯りを付けるわけにもいかない。そのまま待つこと数分、階段下から悲鳴が聞こえた。
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ」
「わーっはっはっはっはっはっはっはっは」
楽しそうだな、親方。
ガタッ、ゴトッ、バキッと音がして、下から灯りが揺らめくのが見えた。
ここは二階。厨房正面にある使用人用階段を上った所だ。
もういいだろうと思い、光魔法を付与してもらった細かく砕いた魔石をばら撒いた。
一階の床に落ちた衝撃で光が灯る。
階段の手すりを滑り降りて一階へと到着したとき、小太りした髭面の男が地下から飛び出してきた。
男と目が合う。
そして男は勝ち誇ったように笑った。
「お前だな。領主の息子とやらは。ひ、ひひひひひひ。お前を人質にすれば、全部丸く収まる!」
「ボロミオシって名の役人であってるよね?」
「ボロミオシ様と呼べ!」
伸ばされた手。足元の光石が反射し、奴の掌がぬめっと光る。
脂ぎってる! 触んな!
しかしこの程度の突進、日頃から騎士たちに鍛えて貰っているからな。余裕で躱せる。
躱すついてに足を引っかけると、ボロミオシは恨めしそうな顔で俺を見たあと真っ青になった。
「おう。こっちは片付いたぜ」
「あんな狭い部屋に十人も押しかけてきやがって、あぁ、狭かったですぜ坊ちゃん」
明かりも持たずに平然と現れた親方とお弟子さん。その肩にはそれぞれ、男を二人ずつ担いでいた。
その男たちをその場に捨てる。聞こえたうめき声が、奴らが息をしている証拠。
「な、なんで……なんであんだけ暗い部屋で立ち回れるんだっ」
「なんでって、彼らを見ればわかるでしょう。ドワーフ族ですよ? 暗がりに慣れている人間より、夜目を持つ種族の方が有利に決まっているでしょう」
元来ドワーフ族は崖なんかに穴を掘って、その中で暮らす種族だ。
穴というよりは洞窟。太陽の明かりは届かないし、昼間だって真っ暗だ。そんな暮らしがデフォな彼らは、生まれながらにして闇に目が慣れている。
一切灯りを点していない地下室にいたって、侵入者の動きはよーく見えてんだよ。
「ク、クソッ。こうなったら――」
俺たちにくるりと背を向け、重そうな体で駆けだす。
「逃がすわけないだろ? ――錬金!」
手のひらに魔力を集め、床に手をつく。魔法陣の位置は、奴の足元。
突然の光に奴の足が止まった。
今日のために昨日の朝から敷き詰めておいたんだ。石の床を。
元々石造りの上から更に石を錬金して作ってあるから、あいつは気づいていない。
「なっ、なんだこの光は!?」
「粉砕っ」
途端に奴の足元が砕け散り、驚いたあいつが尻もちをついた。
勢いよく粉砕した石の欠片で、意外とダメージを与えられたようだ。
「びやあっ」
「からのぉ、再形成」
奴のケツの下やその周りで砕けた石が光を放ち、形を変える。
うぅん、魔法陣内の石材が少し足りないか。もっと厚みのある石を敷いておけばよかったな。
「ちょっと足りねえか? ほれ」
親方がハンマーで叩き割ってくれた床石を魔法陣に放り投げてくれた。
「助かりました。これで――完成!」
ズゴッズゴッっと鉄パイプのようなものが床から生えてくる。もちろん鉄製ではなく、石材だ。
それがボロミオシをぐるりと囲い、石の牢獄が完成した。
うん。ちょっとアニメみたいにカッコよく出来たぞ。
「んなっ。なんだこりゃあぁぁぁっ。だ、出せ。おい、オレ様を出せ!」
「え、なんで?」
「な、なんでって……えっと……とにかく出せ! でないとお前を殺すぞっ」
檻に閉じ込められている状況で、よくそんなことが言えたもんだ。
「今すぐ出さないと後悔するぞ!」
「え、なんで?」
本日二回目のなんで。
「なんでって、決まってるだろ! オレ様の仲間が直に戻って来るんだ。それに屋敷の周りにだって――」
「ディルムット様。周囲の雑魚は片付けました。あ、そちらも終わったんですね」
タイミングよく、騎士が報告に訪れた。
「な、なんで騎士が……全員出撃したんじゃなかったのか!? 人数はちゃんと数えたんだぞっ」
「でも騎士だったかどうかは、確認しましたか?」
「へ?」
きょとんとするボロミオシに「ドワーフの職人たちは十五人いるんですよ」と教えてやる。
ここにいるのは二人だけ。残り十三人は――。
「あいつら、ちゃんと馬に乗れたのか?」
「さぁ、どうでしょうかねぇ」
自称蛮族を追いかけた一行に、ドワーフ族が十三人含まれている。その分、十三人の騎士が民家に身を潜めて待機していた。
「ド、ドワーフがいたからなんだっていうんだ! 男爵は夜目もないし、夜に慣れた盗賊にかなう訳がっ」
「それに、僕の父上は光魔法の使い手なんですよ。知らなかったんですか?」
「へ? ひか、光魔法?」
俺は足元を指さす。
そこかしこに散らばった無数の光石。これを作り出したのは父上殿だ。
暗い夜を明るく照らすぐらい、造作もないこと。
その時、窓の外を明るく照らす光が上がった。
それはまるで夜明けを知らせる、朝日のようでもあり。でも当然、まだそんな時刻ではない。
「どうやら父上たちが、自称蛮族を追い詰めたようですね」
「あ……あぁ……そんなバカな」
「いやぁ、あなた方がバカでよかったですよ」
それを聞いたボロミオシが項垂れる。
「ぶはぁーっはっはっは。辛辣だなぁ、坊」
「え、そうですか?」
きょとんとして見せると、親方とお弟子さんがもう一度笑った。




