29:負ける気がしない。
「役人のボロミオシの奴がここを出て行ったのは、男爵様一行が到着される前日です」
「え、本当に直前だったんんだね」
「はい。ゼナスに新しく領主を立てるって知らせは、それより少し前に来てたんですけどね」
ムート村長の話だと、領主になるのは自分だとボロミオシっていう役人は思っていたみたいだ。そして正式に父上殿が領主としてやって来るという知らせが届いたのが、俺たちが到着する二日前。
「そりゃもう、慌てて逃げるようにして出て行きましたよ」
国から新たに領主が派遣されれば、当然、それまで開拓を任されていた役人は任を終え、王都へ戻ることになるはずだ。
だけどあんな大金を隠し持っていれば、当然何かしら問われ、横領もバレるから逃げたんだな。
村長の話だと、このボロミオシって役人がゼナスに着任したのは十五年前。
十五年間コツコツ横領したお金を、ほとんど置いたままゼナスを離れている。
果たしてこのお金を諦められるものだろうか?
俺だったら、諦めきれないな。
それに。役人がここを離れたのは俺たちが到着する前日。
王都に行こうとしたのなら――いや、そうでなくても途中ですれ違っていてもおかしくないはず。
俺たちはもちろんだけど、半日先行していた騎士も、人の姿を見ていないと言っていた。
どぉーこに隠れているのかなぁ。
「さ、今日も屋根の修繕を進めましょう」
「だな。仕事はいくらでもある。チャッチャとやっちまおうぜ」
役人の件は一旦置くことにして、今日も今日とて屋根修繕だ。
「今日はチクの家か」
「イェーイ! これで部屋の掃除をしなくて済むぜーっ」
「何言ってんのチク。砂が入ってこなくなっても、掃除ぐらいしなさいっ」
チクの部屋の屋根に、小さな穴が開いていた。その穴から砂が入って来てたようだ。
竹の屋根を設置する間、チクはじーっとその作業を――いや、ドワーフ族を見ていた。
「なぁ。おっちゃん達さ、なんでそんな小さいんだ?」
おっと。ド直球だな。
「んあ? なんだ坊主。お前ぇ、ドワーフを知らねぇのか」
「ドワーフ? おっちゃんの名前?」
「ちげーよ。まぁここいらにゃドワーフが住んでねえから、見たことないのも仕方ねぇか。わしらドワーフは、人間とは別の種族なのさ」
親方がそう話すと、チクは大きな声を出して驚いた。
「えぇぇ!? おっちゃんたち、人間じゃなかったの!? じゃ、兄ちゃんも?」
「いや、あの……僕は人間ですよ」
「……なーんだぁ」
え、なんでそこ、残念そうな顔するの?
え?
竹をカットし節を取るまでの工程は錬金魔法。そこから先の作業はドワーフ族が手作業でやってくれる。
三角屋根を作り、隙間の壁を埋め――二時間弱でチクの家の修繕は完了した。
「いやったー! 新品の屋根だぁ」
「増設した壁の部分は新品じゃないけどね」
「ちぇ。せっかく浸ってたのに」
「あはは。ごめんごめん」
だけどこれだけ喜んでくれると、こっちもやった甲斐があったってもんだ。
「あのさ、兄ちゃん」
「ん? なんだと、チク」
「あのな、この前父ちゃんが話したじゃんか。盗賊のこと」
「盗賊……あぁ、王都から来る役人や商人を襲ってるって言う?」
チクは頷き、俺に耳を貸せというジェスチャーをする。
なんだろう?
「実はさ、オレな、あの盗賊どもな、前の役人とグルなんじゃないかって思ってんだ」
「え? グ、グル?」
チクはもう一度頷き、日陰に腰を下ろす。俺もその隣に腰を下ろし、ドワーフ族には休憩をしてもらうよう手で合図を送った。
「オレんちさ、今年の初めに牛担当になってね。あ、牛担当ってのは、ここにいる乳絞り用の牝牛に、草を食べさせに行く係なんだ。村から二日ぐらい離れた所に、少しだけ草が生えてる所があってさ」
ここでは雑草もほとんど育たない。
西の山、南側の麓にわずかな草原地帯がある。年に数回、牝牛をそこまで連れて行き、数日かけて草を食べさせるってことを、交代でやっているそうだ。
「そん時にさ、盗賊団に襲われたんだ」
「襲われた!? いったいどうやって撃退したんだ」
「助けてくれたんだよ。砂漠の民がさ。でな、その時にいた盗賊団のひとりがよ、役人と一緒にいるのをオレ見たんだ」
「な、なんだって!?」
AA顔文字を入れたいぐらいビックリだ。
どんな繋がりが……あ……。
「チク。その盗賊たちって、いつも同じ時期に来てなかったかい?」
「え? うーん……そういえば、いつも春と秋に来てたっけ」
「春と秋ね。王都から開拓費用を運ばれてくる時期、だったよね?」
「あ……そ、そうだよ! いっつもそうだった。王都からお役人さんがお金を持ってやって来て、その人たちが帰った! この前はその役人たちも襲われてたよ」
襲われてたのかよ……。
王都から来た役人が、まだお金を渡す前に襲われたのなら――追加のお金が運ばれるはずだ。
どうりであの地下室のお金、異様に多いわけだ。
「ってことはあれ……やっぱり諦めないんだろうなぁ」
「あれ? 兄ちゃん、なんのこと?」
「んー、悪いことする奴は諦めが悪くて、だからお仕置き出来るってことさ」
小首を傾げるチク。
ここには五十人の騎士がいる。
住人いたっていう兵士が全員、ボロミオンの手下についたとして――。
「チク。盗賊団って、何人ぐらいいるかわかるかい?」
「んー、詳しくはわかんねぇ。でも三十人か、四十人ぐらいじゃないかな」
多いな。
人数的にはとんとん。
ま、うちの騎士団は強いけどね。それに――。
「おーい、坊。そろそろ働こうや」
「はーい。今行くよぉー」
うちには頼もしい連中がいるからね。
負ける気がしない。




