28:大量の金貨が山積みにされていた。
三軒の屋根を修繕し、畑の井戸に滑車と屋根を付け、それから新しく建てる家の土地候補を見て今日のお仕事は終了。館に戻って来ると、男の人がひとりいた。
「ディルムット、いいところへ帰ってきたね。この人が今日から、ゼナスの村長さんだ」
「そうですか。ディルムットです。よろしくお願いします」
五十代半ばかな。それでも、ここでは一番の年長者だ。
「ぼ、坊ちゃん。ム、ムートと申します。こ、これから精いっぱい、頑張らせていただきますです」
「普段通りいきましょう。まずはみなさんの暮らしを改善することが最優先ですから」
「あ、あぁ。ありがとうございます。ありがとうございます」
感謝してくれるのは嬉しいんだが、拝むのは勘弁していただきたい。
一度死んでいる身としては、なんか生き仏にでもなった気分になってしまう。
新しく村長になったムートさんからも、例の空き家の件を父上殿は聞いたそうだ。
夜、そこに誰を住まわせるかを話し合い、それも終わって休むかって時。
「どうにも気になって仕方ないんですよ、坊ちゃん」
「何が気になるって言うんだい、マーガレット」
寝室に向かう時、世話係のマーガレットは不安そうに顔をしかめていた。
「それがですね坊ちゃん。こう……」
床をこつこつと靴先で叩く。
「なんていうか、足元が空洞になってそうで怖いんですよ」
「空洞ですか?」
俺も靴裏で床を蹴ってみた。特に空洞になってそうな音じゃないんだけどな。
「ここじゃないんです。厨房の方に行くと、なんだか足音が違って聞こえて」
「厨房ですか? ちょっと行ってみますか」
「崩落しませんかねぇ?」
「大丈夫だと思いますよ」
むしろ意図的な空洞――地下室がある可能性が高い。
厨房へとやって来た。足音、変わったかな? 俺にはよくわからない。
ただ見つけた。地下への入り口を。
「ここの階段は、使用人用なんでしょうね」
「はい、そうだと思います。ここから上がった二階には、四人部屋が何部屋かありますし。でもまさか、こんな所に扉があったなんて気づきませんでした」
「というより、気付かれないようにしてましたね」
扉の前には大きな鏡が置かれ、パっと見では後ろに扉があることに気付かない。
けど、階段脇にこんな大きな、しかも普段使用人しか通らない場所に姿鏡が置いてあるなんて不自然過ぎる。それで横を覗き込んだら、階段下に扉があったってわけ。
「鍵はないようですね。入ってみましょう」
「だ、大丈夫ですか?」
「おバケでも出ますかね」
「や、やめてくださいよ坊ちゃんっ」
この世界で言うおバケっていうのは、ゴーストのこと。もちろん、モンスターだ。
「ははは。もし出たら母上に助けを求めるとしましょう。じゃ、入りますよ」
扉を開け、マーガレットが持つランタンを受け取って中を照らす。
階段だ。地下室があったんだな。
下りてみると、そこには驚くものがあった。
いや、驚きはしたけど、まぁあって当然というやつか。
「ぼ、坊ちゃんこれって……」
「地下の食料貯蔵庫ですね。それにしても、結構ありますねぇ」
「本当にっ。小麦、それから香辛料もありますね。お野菜は……まだ食べられそうです。でもこの野菜、この町で採れたものではなさそうですね」
その通りだ。ここの畑だと、このサイズまで育てるのは無理だろう。水不足で土も痩せているから、ちんまりした野菜になってしまう。
「前の役人は、他所から仕入れた食料を自分たちだけで楽しんでいたようですね」
「町の人の最初のあの態度も理解出来ます」
「マーガレット、ありがとうございます。あなたが音の変化に気づいてくれたから、この食糧庫を発見できました」
「そ、そんな。私が気付かなくても、きっと誰かが扉を見つけていましたよ」
そう言いつつも、彼女は嬉しそうにしている。
顔を赤らめ、もじもじしながら足元を見た。そして「あら?」と声を上げる。
「坊ちゃん」
「はい?」
「この棚……変です」
変?
「ほら、床に棚を動かしたあとがたくさんありますよ。それに、棚の後ろに布がかかっていますが、あっちの棚には布がありませんし」
「本当だ。となると……マーガレット、誰か男の人を連れてきてくれますか? さすがに僕とあなたでは動かせそうにないですし」
「は、はい。直ぐにっ」
彼女が上へ行き、すぐに戻ってきた。料理長と夜勤の騎士二人が駆け付けてくれたようだ。
三人に棚を動かして貰う。
「坊ちゃん、扉が……」
「これは……完全に隠し部屋、でしょうね」
「鍵がかかってますな」
「どうしますか、坊ちゃん」
うぅん。さすがに父上殿に報告しよう。
それを騎士のひとりに頼んで待っていると、父上殿とさっきの騎士が戻ってきた。何故かジークとティファニーも一緒だ。
「隠し部屋!?」
「どこっ、どこなのにぃちゃま。宝箱は見つかった?」
あはは、これは完全に面白がってやって来たな。
「鍵がないので、開けられないのですが。どうしましょう、父上」
「鍵かぁ……それらしいものは執務室でも見つからなかったし」
「男爵様、蹴り破りますか?」
それが早いかなぁ……いや。
「待ってください。僕の錬金魔法で、この鉄の部分を錬成してみます」
魔力を指先に。そしてドアノブに触れる。
浮かぶ魔法陣――錬金魔法の指示は【融解】。
だが融解させただけでは火事になる。熱くなっているからな。だから同時に【成形】を行って、小さな鉄のインゴットにした。
ごとんっとインゴットが落ちる。
ドアノブと鍵穴のあった部分が空洞になって、そのまま押せば扉が開く。
「必要であれば、またドアノブに戻しますね」
「ありがとう、ディルムット。さて、中は何が――はぁ……」
父上殿が大きなため息を吐く。
「男爵様、これは……」
「これまで横領した金でしょうか」
隠し扉の奥にあったのは、良い生地を使ったソファーと、頑丈そうなテーブル。
そのテーブルの上には、大量の金貨が山積みにされていた。
「だろうね。せっかく貯めたのに、持って出て行かなかったのはどうしてだろう?」
「まぁ今回の件は急に決まりましたし。おそらく国から通達があったのも、我々が到着する直前だったのかもしれませんね」
という騎士の話は、翌朝、町長のムートさんの話で正解だったことがわかった。




