25:なんかこの水、しょっぱいような……
「ん? なんかこの水、しょっぱいような……」
「しょっぱ~い」
「僕わかんない」
翌朝。朝食の時に飲んだ水が、なんとなくしょっぱく感じた。
「す、すぐにお取替えしましっ」
「あ、いいよ。気のせいかもしれないし」
慌てるメイドさんに、大丈夫だと伝える。
ニオイは特に異常なし。水質がちょっと違うのかもしれない。
食後はさっそく仕事だ。男爵家から一緒に来た人たちの住居を急いで建てないといけないからね。
そのためにもまず、どこに家を建てるか決めないと。
ドワーフ族と町へ繰り出すと、
「兄ちゃん、ちょっといい?」
昨日の子供たちに呼び止められた。
「いいけど、なんだい?」
「んーっと、あのなぁ、親父がさぁ」
「お父さん?」
と思って子供たちが後ろを見る。するとその方角に「おいバカこっち見るな」な顔をした大人がいた。
どうやら俺に用があるようだけど、自分からは声が掛けられず、子供を使ったようだ。
「親方。ちょっと行って来るんで、建築場所候補を探しておいてもらえますか?」
「ひとりでいいのかい?」
「はい。大丈夫ですよ」
親方たちと別れて、子供と一緒に大人の元へと行く。
「僕に用でしょうか?」
「い、いや、その……ま、まぁなんだ。その。坊ちゃんは、あー……ここは初めてだろう。だ、だからだな、あ、案内をしてやろうと思って」
「本当ですか!?」
住民からそう言って貰えるのは、非常に有難い。
「オレも、オレも。父ちゃん一緒に案内するっ」
「お、おう。んじゃまぁ……まずは井戸に」
井戸? 村を案内するのに井戸?
と思ったが、察した。
昨日、父上殿は言った。
住民が今、必要としているものを教えて欲しいと。
直接そうとは言えないもんだから、遠回しに、しかも子供の俺の方が言いやすいと思ったのだろう。
「ずいぶん深いですね」
「あ、あぁ。俺が――いや、自分がこの村に来た十年前は、もう少し水かさがあったんだけど、ですがね」
「面倒くさければ、普通に喋っていただいていいですよ。ドワーフ族の親方もそんな感じですし」
「そ、そうですかい? いやでも貴族の坊ちゃんですし」
まぁそこまで言うなら強要しないけど。
案内してもらった井戸は、覗き込むとその水面がかなり下の方にあった。
以前はもっと水があたってことは、減っているって言う事。
「水面までどのくらいですか?」
「半年ぐらい前に測った時は五十八メートルでした」
深いな。この世界の井戸が一般的にどのくらいなのかわからないけど、親方に聞けば知っているかも。
「水の深さとかって、わかります?」
「木を差し込んでみたが、深い時で二メートル。浅いときは一メートルもない」
「そうですか。井戸には詳しくないので、あとでドワーフの親方に聞いてみます。とりあえずの問題として、これだけ深いと、水を汲むのも大変ですよね」
そう尋ねると、お父さんよりも息子くんの方がうんうんと頷いた。
「家のお手伝いをしているのかい? 偉いねぇ」
「へっへー。水汲みぐらいどうってことないさ」
「なら毎日頼むかな」
「うえぇー!? や、やだよぉ」
ははは。まぁこれだけ深いと、相当だろうしなぁ。
井戸には滑車がない。ロープの先にバケツが結び付けたものがあるだけだ。
とりあえず親方に滑車の造りを教えてもらって、錬金するかな。
でも滑車があっても、大変なことには変わりない。出来ればポンプを作りたいけどなぁ。
あの竹を使えば、なんとかなるんじゃないかな。
「あの……つ、次は畑も見てもらえますか?」
「はい。見ましょう」
ここの村は申し訳程度の壁に囲まれていて、畑はその壁の外にある。
「壁って、もっと頑丈にした方がいいんじゃないですかね?」
「あー、まぁそうなんですがね。なんせ人手がないですし。畑仕事だけで手いっぱいなんだよ」
辺境領ゼナスの南には荒野が広がる。その先には砂漠があって、更に先はまた荒野。
この砂漠を跨いだ先の荒野に問題があった。
「蛮族からの襲撃は、これまでなかったんですか?」
「いや、あるにはあったんですよ」
「あったんですか!?」
砂漠の更に向こうにある荒野には、蛮族と呼ばれる種族が暮らしていた。
頭には角が生え、モンスターを使役する。つまり人間ではない別の種族だ。
三百五十年ぐらい前には、ここオルフォンス王国と戦争もやっている。
ゼナスは蛮族の進行があった際には、いち早く王都へ知らせる任務を担っているのだけれど……まぁそれどころじゃないっていうね。
「へい。この十年で二度来ています。ただまぁ、なんせ砂漠を越えて来てますから。少ない兵士でも呆気なく追い払えたんですよ。それに、砂漠で暮らす連中からもやらめれますし」
砂漠で暮らす人?
「あの、その砂漠で暮らす人っていうのは?」
「あいつらさ、悪い奴なのか良い奴なのか、わっかんねーんだよな」
「チク、黙ってろ。俺らは砂漠の民って呼んでます。特に交流なんてのはないんですがね、危害を加えてきたりはしないんです。ただ……」
ただ?
「あいつら、畑の野菜を盗むんですよ」
「え……それダメな奴なんじゃ」
「でも代わりに食えるモンスター肉を置いてってくれました」
物々交換のつもりなんだろうか。だったらちゃんと交渉すればいいのに。
「あと、蛮族よりも厄介な連中もいまして」
「厄介な?」
「へい。盗賊団です」
出るのか、こんな所に?
畑に向かいながら話を聞くと、盗賊団は年に一、二回やってくるそうだ。
俺たちが到着した時にはいなかったけど、一応ここにも十人ほどの兵士がいた。そいつらは役人のボロミオシと一緒に村から出て行っている。
その兵士たち、がなんとか盗賊団を追い返していたようだ。
蛮族が十年で二回に対し、盗賊は一年で一、二回。
厄介なのは盗賊の方だな。
そうこうする間に畑へと到着し、予想通りの状況にため息が出た。
土から生えているのは、今にも枯れそうな野菜の葉だ。
農業に詳しくなくてもわかる。土が乾燥しているな。
「水がやっぱり足りないんですね」
「こっちにも井戸がありますが、まぁ見てもらうとわかるが村の井戸よりも酷い状況でして」
「見てこよう」
畑の奥に井戸がある。覗くとこっちの井戸は底がうっすら見えるぐらい、水位がない。
はぁ、水かぁ。
「ここの水源って、どこなんでしょう?」
「水源……えっと、どこから流れてきているかってことですかい?」
「そうです」
「それなら、あの山ですよ」
と、チク少年のお父さんが指さす。
それは村の東にある山だった。




