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毒親育ちの俺、異世界で優しい家族を得る~不運な男爵家ですが、錬金魔法で辺境領地を発展させます~  作者: 夢・風魔
1章

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24/66

24:あ、えっと……よ、よろしくお願いします

 辺りが暗くなった頃、領主の館の前が喧騒に包まれる。

 全員ではないものの、三十人ほどの住民が集まってくれた。


「ようこそ、集まってくださいました」


 と父上殿が挨拶をするが、誰もそれに応えてはくれない。住民のほとんどが、不信感や憎しみを抱いたような顔をしている。

 違うのは子供たちだ。彼らはある場所を見つめている。

 父上殿がせっせせっせと量産した、光魔法を付与した魔石。その明かりに照らされたテーブルには、たくさんの料理が並んでいた。

 量は多いけど、種類は少ない。立食だし、何より手で食べられる物に限定しているからな。


 父上殿の話は、まず自己紹介から。俺たち家族も紹介され、執事長から騎士団長、親方も同じように紹介される。さすがに他の人は割愛になってしまうけど。


「ここでみなさんと、より良い町にするため協力させていただきたい。そしてみなさんからの協力も得たいと思っています」


 そう話す父上殿に向けて、ついに不満の声が上がった。

 これを待っていたのだよ、俺たちは。


「なにがより良いだ! どうせてめぇも奴とは違わねえんだろうが!」

「奴が国からの金を着服しとったから、わしらの暮らしはひとっつも良くなりゃせんかった」

「あんたもどうせあいつと同じなんでしょ!」

「そうだそうだ! こんなご馳走を用意したって、どうせ今日だけのことだろうよ!」


 んー、村の人にまで着服してたのバレてたのかぁ。まぁそうだろうなぁ。

 次から次へと噴き出す役人への不満。それを父上殿はただ黙って聞いていた。

 そして住民の怒りが絶望へと変わって、しーんっと静まり返った時。

 父上気味は、頭を深々と下げた。


「申し訳ない。その役人は準男爵家の者だったと聞く。同じ貴族として恥ずかしく思うし、みなに申し訳ないとも思う」


 会場内がざわつく。

 貴族が平民に頭を下げるなんてことは、ほとんどといっていいほどない。

 だから彼らは今、何が起きているのかわからないのかもしれない。

 

 俺が父上殿に対し、尊敬の念を抱くのはこういうところなのだ。

 この貴族社会にあっても、身分の低い者に対してしっかり謝罪できる点。

 それは相手に寄り添っているから出来ることだ。

 例えその責任が父上殿になくとも、下げるべき時には頭を下げる。

 人の上に立つ者なら、そうあるべきだと俺も思っている。


「そしてもう一度お詫びをしなければいけない。確かにここに並ぶ料理は、これっきりになるかもしれない。この土地でどのくらいの作物が育つのかわからないからだ」


 再びざわつく。

 どうせ今回きりなんだろと聞かれ、はいそうですと素直に答えているのだから驚くよな。

 でも嘘を吐く必要はない。吐いたってすぐバレるのだから無意味だ。


「ですが、少しでも土地が豊かになれば、またご馳走できるかもしれません。そうなる努力はしよう」

「ど、努力ったって、な、何をするってんだっ」

「んー、そうだねぇ。あいにくわたしは今日、ここへ到着したばかりだ。ここがどんな状況なのか、みなさんが何を求めているのか、それはまだ何もわかりません」


 住民たちが顔を見合わせる。子供たちの口元には、もう涎が光って見える。


「だから教えてください」

「お、教えるとは?」

「このゼナスの状況を。そしてみなさんが今もっとも必要としていることを」


 そうして父上殿は俺を手招きした。

 え、お、俺?

 なんか照れくさい気もしながら、父上殿の隣に立った。

 そんな俺の肩を、父上殿が掴む。


「一度に全てを実現することは不可能ですが、一つずつ、着実に解決出来るよう、ここにいる息子、ディルムットと努力しようと思う」

「あ、えっと……よ、よろしくお願いします」


 父上殿にならって頭を下げる。

 ざわざわと、より一層会場がざわついた。


 顔を上げた時、ひとりの子供と目が合う。ジークたちと同年代の子だ。

 その子は目に涙を、口には涎を浮かべていた。

 はは、もう限界だろうな。


「父上、そろそろ終わりにしないと、泣きだす子が出ますよ」

「え? な、長かった? すまない。えっと、では今日だけのご馳走を、どうか楽しんでいって欲しい」


 父上殿がテーブルに向かって手を広げると、我慢の限界だった子供たちが一斉に駆け出す。

 そこに並んだ竹筒で焼いたパン、フラワースコーピオン焼き。それから竹串に刺して焼いた根菜類を手掴みし、勢いよく頬張っていく。

 結局サソリを焼いたのは、父上殿の火魔法だ。魔石も使ったが、火力が足りずに仕上げは父上殿の魔法に頼ることになった。

 フラワースコーピオンは火を通すと真っ赤に色づき、それはまるで……そう、まるで蟹!


「どんな味かなぁ」


 俺も子供たちにならって手で身を掴んで口へと放り込む。

 ん……んんん!!


「うっまっ。蟹だ、これ完全に蟹の味だ!」


 焼き蟹なんて、前世だと会社の忘年会で一回食べたことあるだけ。それでもあの時の衝撃の美味さが、今この瞬間に蘇った。

 感激していると、子供たちと目が合った。

 さ、騒ぎすぎたかな?


「ねぇ、かにってなぁに?」

「え? あ、あぁ。この辺じゃ蟹は見ないのか」


 この世界にも蟹はいるし、蟹料理もある。だけど輸送に時間がかかるため、海の蟹は早々手に入らない。入っても鮮度が落ちている。

 一度、料理長が蟹を仕入れてきたけど、腐っていた。


「だけどまさか、こんな荒野で蟹が食べられるなんて。いや蟹じゃないけど」

「いますよ、蟹」

「ロ、ロバート卿!? か、蟹がいるって?」

「はい。フラワースコーピオンがいるってことは、マッシュルームキャンサーもいるはずですから」


 ……マッシュ……ルーム……。


「あの、それってキノコが生えてますか?」

「お! ディルムット様、よくおわかりになられましたね」


 わからないでか!

 

「ちなみに背中のキノコは、傘の部分に毒がありますが、柄の部分は食べられますよ」

「んなっ。なんだって!?」

「こいつと違って、奴の背中のキノコは本物ですから。普通にキノコの味ですよ」


 食ってみたい!

 という願望が顔に出てしまっていたのか、ロバート卿が胸をドンっと叩き「お任せください」と言った。

 俺はもちろん、周囲の子供たちまで「おぉぉ」っと感嘆する声と拍手で卿を見つめた。


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