23:わぁ……やっぱりアレだぁ
「わぁ……やっぱりアレだぁ」
ゼナスの村の東側、断崖絶壁の下と上にそれはあった。
「アレってのはなんでぇ?」
「え? あ、いえなんでもないですよ。親方、何本か切っていただけますか?」
「おう。任せときな」
「それとあっちの枯れたものも欲しいですね」
宰相閣下が仰っていた「一風変わった木」がここにある。
真っ直ぐ伸びたそれは、幹に当たる部分も緑色をした――竹だ。
この世界にも竹があったとは驚きだし、こんな荒野同然の土地に生えていたことは二重の驚きだった。
宰相閣下は細いと仰っていたけど、俺がイメージする竹よりやや太い気がする。直径二十五センチぐらいあるんじゃないかな。
そして太いのは外見だけじゃなかった。
「ほぉ。本当に中が空洞になってらぁな」
「ぶ、分厚いな」
「そうか?」
竹幹って、こんなに分厚かったっけ? いやもっと薄いはずだ。
中が空洞なのは俺が知る竹と同じだけど、その厚みが全然違う。七、八センチほどもある。
竹を知らない親方が「分厚い」という言葉に疑問を感じても仕方がない。
「んあ? なんだこりゃ。水が溜まってんじゃねえか」
「え、水ですか? うわっ、本当だ」
親方が切った部分のその下、竹筒の中には水が溜まっていた。
もしかして他の節にも?
と思って、親方に一節分切ってもらったけど、ない。
別の竹を切ってもらうと、ドバっと水が零れた。
「どうやらこいつぁ、地面に近いところにだけ溜まってるみてぇだな」
「こんな痩せた土地で水を……この下に地下水路でもあるんですかね?」
「かもしれねぇな。少ねぇ水を幹ん中に閉じ込めて、雨のすくねぇ季節を乗り越えてんのかもしれねぇな」
地球の竹には、たぶんそんな機能ないはずだ。異世界ならではなんだろうか。
「この水がありゃ、畑に撒く分には使えんじゃねえか?」
「でもそうすれば、竹が枯れてしまうんじゃないですかね」
「たけ? なんだそりゃ」
「え……あっ。ほ、ほら。こんなにタッケー木ですから、その、竹」
しまった。竹なんて名前の木はないんだった。
「ふむ、たけ……か。たっけーから竹なぁ。坊、ネーミングセンスはねえようだな」
ほっといてくれ! 第一、俺が考えた名前じゃないし!
他のドワーフたちが切ってくれた枯れた竹の方だが――。
「いやぁ、水なんか溜まってなかったですぜ」
――とのこと。
やっぱり水がなくなると枯れるんだろうか。それとも純粋に竹の寿命だったのか。
だけど枯れたヤツは、竹林の外側に集中していた。
うぅん。何か理由があるんだろうか。
けど今はそれを調べている暇はない。これを持ち帰って、パーティーの準備に取り掛からなきゃいけないのだから。
わっせわっせと竹を運び、領主の館まで戻ってきた。
枯れた奴は燃料として使う。
確か竹って燃えやすいから気をつけろって、なんかネットで見た気がする。
でも他に薪がないから仕方がない。
「青々とした竹の方は、節ごとに切って縦割りにしてください」
「節? これか。で、切ってどうすんだ」
「内側にオイルを塗って――あ、料理長。この中にパンの生地を丸めて入れてください。あとは直火で焼けばいいと思いますので」
「え、それでパンを焼くんですか?」
これもネットの動画で見た気がする。バーベキューなんかでやるそうだ。
キャンプ、いいなぁっと思いながら見たんだっけか。
館の中にある竈じゃ、さすがにこの人数分のパンを焼くのは不可能だ。
宰相閣下が言ってた木は、もしかして竹かなと思っていたから確かめに行ったんだけど。竹でよかった。
「ただいま戻りました。いやぁ、良い獲物を見つけましたよ」
「あっ、おかえりなさいロバートきょわあぁぁぁぁっ」
ロバート卿と数名の騎士たちが押す荷車に乗っていたのは、巨大なサソリだ!
いや、でかっ。何メートルあるんだよ。成人男性より余裕でデカいだろ。
「おほっ。フラワースコーピオンじゃねえか。こいつぁ美味ぇぜぇ。かぁー、酒でもありゃあなぁ」
「フ、フラワー?」
「ディルムット様、こちらです。このサソリの足先に、花に似た器官がありまして」
うわ、本当だ。紫色の花みたいなのがある。でもよく見ると、本物でないのがわかった。
「もしかして、これで獲物を釣って捕食するんですか?」
「その通りです。よくお分かりになられましたね」
「いやぁ、はは、ははははは。で、でもよくこんなの見つけてきましたね」
一体じゃない、三体ぐらいある。これなら二、三日分の食料になるんじゃないかな。
「ロバート隊長が、元冒険者でよかったですよ」
「地面に半分潜ってて、我々では気づきませんでしたから」
「楽しそうに剣を抜いて岩に斬りかかった時には、辺境に来ておかしくなったのかと思いましたけどね」
うんうんと騎士たちが頷くと、ひとりひとりの頭にロバート卿がげんこつを入れた。
頼もしい人がここにもいる。
「で、これってどう調理するんですか?」
「そうですね。焼いて食べるのがほとんどでしたが……親方はどうされていましたか?」
「わしも同じだ。焼くだけで十分美味かったからなぁ」
焼きサソリかぁ。火力の燃料、足りるかな。
もしもの時は父上殿に頑張っていただこう。
あとは。
「にぃちゃま~」
「兄上~」
ティファニーとジーク、それから護衛の騎士たちが戻ってきた。
彼らには町の方へ行ってもらい、宣伝してきてもらったのだ。
「坊ちゃん。やはり村の住民はほとんど家の中におりました」
「やっぱりですか。わざと出てこなかったんですね」
父上殿の読み通り、歓迎されていないようだ。
だから二人には笑顔で「今夜、領主の館で歓迎パーティーをします」と宣伝して回ってもらった。
そして護衛の騎士たちには「これは命令である」と、強制参加である旨を触れ回ってもらっている。
そうでもしなきゃ、誰もきてくれないだろうからね。
「さ、二人とも。会場作りを手伝っておくれ」
「「はーい」」
喜んでもらえるといいんだけどなぁ。




