12:ま、まさか錬金魔法のことを知られた!?
「まさか錬金で、クズ水晶を合成するたぁなあ。錬金術じゃ、んなこたぁ出来ねえぜ」
「そこが魔法と術の違いなのかな」
お茶会から半月、今日も俺は選別場でお仕事中だ。
術――といっても、スキルのことじゃない。錬金術はスキルではないし、知識と技術によって行う作業のひとつだ。
俺はそれを魔法で行う。
魔法だからそこには魔力が加わって、錬金術では出来ないことも出来るようになった。
ティファニーにもプレゼントしたピンク水晶。
鉱山で取れる鉱石には、稀にピンク水晶が含まれていた。ほとんどが小さく、それだけだと大した加工も出来ないようなサイズだ。
だから、合成して大きな粒にしたってわけ。
「まぁ出来るかどうかわからず、試してみたら出来たんだけどね」
「試そうと思うことがそもそも、わしらには思いつかんな」
「それはさ、錬金術では出来ないから、親方が出来るとは思ってなかったからじゃないかな」
錬金術じゃ出来ない。出来なくてあたり前なんだ。錬金魔法も錬金術も同じ――そう思えば、出来るなんて発想が浮かばなくても仕方がない。
「んでさ、親方。これを見て欲しいんだ」
「んあ? なんでぇ、これってのは」
鉱石の中に混ざっていた紫水晶――アメジストを五つ並べる。どれも色が薄く、純度の低いアメジストだ。価値をしては、あまりいいものではない。
それを錬金魔法で合成する。でもただの合成ではない。
ティファニーのプレゼント用にピンク水晶を合成している時に、新しく出てきた錬金項目があった。
「たぶん、錬金魔法の熟練度が上がって出来るようになったやつだと思うんだ。――純度合成」
「じゅ、純度合成だと。ま、まさか――」
お頭が見つめる中、魔法陣が輝く。
五つのアメジストが交わり、七色の光の中で一つになる。光が収まると、そこには色が濃くなったアメジストがひとつだけ転がっていた。
「なっ。なんてこった……石が一つになりやがった。しかもサイズが大きくなるんじゃなく、宝石としての価値をあげやがるとは」
「純度があがってるよね? 市場に出せるぐらいの価値になった?」
すぐにお頭がルーペを取り出し、アメジストを鑑定する。
ドキドキ。
「あぁ。こいつぁ一級品だ。もうちょいサイズが大きければ、2000ペレーはくだらねえんだがな」
「サイズを大きくするには、もう少し素材になるアメジストの数が必要ですね」
2000かぁ。前世と今世の相場だと、1ペレーってのは百円相当なんだよな。
二十万円のアメジスト……この世界だとアメジストの価値が高いのだろうか。まぁ物量が少なければ価値は出るけど。
「坊ちゃん。お屋敷の方にお客様がいらっしゃっております」
「マーガレット、ありがとう。お客様って?」
「ホーヘンベルク侯爵様とご子息のフェリクス様です」
侯爵家の方が? もしかしてランドファスの件だろうか。一応、被害にあった子爵家には謝罪の品を送ったんだけども。届いてない?
「親方、この件はまた今後」
「あぁ。ちーと顔が疲れてるぞ。さっきのは魔力の消費が多いようだな。今日はもうこっちに来なくていいから、しっかり休め」
「見抜かれちゃいましたか。そうなんです。純度合成は魔力の消費が多くて……。また明日来ますね」
まだまだ俺の魔力も足りてないな。もっともっと頑張らねば。
マーガレットと一緒に屋敷へと戻り、彼女に手伝って貰って簡単に身支度を済ませる。
案内されたのは応接間だ。そこにいたのはフィリクス様だけ。
「いらっしゃいませ、フィリクス様。……どうかなさいましたか?」
神妙な面持ちのフィリクス様。侯爵様がここにいらっしゃらないということは、父上殿と別室だな。
「はぁ……やられたかもしれないのだ、ディル」
「やられた? いったい誰に、何を?」
フィリクス様が顔を上げ「ランドファス」と答える。
ランドファスが……やった……まさか!?
「あ、あいつが侯爵家で何か盗んだのですか!?」
「証拠はない。だがそう思わせるだけの材料はある」
「いったい何を盗まれたのでしょうか。あいつが他の家門から盗んだものは、羽根ペンだとかオモチャ、本の類でしたが」
さすがに他所のお宅で金目の物を盗むのはよくないと理解しているのか、高価なものに手を出すことはなかった。いや安かろうが高かろうが盗みは盗みだ。悪いことに変わりはない。
「それが……ひいおばあ様の形見で、母が大事にしていたネックレス……なんだ」
「ネックレス!?」
じ、冗談だろ? あいつ、これまで貴金属には手を出してこなかったくせに。
いやうちでは容赦なく盗んで行ってたけど。
「そ、それで、ランドファスが犯人だと思わせる材料って?」
「あぁ。先日のお茶会の際に、本邸をうろつくランドファスとグスタフの二人を見た者が何人もいてね」
「本邸に? 来賓の控え室は別邸だったはずだから、本邸に入る用事はない……か」
あいつは招待状を持ってなかったし、知らなかったのかもしれない。でも事前に話は受けていたはず。まぁ人の話を聞いてない可能性も大だけど。
「ネックレスを置いていた母上の支度部屋近くを、その二人が歩いていたのも目撃されているんだ」
「はい決定。犯人は奴です」
なんてバカなことをしてくれたんだあいつは!
そこで侯爵様は、なんとか穏便に済ませようと父上殿の元へやって来たというわけだ。
「それとなく取り返してくれればそれでいい。だが万が一、ランドファスが犯人でなかった時の事を考えると……あの伯爵だ。どんな難癖をつけて来るかわからない」
「仰る通りです。侯爵様自ら、直接行くことは控えた方がいいでしょう」
うちの息子をよくも犯人扱いしてくれたな。慰謝料を請求する!
とか本気でやりかねないからな。
侯爵様と父上殿の話が終わり、フェリクス様と共にご帰宅された。
それからこっちの会議だ。
結局、
「父上にご相談しよう」
「おじい様にですか? そうですね、それしかないですよね」
爵位を譲り、田舎へと隠居なさったおじい様。
これまでもランドファスが他家から盗んだ品は、おじい様の方で回収して返却なさっている。もちろん、お詫びの品を添えて。
話を聞く限り、フェリクス様の母方の、亡くなったひいおばあ様の形見だと言っていたけど。きっと高価なものだったんだろうな。
お詫びの品、いったいどれぐらいのものを用意すればいいんだ。
お茶会で侯爵家のものが盗まれた――ということが世間に出回る前に、早くなんとかしないと。
そう思っていた矢先。
「親方、この前の十二番坑道の件ですが、やっぱり塞いだほうが――」
「た、大変だ坊ちゃん!」
「えぇい、またかボヤーズ!」
「へ、へい親方。そう、またなんですよ。坊ちゃん、また奴が――クソ伯爵が来てるんですよ」
な、なんだって!?
おじい様に手紙を出したのか昨日だ。届いているわけがない。
何をしに来たんだ、クソ伯父上殿は。
急いで砂を払い、身支度をして屋敷へと向かう。綺麗にしておかなければ、選別場に通っていることが知られてしまうかもしれない。そうなると錬金魔法のことで変に勘繰られるので、いつも奴が来た時には身綺麗にしてから帰る様にしていた。
「おかえりなさいませ、お坊ちゃま」
「ただいま。じぃ、伯父上は?」
「そ、それが……」
執事長が眉尻を下げ、二階を見上げる。その視線の先にあるのは――。
「僕の部屋!?」
「は、はい。おとめしたのですが、強引に」
これまでクソ伯父上殿が俺の部屋に入ることなんてなかった。
ま、まさか錬金魔法のことを知られた!?




