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追放された俺、【神農具】で最強農家に! ~聖女も令嬢も俺の野菜に夢中。今さら実家(雑草)に泣きつかれても遅いんだが?~  作者: うはっきゅう


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第三話:爆裂トマトと村娘

「畑、はじめました、じゃねええええ!」


 リック村長の絶叫が、新しく生まれ変わった漆黒の大地に響き渡った。 無理もない。 数時間前まで、ここは雑草すらまばらにしか生えていない、死んだ荒れ地だったのだ。 それが今、どうだ。


 見渡す限り、しっとりと水分を含んだ極上の黒土。 そして、そこにまるで森のようにそびえ立ち、赤ん坊の頭ほどもある巨大な「トマト」を無数に実らせている、謎の植物群。 極めつけは、その中心に立ち、伝説の武器みたいなクワを肩に担ぎ、「畑、はじめました?」などと呑気なことを言っている、元貴族の三男 ※追放済み。


「坊主…いや、アルト…。お前さん、一体、何者なんだ…?」 リック村長の顔は、驚愕と、ほんの少しの恐怖で引きつっていた。 無理もない。これはもはや、魔法の領域を超えている。神の御業みわざか、あるいは悪魔の所業か。


「い、いや、リックさん、これはその…俺のスキルがちょっと、その…目覚めた、みたいな…」 俺がしどろもどろに説明しようとした、まさにその時だった。


 キィィィン! カァァァン!!


 村の中心部から、甲高い警鐘の音が響き渡った! 一度ではない。狂ったように、何度も、何度も!


「「!?」」俺とリック村長の顔色が変わる。 あの鐘は、村が設立されて以来、数えるほどしか鳴らされたことがないという、最上級の非常事態を告げる合図だ。


「魔物だ!」 リック村長が、顔面蒼白になって叫んだ。


 その言葉を裏付けるように、村の方角から複数の悲鳴が上がり始めた。 「ギャアアア!」 「ゴブリンだ! ゴブリンの群れだぞ!」 「数が多い! クソッ、自警団は武器を持て! 女子供は奥へ!」


「まずい!」 リック村長が、錆びた剣を抜きながら走り出す。 「アルトの坊主! お前はここに隠れてろ! その畑は…なんだか分からねえが、とにかくここに!」


 隠れてろ、か。 その言葉が、俺の胸に突き刺さった。


(そうだ、俺は戦えない) (剣も魔法も使えない、役立たずの雑草だ)


 追放された日の記憶が、イザベラの嘲笑が、脳裏をよぎる。 足が、鉛のように重くなった。 恐怖で、膝が笑っているのが分かる。


 《主よ》


 脳内に、ガイアの冷静な声が響いた。


 《何を恐れる》 「だ、だって、俺は…戦い方なんて…!」 《戦う? 違うな。汝は『農家』だ。汝が為すべきは、戦いではない》 「じゃあ、何を…」 《『害獣駆除』だ》


 ガイアは、こともなげに言い放った。


 《主の畑を荒らしに来た、不届きな害獣どもを、駆除する。それだけのことよ。そして――》


 ガイアの声が、力を帯びる。


 《汝の目の前にある()()は、そのために実ったのだ》


 俺は、ハッと顔を上げた。 目の前には、燃えるように真っ赤な【爆裂トマト】が、たわわに実っている。 まるで、「使え」と言わんばかりに、怪しいほどの艶を放ちながら。


「……害獣、駆除」


 そうだ。 ここは、俺が耕した畑だ。 このテルマ村も、俺がこれから世話をする「畑」の一部だ。


 それを荒らす奴らは、ゴブリンだろうがドラゴンだろうが、全部「害獣」だ。 農家として、見過ごすわけにはいかねえ!


「うおおおおお!」 俺は叫び、森のように茂るトマトの群れに飛び込んだ。 【奇跡の豊穣】スキルが発動しているのか、俺が手を伸ばすと、トマトはまるで自ら枝を離れるかのように、簡単に収穫できた。


 ズシリ。 赤ん坊の頭ほどもあるソレは、見た目以上に重い。 生命力がパンパンに詰まっているのが、手のひらを通して伝わってくる。


 俺はそれを両腕に2つ、3つと抱え、村の中心部へと全力で疾走した!


「クソッ! 押し切られる!」 「だめだ! ホブゴブリンがいるぞ! デカいやつだ!」


 村の広場は、すでに地獄絵図と化していた。 数にして30匹は超えるだろうゴブリンの群れが、粗末な棍棒や錆びた短剣を振り回し、村の自警団を圧倒していた。 自警団はわずか5人。リック村長を含めても6人だ。 しかも、群れの中には、通常のゴブリンより一回りも二回りも大きく、筋骨隆々とした「ホブゴブリン」が3匹も混じっている。あれはC級冒険者パーティでも苦戦する相手だ。


「リリア! 逃げろ!」 「いやっ! お母さん! お母さんがまだ家の中に…!」


 広場の隅で、見覚えのある少女がゴブリンに詰め寄られていた。 確か、俺に芋のスープを運んできてくれた、リック村長の娘の「リリア」だ。 彼女は、小さな子供を庇うように立ちふさがっているが、その足は恐怖で震えていた。


 ニタリ、と。 ホブゴブリンの一匹が、下卑た笑いを浮かべ、リリアに狙いを定めた。 その手には、人間の頭蓋骨ほどもある、巨大な棍棒が握られている。


「やめろォォォ!!」 リック村長が叫ぶが、他のゴブリンに阻まれて間に合わない!


 ホブゴブリンが、棍棒を振り上げた。 リリアが、ギュッと目を閉じた。


(間に合えェェェ!!)


 俺は、その瞬間、腕に抱えていた【爆裂トマト】の一つを、野球のピッチャーが投げるかのようなフォームで、渾身の力を込めて投げつけていた!


「俺の(ムラ)に足を踏み入れるなァァァ!!」


 ヒュオッ! 真っ赤な砲弾と化したトマトが、風を切り裂き、正確にホブゴブリンの顔面に向かって飛んでいく。


「……グベ?」


 ホブゴブリンが、何か間抜けな声を上げた。 次の瞬間、トマトがその顔面にクリーンヒットした。


 グチャ。 鈍い音が響く。


 ………。


 広場にいた全員――ゴブリンも、村人たちも、一瞬、動きを止めた。


(あれ? 不発?) 俺は一瞬焦った。 ただの硬いトマトだったのか?


 だが、ガイアは言っていた。 【爆裂トマト】と。


 そして、コンマ数秒後。


 ドゴォォォォォォーーーーーン!!!


「「「「は?」」」」


 全員の、思考が停止した。


 トマトが、文字通り「爆発」したのだ。 凄まじい爆音と衝撃波が、広場全体を揺るがした。 直撃を受けたホブゴブリンは、()()()()()()()()のか、首から上を真っ赤な「何か」に変え、巨体を仰向けに吹き飛ばした。


 それだけじゃない。 爆発の余波で、ホブゴブリンの周囲にいたゴブリン数匹も、まるで紙切れのように吹き飛び、壁や地面に叩きつけられていた。


「…………え?」


 リリアが、呆然と目を開けて、その光景を見ていた。 リック村長が、振り上げた剣を止めたまま、硬直していた。 他のゴブリンたちも、何が起こったのか理解できず、キョロキョロと辺りを見回している。


 広場に広がるのは、焦げ付いたような匂いと…なぜか、非常にフルーティーで、甘酸っぱいトマトの香り。


「……マジかよ」


 俺自身が、一番驚いていた。 これが、【神聖農業】の力。 これが、【爆裂トマト】。


 《フハハハハ! 言ったであろう、『元気』な実だと!》 ガイアが、脳内で高笑いしている。 《生命力が凝縮しすぎた結果よ! 害獣駆除には、うってつけだろう!》


「うってつけ、どころじゃねえ!」


 俺の叫びで、ゴブリンたちが我に返った。 仲間を吹き飛ばされた怒りか、あるいは本能的な恐怖か。 残りのゴブリンたちが、一斉に俺――新たな脅威――に向かって殺到してきた!


「グギギギ!」 「ガアアアア!」


「来やがれ、雑草どもがァ!」 俺は、追放された時の鬱憤を全て晴らすかのように、吼えた。 「テメェら全員、俺の畑の肥やしにしてやるぜ!」


 俺は、抱えていた残りのトマトを、次々と投げつける!


「食らえ! 一発目ェ!」 ドゴンッ! ゴブリンの群れのど真ん中に着弾! 3匹まとめて吹き飛ぶ! 飛び散った真っ赤な果汁が、他のゴブリンの皮膚にかかる。


「ギギギ!? ギィィィ!?」 果汁がかかったゴブリンたちが、苦しみ出した。 見ると、果汁がかかった部分の皮膚が、ジュウジュウと音を立てて溶けている!


「うわ、強酸性かよ!?」 《生命力の塊故な。魔物のような()()()()()とは、とことん相性が悪い》 「最高だぜ、ガイア!」


 俺は、一旦畑に戻り(と言っても、広場のすぐ近くだ)、さらに両腕いっぱいの【爆裂トマト】を収穫する。 【奇跡の豊穣】スキルのおかげで、もぎ取ったそばから、次の実が(まだ青いが)再生し始めている。なんだこれ、無限弾薬かよ!


「二発目! 三発目ェ!」 ドガーン! ドゴォォォン! もはや、ただの農家とは思えない、正確無比な投擲スローイング! 俺の【神聖農業】スキルは、投擲の精度まで補正してくれているらしい!


 阿鼻叫喚。 広場は、ゴブリンたちの断末魔と、トマトの爆発音で埋め尽くされた。 残っていたホブゴブリンも、爆発に巻き込まれて動けなくなったところを、リック村長たち自警団がとどめを刺していく。


「す、すげえ…」 「なんだあれ…」 「アルトさんが、ゴブリンを、トマトで…?」 自警団の人たちが、戦いながらも呆然と呟いている。


 そして、数十秒後。 あれほど脅威だったゴブリンの群れは、広場に転がる「赤いシミ」と化していた。


「……ハァ、ハァ……」


 静寂が戻った広場に、俺の荒い息遣いだけが響く。 手には、投げそびれた最後の一個のトマトが握られていた。 まだ温かい。まるで、生きているみたいだ。


「……俺が、やったのか…?」 剣も魔法も使えなかった、この俺が。 村を、みんなを、守った…?


「あ、あの……!」


 か細い声に、俺はハッと振り返った。 そこには、尻餅をついたまま、俺を呆然と見上げているリリアがいた。 彼女は、俺の姿(トマトの果汁まみれ)を見ると、ビクッ、と体を震わせた。


(やべ、怖がらせたか? 人が育てたとは思えないトマト投げて爆殺とか、普通にドン引きだよな…)


 俺が、どう弁明しようかと口ごもった、その時。


「あ、アルトさん……!」 リリアは、恐怖で震えていたんじゃない。 その頬は、トマトのように真っ赤に染まっていた。 恐怖ではなく、別の何かで潤んだ瞳で、俺を真っ直ぐに見つめていた。


「すごい…! すごかったです…! かっこよかった…!」


「…………え?」


 か、かっこよかった? トマト投げてただけだけど?


「(え? なにこの展開?)」 俺が、人生で初めて女の子から好意的な視線を向けられ、完全にフリーズしていると。


「坊主……いや、アルト様…!」 リック村長が、震える足で俺に歩み寄ってきた。その顔は、恐怖でも驚愕でもなく、今はただ「尊敬」の色に染まっていた。 「あんたは、一体…いや、あんたは、この村の…救世主だ!」


「アルト様なんてやめてください、リックさん」 俺は、照れ隠しと、まだ高ぶる興奮を抑えるように、ニカッと笑ってみせた。 「俺はただの…そう、ただの『農家』ですよ」


 その言葉を合図にしたかのように、家々から恐る恐る顔を出していた村人たちが、せきを切ったように広場になだれ込んできた。


「うおおおおお!」 「助かったぞ!」 「アルトさんのおかげだ!」 「あのトマト、すげえ!」 「ありがとう、アルトさん!」


 歓声。 賞賛。 感謝。


 俺が18年間、実家で一度も向けられたことのない感情の奔流が、俺に叩きつけられる。


「あ…」 目頭が熱くなった。 雑草だった俺が、初めて、誰かに必要とされた。 誰かを、守ることができた。


 俺は、歓声の中心で、左手に握られた【爆裂トマト】と、右手にいつの間にか戻っていた相棒クワ――【ガイア】を、強く、強く握りしめた。 追放された雑草は、今日、この辺境の地で、村を救うヒーロー(最強農家)として、その第一歩を、確かに踏み出したのだった。

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