第九十七話 創造対虚無〈ジェネシス・バーサス・ゼロ〉
光の海が、悲鳴を上げた。
無定形絶対虚〈アナイア・ゼロ〉が放つ闇は、光を飲み込み、星々の原初を溶かし、存在の境界を削り取ってゆく。
『創造。否定……世界、不要……』
その“声”は、耳に届くより前に精神をえぐる。
意思そのものが分断されるような痛みに、蓮は奥歯を噛みしめた。
「くそっ……圧力が桁違い……!」
「ここは“創世の座”の手前だもの。創造の前に、それを拒む絶対虚無が現れるのは当然よ」
イリスは蓮の隣に立ち、白銀の光を広げた。
彼女の光は、虚無の消去波を押し返し、蓮の意識を守る盾となっている。
「蓮。あなたは前に進むだけでいい。虚無の“意味”は、私たちが押し返す」
蓮は息を整え、仲間たちのほうへ目を向けた。
◆ ◆ ◆
「来るわよ――!」
リーナが炎槍を構え、空間を裂く虚無の触手を一撃で焼き払った。
「ぐっ……! “燃えない”はずの空間が普通に燃えてるって、どういうことよ!」
「それはリーナさんの情熱が物質化してるだけです」
ノアが冷静に補足した後、手元の魔導装置を光らせた。
「解析完了。虚無の構成は“空っぽ”じゃない。一種の情報体……“存在の否定データ”だ!」
「つまり、上書きできるってことね!」
マリルが魔法陣を展開する。
「創造の魔力をぶつければ、虚無の“否定記録”を消せるわ!」
「お前が一番理解してんじゃん!」
とリーナ。
「まあね! 伊達に毎日勉強してないわよ~!」
二人の魔力が重なり、光炎の奔流となって虚無へと降り注いだ。
◆ ◆ ◆
シャムとカイエンは左右から回り込むように前進し、虚無の塊と衝突した。
「うおおおっらぁ!!」
シャムの槍が空間を裂き、虚無の奥へと刺し込む。
「虚無に“当たり判定”があるのが面白いな」
カイエンは剣を構え、戦闘計算を一瞬で終えた。
「蓮の創造権が及ぶ範囲だからこそ……触れられるってわけか」
「……たまにお前、頭よすぎて怖ぇんだよ」
「お前が脳筋すぎるだけだ」
「言うじゃねぇか!」
虚無の渦が二人を飲み込もうとする。
だが、ネフェリスがそれを阻んだ。
「――《星歌の序曲》」
ネフェリスの歌が光の波を生み、虚無の侵食を一時的に停止させる。
「今のうちに……! 蓮、前へ!」
蓮は頷き、胸元の星命核〈スターノード〉を握った。
(――俺の創造は、みんなの想いと一緒じゃなきゃ完成しない)
蓮が一歩踏み出すたびに、空間に“道”が生まれる。
それは単なる光ではなく、未来へ続く“存在の線”だった。
◆ ◆ ◆
だが、虚無も黙ってはいなかった。
『創造……排除……存在、拒絶……』
重低音のような波動が空間全体を震わせ、
光の海に巨大な裂け目が生じた。
「! 波がくる、蓮下がれ!」
ミストが警告する。
遅かった。
虚無の奔流が蓮へ迫り――
「させるかァァァァァッ!!」
シャムが咄嗟に飛び込み、蓮の前に立った。
虚無の触手が彼の腕を削り、痛々しい傷を刻む。
「ぐっ……いってぇ……!」
「シャム!!」
リーナの叫びが響き、怒りの炎が爆発した。
「人の――私の仲間を……!絶対に許さない!!」
燃え上がる炎剣が虚無の根源部へ叩きつけられた。
その一撃は虚無の表層構造を砕き、空間中に散らす。
「シャム、大丈夫!?」
「へっ……このくらい、筋肉が勝手に治す……」
「治らないから! 後で蓮に癒してもらいなさい!」
蓮は駆け寄り、即座に治癒魔法を当ててシャムの腕を再構築した。
「悪い……助かった」
「助かったのは俺の方だよ」
蓮はまっすぐシャムの目を見る。
「お前みたいな仲間がいるから……俺は創れるんだ」
シャムは照れたように鼻をこすった。
「……言うじゃねぇか」
◆ ◆ ◆
虚無は形を変え、次々と複製を生み出す。
『存在。排除。存在。排除。存在……排除……』
「チッ……増えてきましたね……!」
ノアは魔法陣を連続展開しながら叫ぶ。
「因果の“否定パターン”は四種!
こちらの創造力が上回らない限り、永遠に増殖します!」
「永遠なんて……」
蓮は胸の奥から力が湧き上がってくるのを感じた。
「――俺が潰す!」
蓮が星命核を掲げ、力を解放する。
「《創界顕現――ゼロ・オーバードライブ》!!」
蓮の背後に光の翼が広がり、
仲間たちの魔力が結晶となって蓮の体へ流れ込む。
虚無が一瞬怯んだように揺れる。
『創造……拒絶……! 圧力……上昇……!』
蓮の一歩が、世界を震わせた。
「虚無が何を否定しようが関係ない」
蓮はまっすぐ虚無を指差す。
「俺たちは――“世界を創りたい”と願ってる!」
「「「そうだ!!!」」」
仲間たちの声が重なる。
蓮は仲間の力を束ね、創造の光を拳に集中させた。
「これが……俺たちの世界の力だぁぁあ!!」
星光を纏った拳が虚無を直撃し、闇全体が大きく抉られる。
虚無は断末魔とも取れない波動を放ち、光の海に巨大な衝撃波が広がった。
『……存在……理解不能……創造……強度……想定外……』
「まだ終わりじゃない」
蓮は呼吸を整えながら、さらに前に進む。
「ここで倒れたら、俺たちの世界は生まれない。だから――前へ!」
虚無の中心へ向かって、蓮は走り出した。
仲間たちも同時に走る。
創造と虚無の戦いは――いよいよ最終局面へと突入しようとしていた。
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