第九十六話 創世の座〈ジェネシス・スローン〉
――光の海。
それが、蓮たちの足元から視界の果てまで広がっていた。
星々の原型となる粒子がゆっくりと循環し、波となり、呼吸するように揺らめく。
この空間そのものがひとつの生命のようだった。
「ここが……“創世の座”へ続く道……」
イリスは静かに呟いた。
彼女の髪が、光を浴びて虹色に輝く。
「空間固有の法則が薄い……。」
ミストはタブレットをかざし、眉をひそめた。
「ここでは、思考や感情さえ“物質化”のトリガーになり得る。慎重に進んで」
「慎重って言われてもなぁ……足場ねぇぞ?」
シャムが足元を見下ろすが、そこには“何もない”。
ただ、今歩いているのは蓮の「意思」が作った“仮の床”だった。
蓮は深く息を吸った。
(――俺の一歩が、世界の形になる)
重圧ではあった。
だが同時に、心の底から湧き上がるものがある。
期待。
未来。
創造への渇望。
◆ ◆ ◆
「蓮」
イリスが歩きながら声をかけた。
「あなたは……怖くないの?」
「怖いさ」
蓮は即答した。
「世界を創るなんて……選ばれたわけでも、望んでいたわけでもない。ただ、流れの中で選択してきただけだ」
イリスは微笑み、蓮の手を握った。
「それでいいのよ。神になるのに“資格”なんていらない。必要なのは……迷いながらも進む意志だけ」
リーナが横から割り込んだ。
「迷ったら私が殴ってでも前に押し出すからね!」
「……暴力による創造補助ってどうなんだ?」
とノア。
「効率はよさそうだな」
カイエンが肩を揺らす。
「ええ~!? ちょっと皆ツッコミ厳しくない!?」
軽口に混じって、空間が明るく揺れる。
この場所では、感情の“揺らぎ”が世界に反映されていた。
だからこそ――奥から聞こえた声が、強く響いた。
「……愚かな。感情など、“世界”を乱すノイズにすぎぬ」
蓮たちは反射的に身構えた。
光の海が裂け、巨大な影が姿を現した。
形を成しているようで成していない――星々の死骸を寄せ集めたような、虚無の質量。
「……あれは……“大いなる虚無”……?」
ネフェリスの声が震える。
ミストは解析結果を見て、血の気を失った。
「違う……もっと根源的。世界が誕生する前に存在した“概念の深淵”。あれは――“無定形絶対虚〈アナイア・ゼロ〉”」
オーバー・コードが姿を現した。
「そうだ。創造における“対”の存在、破壊の原型。世界の始まりが“光”なら、アナイア・ゼロはその“影”。」
虚無は声のような、無音の絶叫のような波動を発した。
『……創造。否定。無価値。世界、不要。存在、誤謬。』
「こいつ……“創るな”って言ってやがる……?」
シャムが槍を構える。
『創造は、歪み。生命は、失敗。意思は、不要。ゆえに――還れ。』
蓮は一歩前に進んだ。
「……それでも、俺たちは前に進む」
虚無が揺れた。
光と闇がぶつかり合う。
「世界を創るかどうかを決めるのは、お前じゃない」
蓮は胸に手を当て、強い声音で言い放つ。
「“世界を生きてきた人”だ!」
『生命……価値、なし』
「なら、俺たちで証明してやるよ!」
リーナが炎を纏う。
「誰かを守りたいって気持ちが!人が生きる意味なんだ!」
「怒りも悲しみも全部、世界を創る力だ」
カイエンが剣を抜く。
「ここに来るまで嫌というほど見ただろう?」
「蓮の国を作るために……私たち、どれだけ積み重ねてきたと思ってるのよ!」
マリルの声が震える。
「創造を否定されて……黙ってられないわ」
ネフェリスが静かに歌い始める。
それは魂に触れる歌。
無に対抗する“存在”そのものの歌。
ノアは魔術式を展開した。
「蓮。君の世界への意志は……ゼロには負けない」
ミストが蓮の肩に手を置く。
「世界は因果でできている。あなたの歩みと選択は、無に消されるほど軽くない」
イリスは蓮の手を再び握り、真っ直ぐな瞳で言った。
「レン。あなたの創る世界は……きっと優しい。だから――私は信じているわ」
蓮は仲間たち全員を見渡した。
(……いつもそうだ。俺は一人じゃ何もできない。でも、みんながいるから――前に進める)
「アナイア・ゼロ」
蓮は虚無の巨大な影へと歩み出す。
「お前の言う“無意味”は、俺たちの前じゃ通用しない」
『……創造。否。破壊。必然』
「必然なんかじゃない!」
蓮は叫んだ。
「世界は“選んだ”んだ!俺たちに――創造の未来を託すって!」
その瞬間、蓮の胸元が光った。
星詠の神殿で受け継いだ《星命核》が共鳴し、仲間たちの想いが光となって蓮へ集まっていく。
アナイア・ゼロの虚無が揺れ、空間が砕け、光と闇が暴走する。
「来るぞ――ッ!!」
蓮は、仲間たちと共に全力で構えた。
“創造”と“虚無”の、決して交わらない根源の衝突が始まる――。
◆ ◆ ◆
「創世の座」へ辿り着くための最後の壁。
それが、無定形絶対虚〈アナイア・ゼロ〉。
蓮は深く息を吸い、右腕を前に突き出した。
「――行くぞッ!!」
光が、世界を貫いた。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




