第九十三話 黎明の果てに立つ者〈ジ・オリジン・アーク〉
――光が終わり、音が生まれた。
世界が再び鼓動を取り戻す音。
それは、まるで新しい宇宙が生まれる瞬間のようだった。
蓮は、ゆっくりと目を開けた。
そこは、見知らぬ空――だが、確かに“この世界”だった。
大地には草が芽吹き、遠くの地平にはまだ形を成していない都市の輪郭が浮かんでいる。
「……ここは、どこだ?」
イリスが隣にいた。
彼女の銀髪は淡い光を帯び、まるで星の雫を纏っているかのようだった。
「再創世第二段階……“黎明相”が始まったのよ。ここは新世界の最初の層、“根源大地〈オリジン・フィールド〉”」
リーナ、シャム、ミスト、ネフェリス、ノア、マリル、カイエン――皆も同じ光の中で、再び姿を現した。
「……ちゃんと、全員いるな」
蓮は胸を撫で下ろす。
「でも、見て」
リーナが指を伸ばした先、空の一部が揺らめいていた。
まるで“世界そのもの”が波打つように。
「創世の安定化が間に合ってないの。再創世が進むにつれて、因果の接合部が露出しているのよ」
ミストが携行装置を展開し、解析を始める。
「特にこの空間の上層部、“創造因子核”が暴走し始めている……」
「つまり、また何か起きるってことか」
カイエンが短く息をつく。
「ええ。放っておけば、新しい世界そのものが崩れる」
イリスの声には焦燥が混じっていた。
その時、地面が震えた。
遠くの空から、黒い光柱が落ちてくる。
それは地平を貫き、空気を震わせ――空間そのものを“書き換えた”。
崩壊の中から、黒い影が現れる。
歪んだ翼、透き通る鎧、そして無数の瞳を持つ女神のような存在。
「――再創世因子、確認。識別:創造の拒絶体。名を問う必要はない。我は“レクシア・ネガ”。この世界を否定する最後の神格である」
空気が凍る。
その名を、誰もが聞いたことがあった。
再創世を担う原初神格〈レクシア〉の、否定側の人格。
「来たか……神そのものの“裏側”が」
蓮は剣を構える。
「あなたが創造を選ぶというなら、私は“破壊”を以って均衡を取る」
レクシア・ネガの声は、どこまでも静かだった。
だが、その静けさの奥には無限の断罪が潜む。
風が止まり、音が消えた。
次の瞬間、世界が裂けた。
黒と白の光が交錯し、大地が崩れ、空が裏返る。
“黎明相”の不安定な空間が悲鳴を上げるように振動した。
「全員、距離を取れ!」
蓮の叫びに、仲間たちが一斉に跳躍する。
ミストが障壁を張り、シャムが地面を槍で貫いて姿勢を保つ。
リーナは剣を構え、イリスが星光を纏う。
ネフェリスが歌声を放ち、ノアが魔力干渉式を展開。
マリルとカイエンは補助結界を編み込み、全員が一瞬で戦闘陣形を取った。
「――始まるぞ。これが、本当の“創造の戦い”だ!」
◆ ◆ ◆
空間そのものが戦場となった。
レクシア・ネガが放つ光の刃は、因果を断ち切る。
ひとたび触れれば、存在そのものが“なかったこと”になる。
リーナの剣が閃き、刃を受け止める。
だが一瞬の遅れで、彼女の左腕が光に呑まれた。
「リーナッ!」
シャムが叫び、瞬時に“因果固定槍”を投げる。
槍が裂け目を貫き、時間が凍結する。
「へへ……これぐらい、慣れてるっての!」
リーナは歯を食いしばりながら笑う。
彼女の腕は光の粒となり、再び再構築されていった。
「すげぇ……再創世空間の自己修復機能を利用してやがる」
カイエンが舌を巻く。
「だが、長くは持たない!」
ノアが叫び、巨大な魔法陣を展開。
それは“過去の記録”を読み込み、現在の因果を書き換える式――“アーカイブ・スプライス”だった。
「これで……少しは持ちこたえられる!」
ネフェリスの歌声が響き、戦場に淡い光が満ちる。
その声は、仲間の記憶を繋ぎ、希望を呼び戻す“魂の旋律”。
「あなたたちは、まだ理解していない」
レクシア・ネガが手を掲げる。
「創造とは、選択を殺す行為。あなたたちが未来を選べば、無数の可能性が“消える”。――それを、許せるの?」
「許すよ」
蓮が剣を構え直す。
「だって、選ばなければ何も残らない。無限の可能性より、一つの“いま”を信じる。それが、俺たちの生き方だ!」
光と闇が激突する。
衝撃波が空を裂き、大地を貫く。
星々が落ち、時間が砕ける。
◆ ◆ ◆
戦闘の最中、イリスの意識が過去の記憶に触れる。
――創造とは、愛だ。
神が世界を創ったのも、孤独を埋めるため。
ならば、人が創る世界もまた、誰かを想う優しさから始まる。
イリスの胸の中に、蓮との無数の記憶が流れ込んでくる。
笑い、戦い、支え合った時間。
そして、何度も命を賭けて選び続けた“絆”。
「そう……私たちはもう、神じゃない。でも、神を超える愛を知ってる!」
星光が彼女の周囲を包み、翼が広がる。
その瞬間、イリスはレクシア・ネガの攻撃を受け止め、蓮の背を守った。
「イリス!」
「レン、行って! あなたの剣は、世界の意志そのもの!」
蓮は頷き、両手で剣を握る。
刃が光を帯び、空間が震える。
「来い、レクシア・ネガ――これが、俺の答えだ!」
白と黒の光が交わる。
世界が、再び形を変え始めた。
◆ ◆ ◆
閃光が収まったとき、空は澄み渡っていた。
レクシア・ネガは膝をつき、静かに笑っていた。
「……これでいい。創造と否定、どちらも必要だったのね」
彼女の身体が光に変わり、空へと溶けていく。
「人の創造が、神の役目を超える日が来るなんて……皮肉ね。でも、嬉しい」
「ありがとう」
蓮が小さく頭を下げた。
「さあ、進みなさい。黎明の果てに、真の創世が待っている――」
レクシア・ネガが消えた後、空には巨大な光輪が残った。
それは新世界の“創造核”。
再創世の最終段階――“アーク・システム”が起動しようとしていた。
◆ ◆ ◆
リーナが肩で息をしながら笑う。
「……ようやく、一区切りってとこね」
「いや、ここからが本番だ」
蓮は空の光輪を見上げた。
「あれが……俺たちが辿り着くべき“原点〈オリジン・アーク〉”。創造の最終局面だ」
イリスが隣で微笑む。
「じゃあ、もう迷わないわね。行こう、レン。――私たちの新しい世界へ」
仲間たちが頷き、彼らは再び歩き出した。
黎明の果てへ。
そして、創造の頂き――“全創の地平線〈アルティメット・ホライズン〉”へと。
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