第八十八話 再誕の種子〈リジェネシス・コア〉
――砂海が、光で満たされていた。
大地が震え、空が裂け、無数の光の粒子が上昇していく。
それはまるで、世界そのものが再び“誕生”しようとしているかのような光景だった。
「この反応……塔の上層部からだ!」
ミストがタブレットを睨みながら叫ぶ。
「エネルギー値が臨界突破寸前! このままじゃ……空間が“新たな因果層”に置き換わる!」
「つまり――この世界そのものが、もう一度“書き換え”られるってことか」
シャムが顔をしかめた。
「そんなの、許せない!」
リーナが剣を抜き、駆け出す。
蓮は空を見上げた。
塔の頂上――そこに、見覚えのある小さな影が浮かんでいた。
「……ルア」
あの少年。星界の神殿で目覚めた“選定者”。
今や彼は、光の中心で静かに手を掲げていた。
◆ ◆ ◆
塔の最上層――。
蓮たちがたどり着いた時、そこは既に異空間と化していた。
床は浮遊する石板で構成され、天井は果てのない星空に開かれている。
その中央、白銀の光を纏ったルアが立っていた。
「……やっぱり、来たんだね。蓮」
少年は微笑んだ。
その声は柔らかく、それでいてどこか哀しげだった。
「ルア、やめろ! お前が起動してるその装置――“再誕の種子”は、世界を壊す!」
蓮が叫ぶ。
ルアは首を横に振る。
「違うよ。壊すんじゃない。“本来の形”に戻すんだ」
「本来の……?」
イリスが息をのむ。
「蓮。君たちの世界は、まだ未完成なんだ。創世因子の一部――“魂の同期式”が抜け落ちている。このままじゃ、ノヴァ・テラの存在は百年も保たない」
「そんな……!」
ミストが青ざめた顔で端末を確認する。
「確かに……地脈の流動が不安定化してる。
創世時の因果循環が閉じきっていない……!」
ルアは静かに両手を広げた。
「僕はその欠けた因子を補うために、“再誕の種子”を起動した。――君が創った世界を、永遠にするために」
◆ ◆ ◆
だが、蓮はすぐには頷けなかった。
「……ルア。それは違う」
「え?」
「お前の言う“永遠”は、変化を拒絶する世界だ。痛みも、喜びも、選択もない――ただの静止だ。俺たちは、もうそんな世界を知ってる。神が全てを定義する世界を、壊してきたんだ」
ルアの瞳が揺れる。
「でも……君の世界は、不完全なんだよ。いつかまた争いが起きる。誰かが涙を流す。そんな世界を、君は望むの?」
「望むさ」
蓮は力強く言い切った。
「不完全だからこそ、人は“選ぶ”ことができる。間違えて、立ち上がって、また繋がる。それが“生きる”ってことだ」
その言葉に、イリスがそっと微笑む。
「ねえルア。私たちは完璧なんか求めてないの。“共に語る時間”こそが、世界の本質なのよ」
ルアの光が一瞬だけ弱まる。
だが、その瞳の奥には、別の感情が宿っていた。
「……そうか。やっぱり、君たちは“前の蓮”と同じ選択をするんだね」
「前の……?」
リーナが呟く。
ルアは静かに笑った。
「僕は、“原初の蓮”が創った因子の一部。つまり、君の“別の可能性”なんだよ、蓮」
「俺の……可能性?」
「うん。“永遠の世界”を創ろうとした蓮。“終わらない楽園”を夢見た君のもう一つの意思。
それが、僕だ」
◆ ◆ ◆
塔の空間が揺れ始める。
ルアの身体から、淡い金光が広がっていく。
「再誕の種子――起動率、七十パーセント。あと少しで、世界は再構築される」
ミストが叫ぶ。
「ルア、やめろ!」
リーナが剣を構えるが、見えない力に弾き飛ばされる。
蓮は歯を食いしばり、前へと進んだ。
「ルア、俺はお前を倒すために来たんじゃない。お前の“想い”を知るために来たんだ」
ルアが一瞬、動きを止めた。
「お前が望む“永遠”は、きっと優しさの裏返しなんだろう?誰も傷つかない世界を作りたい――その願い、俺も同じだ」
「だったら、なぜ止めるの!」
ルアの声が震える。
「君が創った世界は、また壊れる! また誰かが苦しむ!僕は……そんな未来を見たくないんだ!!」
「ルア……」
蓮はゆっくりと歩み寄る。
光の暴風が吹き荒れる中、ひとり、ただ前へ。
「俺だって恐いさ。でもな、未来を“閉じる”ことだけはしたくない。だから俺は、“再誕”じゃなく、“継承”を選ぶ」
そう言って、蓮は無限アイテムボックスを開いた。
中から光の結晶を取り出す。
「これは、“オリジン・メモリア”。原初の蓮から受け継いだ“語りの記録”だ。これを、お前に託す」
蓮が結晶をルアに差し出すと、光がふたりを包み込んだ。
――まるで、過去と未来がひとつに融け合うように。
◆ ◆ ◆
やがて、光が収まった。
ルアはその場に膝をつき、息を整えていた。
「……僕は、君の心の中にいた“永遠への恐れ”だったのか」
「ああ。だが、それを拒む必要はない。恐れがあるから、俺たちは前へ進める」
ルアが微笑んだ。
「やっぱり、君は……僕よりも強い」
彼の身体が、光の粒となって空に昇っていく。
「これで……“再誕”は、終わりだ」
塔の光が静かに消え、世界の時間が再び流れ出した。
◆ ◆ ◆
夕陽の中、蓮は砂丘の上に立っていた。
イリスが隣に立ち、空に浮かぶ光の粒を見上げる。
「……行っちゃったね」
「ああ。でも、あいつは消えたわけじゃない」
蓮は微笑んだ。
「俺の中に、“未来を恐れない勇気”として残ってる」
イリスは彼の肩に寄り添い、静かに目を閉じた。
――こうして、“再誕の種子”事件は終結した。
だが、その余波はまだ、世界の奥底で蠢いている。
創世の塔が崩れ落ちた後、
誰も知らぬ場所で、再び微かな鼓動が響き始めていた。
> 「創世因子、再構築開始――第零階層、起動」
それは、誰もがまだ知らぬ“真の創世”の予兆だった。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




