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『異世界逃亡者の無双建国・NEXT STAGE ~神無き世界で始める新たなる創世譚~』  作者: ねこあし


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第八十三話 共鳴都市計画〈ハーモニア・アーキテクト〉

 世界の“原典”が再起動してから三週間。


 空はより青く、風は柔らかく、そして何より――人々の心が変わり始めていた。


 “語りと創造が共鳴する世界”。

 それは、誰もが“語り手”であり“創り手”でもある新時代。


 再生都市レグルスでは、蓮たちによる新国家計画――

 共鳴都市計画〈ハーモニア・アーキテクト〉が始動していた。


◆ ◆ ◆


「中央区画、建築進行率は72%。市民代表による“語り調整会議”の提案書も届いてます」

 報告を受けながら、ミストが魔導端末を操作する。


 立体映像に映し出された都市構造は、かつてのレグルスよりもさらに進化していた。

 街路には魔力導管が走り、それぞれが“物語共有装置〈ナラティブ・リンク〉”へと繋がっている。


「つまり、住民の“想い”や“語り”が、都市そのもののエネルギーになるってわけね」

 イリスが微笑む。


「ええ。個人の記憶と感情を“共有ネットワーク”として昇華し、都市の成長を促す仕組みよ」


「……それって、まるで“生きてる街”だな」

 リーナが感心したように言った。


「そう。街が呼吸し、語り、共に進化する――それが“共鳴都市”の本質なの」


 蓮はその様子を静かに見つめていた。

「この計画が成功すれば、人と人の想いが直接つながる社会が生まれる。戦いや分断のない、真の共生都市が」


 ――しかし、その“理想”の影に、小さな歪みが生まれ始めていた。


◆ ◆ ◆


 その夜。


 都市の片隅、ナラティブ・リンクの中枢施設で異常が発生した。

 情報処理室の端末が一斉に点滅を始め、記録データが次々と上書きされていく。


「エラー……? 違う、これ……誰かが意図的に介入してる!」

 警備兵が慌てて報告を上げる。


 次の瞬間、端末のひとつが爆ぜた。

 赤黒い光が放たれ、空間が歪む。


 そこから現れたのは、黒衣の人物――顔はフードに隠れて見えない。


「誰だ……!」


 警備兵が剣を構えるが、相手は無言のまま手を掲げる。

 空気が震え、記録装置が次々と破壊されていく。


 その時、建物全体にアラートが鳴り響いた。


『警告――ナラティブ・リンク中枢に侵入者! 全局遮断モードへ移行!』


 蓮が報告を受けて駆け出した。

 イリスとリーナが後に続く。


◆ ◆ ◆


「このタイミングでの侵入……偶然じゃないな」

 蓮は走りながら呟いた。


「ナラティブ・リンクは都市全体の意識ネットワーク。そこに侵入するってことは……“想い”そのものを操るつもりね」

 イリスの声に、リーナが顔をしかめた。


「それってつまり、人の“心”を改竄できるってこと……?」


「やらせない」

 蓮の目が鋭く光る。


 中枢室に突入すると、黒衣の人物が振り返った。

 その顔は――少年のように若い。

 金色の瞳が、淡く輝いていた。


「お前は……!」

 蓮の目が見開かれる。


 少年は静かに微笑んだ。

「久しぶりだね、蓮。――僕だよ。ルア」


「ルア!? どうして……」

 リーナが驚く。


「僕は、君たちの見た“選定者”の一部だった。けれど今は違う。――原典が再起動したことで、僕は“別の意志”を得た」


 ルアの瞳が淡く赤く光る。


「“共語の世界”が生まれた。でも、その中には必ず“矛盾”が生まれる。多くの意志が交わるほど、世界は不安定になる。だから僕は――“統一”をもたらすためにここにいる」


「統一……? それは支配と何が違う!」

 イリスが叫ぶ。


「違うよ。僕は、すべての意志を一つにまとめたいんだ。痛みも、希望も、悲しみも、全部一つの物語にして――“誰も逸れない世界”を作る」


 その声は穏やかで、同時に恐ろしく純粋だった。


「ルア……それは間違いだ。“違い”があるからこそ、世界は物語になるんだ!」

 蓮が叫ぶ。


 だがルアは首を振る。

「違う。多様性は混乱を生む。語りが分かたれるほど、世界は裂けていく。だから僕は、“一つの語り”として世界を統合する」


 彼が手を掲げた瞬間、空間全体が震えた。

 都市の中枢に繋がるナラティブ・リンクの光が、彼の体へと流れ込む。


「やめろ、ルア! それ以上は――」


「止められないよ、蓮。僕は今、すべての語りの声を“ひとつ”にしている」


 イリスが魔力障壁を張るが、次の瞬間、圧倒的な光が弾けた。

 蓮たちは吹き飛ばされ、意識が一瞬途切れる。


◆ ◆ ◆


 ――目を覚ました時、蓮は異様な静寂に包まれていた。


 街が、止まっている。

 人々は動かず、時間までもが止まったかのようだった。


「これは……まさか、ルアが……?」


 イリスが震える声で呟く。


 空には光の輪が浮かび、その中心にルアが立っていた。

 彼の周囲には、街の人々の“想念”が球状に集まり、ひとつの巨大な心臓のように脈動している。


「――“共語の世界”を、僕が完成させる」


 ルアの声が、静かに響いた。


 その瞳には、確かに“神の意志”が宿っていた。


◆ ◆ ◆


 蓮は拳を握り、立ち上がる。


「ルア……それが、お前の選んだ道か」


 イリスが隣で頷く。

「私たちは、“多くの語り”を守るために戦う」


「語りを一つにする世界なんて、誰も望んじゃいない!」

 リーナが叫ぶ。


 蓮は剣を抜き、空を見上げた。


「ルア、俺たちは――お前の“統一”に抗う!」


 次の瞬間、光の輪が激しく脈動した。

 都市全体が再び震え、世界の“意志”そのものが動き出す。


 “共語の世界”の崩壊と誕生が、いま――同時に始まろうとしていた。

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