第八十二話 原典再起動〈コーデックス・リブート〉
――世界は、静かに書き換わり始めていた。
創造者の蓮との戦いの後、二つの理が干渉した影響で、
世界の“原典”――すなわち、存在そのものの設計書が再構築を始めたのだ。
◆ ◆ ◆
レグルス王都・中央管理塔。
蓮は無限アイテムボックスから取り出した一枚の水晶盤を見つめていた。
それは、かつて星詠の神殿で受け取った“世界原典”の断片。
しかし今、それが淡い光を放っていた。
「動いてる……原典が、再起動してるのか」
隣でイリスがデータを読み取りながら頷く。
「創造者との戦いで、世界の根幹が一度“中間状態”になった。再生と創造の理が融合し、今は新たな“物語構造”として再構築を始めているの」
「つまり、世界が自分で“書き直し”を始めたってことか」
リーナが苦笑する。
「まるで、生きてるみたいだね、この世界」
「……いや、もしかしたら本当に“生きてる”のかもな」
蓮は水晶盤を握りしめた。
「創造者が残した影響で、世界そのものが“語る者”になり始めている。俺たちが語る物語と、世界が紡ぐ物語が――重なり始めてるんだ」
◆ ◆ ◆
その頃、ルアは都市郊外の観測塔で異常な現象を見つけていた。
「空の星が、動いてる……?」
夜空の星々が、規則的に軌道をずらしながら並び替わっていく。
まるで、誰かが天に新たな“文字”を書いているかのように。
そこに駆けつけたミストが解析を行う。
「星々の動きが、一定の周期で文様を描いてる……!これは、“再構成コード”だ!」
「コード?」
「ええ。創造者が遺した世界の構成式が、新たな法則として空に刻まれているのよ!」
「じゃあ、星空が――新しい世界の原典に?」
「そう。今この瞬間も、“世界は書かれている”の」
◆ ◆ ◆
一方その頃、蓮のもとには別の報告が届いていた。
「王、地下層に異常エネルギー反応あり!」
カイエンが駆け込む。
「またか……場所は?」
「旧神域の下層。封印された大迷宮の奥だ。どうやら、原典再起動の影響で“封印構造”が解け始めてるらしい」
蓮は立ち上がる。
「放っておくと危険だ。俺たちで確認に行こう」
「また忙しいね」
リーナが笑いながらも、すぐに装備を整える。
「……でも、こうして世界の変化を“生で見られる”のは、この上なく貴重だよ」
「確かにな」
蓮も微笑む。
――再構築される世界を見届ける者として。
◆ ◆ ◆
地下神殿への道は、まるで時間そのものが凍りついたようだった。
壁面には古代神代の文字が浮かび、床からは淡い光が滲んでいる。
「ここが……“原典層”へのアクセスゲートか」
イリスが魔力を流し込むと、扉がゆっくりと開く。
内部には、巨大な書物のような構造体が浮かんでいた。
それは建物でも装置でもなく、“概念”そのもの。
「まるで、世界の心臓……」
ネフェリスが思わず息を呑む。
蓮は近づき、手を伸ばした。
触れた瞬間、頭の中に膨大な情報が流れ込む。
『――“物語、再定義中”』
「……これは……?」
『“語られる者”と“語る者”の境界、再構築中。世界は、“共語”の段階へ移行します』
「共語……?」
ミストが反応する。
「単一の創造主による支配ではなく、複数の意思によって物語を紡ぐ仕組みに変わる――つまり、“共に語る世界”に進化しようとしてるのよ!」
「つまり、俺たち一人ひとりが、“物語の作者”になる……?」
リーナが目を見開く。
蓮は静かに頷いた。
「そうか……だから創造者は言ったんだ。“いつか、お前たちも筆を取る時が来る”って」
◆ ◆ ◆
だが、その時。
神殿全体が大きく震えた。
構造体の光が乱れ、周囲の空間がひび割れる。
「何だ!? 安定してない!」
カイエンが叫ぶ。
「原典の再起動過程にエラーが発生してる!」
ミストが操作パネルを叩くが、制御不能だ。
裂け目の向こうから、闇が溢れ出す。
「……これは、“未完の物語”たちの残滓だ!」
イリスが叫ぶ。
創造されながらも語られなかった、
“途中で終わった世界”――その悲鳴のような意識が、
空間を侵食していく。
「原典の再起動は、完璧じゃなかった……!」
蓮が剣を抜く。
「じゃあ、やるしかない。未完の物語たちを――俺たちの“語り”で、完結させる!」
イリス、リーナ、仲間たちが頷く。
それぞれの武器が光を放ち、“記録の力”が展開される。
「さあ、語ろう――俺たちが歩んだ、この世界の続きを!」
光が広がり、未完の闇を包み込む。
語られなかった物語が、今ひとつひとつ“結末”を得ていく。
◆ ◆ ◆
光が収束したあと、静寂が訪れた。
原典構造体は安定を取り戻し、
空中には新しい文様が浮かび上がる。
『――“原典再起動完了”。新たな世界は、“共に紡がれる物語”として稼働を開始します』
蓮は微笑んだ。
「これで……世界は、本当に“生きる物語”になったんだな」
イリスが隣で頷く。
「ええ。もう誰か一人の物語じゃない。私たち全員が、物語の語り部――そして創造主なの」
ルアが空を見上げる。
そこには、再構成された星々が新たな軌跡を描いていた。
「綺麗だね。まるで、星が一緒に語ってるみたい」
蓮は静かに目を閉じ、深く息を吸い込む。
「さあ――新しい時代を始めよう。“語りと創造の共鳴する世界”を」
こうして、世界は再び動き出す。
今度は一人の筆ではなく、無数の心が紡ぐ物語として――。
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