第八十一話 双界衝突〈ディア・ワールド〉
世界が――二つに裂けた。
雷鳴のような振動と共に、天空が左右に分かれ、
一方は光、一方は闇。
レグルスを中心に、二重の地平線が重なり合う。
それは“現実界”と“創造界”――
二つの世界が干渉を始めた証だった。
◆ ◆ ◆
氷雪の荒野に立つ創造都市〈ゼロスフィア〉。
その中心で、二人の“蓮”が対峙していた。
「この世界は、お前の再生によって秩序を得た。だが、秩序はやがて停滞を生む。創造は、破壊の後にしか訪れない――それが理だ」
創造者の蓮――“もう一人の俺”が、静かに言葉を紡ぐ。
彼の背後には、無数の光輪が回転していた。
それぞれが一つの“未記録世界”を示す。
対して、再生者・蓮は剣を握り締める。
「理なんて、誰が決めた?創造は破壊の後にあるんじゃない。――希望の中から生まれるんだ!」
その言葉に呼応するように、背後の仲間たちが陣形を取る。
イリス、リーナ、シャム、ミスト、ネフェリス、カイエン、ノア――
そして新たな“選定者”ルアも、その列に加わっていた。
「彼が……もう一人の蓮……」
ルアが呟く。
「ええ、ルア。だけど勘違いしないで。彼は“敵”じゃない。“もう一つの選択”よ」
イリスが瞳を細める。
だが、創造者の蓮は微笑んだ。
「選択……? 違う。お前たちは“語られる側”の存在。俺は、“語る側”。語られる者がいくらもがこうと、筆を持つのはいつだって俺たち創造者だ」
「……それでも!」
リーナが叫んだ。
「あなたが語るだけの物語より、私たちが“生きて”描く物語のほうがずっと強い!」
彼女の言葉に、創造者の蓮の表情がわずかに動く。
冷たいはずの瞳に、一瞬だけ何かが揺れた。
「――なら、証明してみせろ。“物語の力”とやらを」
瞬間、世界が反転した。
◆ ◆ ◆
次の瞬間、蓮たちは異空間に立っていた。
空も地も存在せず、ただ光と影が交錯する“中間界”。
「ここは……」
ミストが解析を試みるが、データが弾かれる。
「観測不能……時空の座標自体が、二つの世界の狭間にある!」
イリスが剣を抜き、魔力を展開する。
「つまり、ここで勝った方が――“世界の定義”になる」
「その通りだ」
創造者の蓮が手を掲げる。
光の粒子が集まり、彼の背後に“神筆”のような巨大な槍が出現した。
その筆先は、空間そのものに線を描き、“現実”を書き換える。
「――世界記述槍〈ロゴス・ペンナ〉。物語を記すことで、因果を改変する武器だ」
放たれた一閃が、空間を引き裂いた。
現実の線が破れ、蓮たちの足元が崩れ落ちる。
「こいつ……“世界を直接書き換えてる”!」
カイエンが叫ぶ。
だが、蓮は静かに息を整えた。
「なら、こっちも“語り”で応えるさ」
右手を広げる。
無限アイテムボックスが光を放ち、空間から一冊の書が出現する。
「――“再生記録書〈リジェネ・アーカイブ〉”」
その書は、これまでの旅路、戦い、涙、祈り――
すべての記録が宿った“語られた歴史”そのもの。
「お前が“書く”なら、俺は“語る”。お前が創造するなら、俺は“受け継ぐ”。それが俺の――そして仲間たちの、生きる証だ!」
蓮が詠唱を開始する。
「――“語り継がれる者たちの記録よ、今ここに再生せよ!”」
書が開かれ、過去の仲間たちの姿が光となって舞い上がる。
戦場に散った英雄たち、民の祈り、そして無数の笑顔。
それは“記録された生命の力”そのものだった。
◆ ◆ ◆
創造者の蓮が目を見開く。
「これは……“物語の力”が、実体化している……!」
イリスが光の剣を掲げた。
「あなたが“創造”で形を与えるなら――私たちは“語り”で命を宿す!」
再生者の蓮が叫ぶ。
「――これが、俺たちの物語の証明だ!!」
剣と槍がぶつかる。
光と闇の奔流が空間を引き裂き、二つの世界が悲鳴を上げる。
神筆が描く“新たな世界線”を、再生の記録が“塗り潰す”。
創造と再生――二つの理が拮抗し、衝突は頂点へ。
「お前が語りの世界を守るというなら……俺は、語られぬ世界を創る!」
「なら――お前が創る世界を、俺が語りで生かす!」
光の奔流が爆発し、すべてが白に染まる。
◆ ◆ ◆
気づけば、蓮は真っ白な空間に立っていた。
風も音もない。
しかし遠くに、もう一人の“自分”の姿が見えた。
「……決着は、まだついていないな」
創造者が静かに言う。
「いや、違う。お前と俺の戦いは――もう一つの始まりだ」
蓮が手を差し出す。
「お前が“語られざる創造”を続けるなら、俺は“語られる命”を守る。どちらも必要なんだ。世界にとって」
創造者の蓮は、わずかに笑った。
その姿が光に溶けていく。
「……面白い。お前の“語り”に期待しよう。いつか再び交わる、その時まで――」
光が収束し、蓮は仲間たちのもとへ戻った。
イリスが駆け寄り、蓮の手を握る。
「蓮……無事でよかった」
「……ああ。でも、これで終わりじゃない」
彼は遠くを見つめる。
世界は安定を取り戻しつつあったが、その奥に確かに“新たな脈動”が生まれていた。
「創造者の蓮が去ったあと、世界は再び“語られぬ領域”を求めてる。――つまり、次の物語が始まる」
リーナが微笑む。
「そのときはまた、みんなで行こうよ。物語の続きを見に」
蓮は頷いた。
青空を見上げるその瞳には、確かに“新たな世界”が映っていた。
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