表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界逃亡者の無双建国・NEXT STAGE ~神無き世界で始める新たなる創世譚~』  作者: ねこあし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/113

第七十八話 記録層への降下〈アーカイブ・ディセント〉

 夜明け前の静寂を裂くように、都市レグルスの上空で光の波が走った。

 その光は、まるで記録媒体を読み込むように断続的に瞬き、

 やがて空の一部が“開く”――まるで空間が一枚の書物のページであるかのように。


 蓮はその光景を、創造塔〈オルタリア・スパイア〉の頂から見つめていた。

 傍らにはイリス、リーナ、ミスト、カイエン、ノア、そしてアストレイアの姿がある。


「これが……“記録層”への入り口?」

 リーナが息をのむ。


「ああ。アストレイアの言っていた“原初の層”――すべての出来事、すべての意志、すべての未来が記録される場所だ」

 蓮は目を細めた。


 アストレイアが手をかざすと、空間に金色の紋章が展開される。

 それは円環のようでもあり、鍵のようでもあった。


「――これは“アーカイブ・ゲート”。観測がまだ神々に支配されていた時代、最上位の記録者だけが使えた通路。けれど今は、あなたたちがその資格を持っている」


「資格、ね……」

 ミストが半ば苦笑する。

「つまり、“神の代わりに責任を負う者”ってことだろ?」


「ええ。それを“覚悟”と呼ぶならね」

 アストレイアの言葉に、蓮は小さく頷いた。


「――行こう」


 *  *  *


 金色の門をくぐった瞬間、

 周囲の景色が“反転”する。


 空は白く、地平は透明。

 重力さえも曖昧な、まるで夢の中のような空間。

 だが、すぐに彼らは理解した――ここが“記録層”なのだと。


 無数の光の粒が漂い、それぞれがひとつの“記録”を構成している。

 誰かの人生、誰かの選択、誰かの祈り。

 それらが膨大に重なり、世界の“物語”を織りなしていた。


「……まるで、世界が息をしてるみたい」

 イリスが小さく呟く。


 アストレイアは頷きながら言う。

「ここにある全てが、“存在の記録”。けれど今、この層に“乱れ”が生じている」


 その瞬間、遠方で光が歪んだ。

 まるで巨大な渦のように、記録の粒子が吸い込まれていく。


「これが……侵食の原因?」

 ノアが解析装置を起動する。

「……うそだろ。記録そのものが“書き換えられてる”」


 光の粒のひとつに触れると、そこに映ったのは――

 蓮たちがまだこの世界に来る前、“地球”での日々。

 しかし、その映像は途中から別のものに変わっていった。


 蓮が戦うはずのなかった相手。

 存在するはずのない“もう一人の蓮”。


「……俺の“偽の記録”だ」

 蓮が呟く。

 その声には、怒りよりも哀しみが滲んでいた。


「誰かが記録を……上書きしている。そしてその改竄が進めば、現実の“物語”そのものが書き換わる」

 ミストの声が震える。


「つまり……世界そのものが、嘘の歴史に変わるってことね」

 リーナが歯を食いしばる。


 アストレイアの金の瞳が強く輝いた。

「侵食源は、この層の“中心”――記録の根〈ルート・アーカイブ〉。

 そこに、異質な情報核がある」


 カイエンが剣を構える。

「つまり、敵がいるってことだな」


「ええ。それは“存在しないはずの観測者”――廃棄されたはずの、原初の人工神クロノス・コード


 その名が響いた瞬間、空間が震えた。

 あらゆる記録の光が一斉に消え、暗闇が広がる。


「また来たか……このパターン」

 ノアが苦笑したその直後、

 空間の奥から、無数の歪んだ影が浮かび上がった。


 人の形をしているが、顔は存在せず、

 全身がデータの断片のようにノイズ化している。


「これが……“虚像体”?」

 イリスが魔法陣を展開する。


「記録から排除された存在の残滓よ。クロノス・コードが作り出した“観測の亡霊”」

 アストレイアの声が静かに響いた。


 蓮は無限アイテムボックスを開く。

 眩い光とともに、いくつもの魔導装備が姿を現した。


「――“星命共鳴装置〈アカシック・リゾナンス〉”、起動」


 瞬間、空間全体に共鳴波が広がり、

 虚像体の動きが一斉に鈍る。


「ミスト、座標を固定! ノア、干渉層を解析してくれ!」

「了解!」

 二人の声が重なり、無数の魔導文字が空間に散った。


 リーナとカイエンが前線に出て、虚像体を切り裂く。

 イリスが後方から魔力を集中し、結界を維持する。


 ――それはまさに、彼らの“物語の戦い”だった。

 過去と現在が交錯し、存在そのものが問われる戦場。


 だが、その最中。

 蓮の視界に、ひとつの影が映った。


 暗闇の中心、記録の渦の中に――

 “黒い光”を放つ何かが立っていた。


「……あれが、クロノス・コード」

 アストレイアが呟く。

「彼は“時間の記録者”だった。全ての時系列を監視し、修正するために造られた存在。けれど、自由を得た今の世界では、彼の存在理由は失われた。 その結果、彼は――自らの存在を証明するために“改竄”を始めたの」


 蓮の拳が震える。

「存在を守るために、他の存在を消す……。それは神でも、人でも、間違いだ」


「だからこそ、彼を止めなければ」

 アストレイアが頷く。

「ただし、破壊ではなく――“統合”によって」


「統合……?」


「彼もまた、記録の一部。彼を否定するのではなく、“受け入れ”、新しい記録へと繋げる。それが、あなたたちの創った世界のあり方でしょ?」


 蓮の瞳が静かに燃える。

「……そうだな。俺たちは、拒絶の上に未来を築かない。ならば――証明してやるさ」


 *  *  *


 蓮は光の剣を抜いた。

 “創界の因果”を象徴するその刃が、記録層の闇を切り裂く。


「――俺は、物語の外から来た存在。けれど今は、この世界の住人として、未来を守る!」


 剣が閃光を放ち、クロノス・コードの放つ黒い光とぶつかり合う。

 衝突の瞬間、世界が軋み、時間が凍結した。


 だが、その静止の中で――

 蓮は確かに感じた。


 誰かの声。

 アストレイアの祈り。

 そして、仲間たちの信頼。


 全てが重なり、

 剣が白く輝いた。


「――共鳴せよ、アカシック・リゾナンス!」


 光が爆ぜ、記録層全体に共鳴が走る。

 歪んだ記録が修復され、虚像体が一つ、また一つと溶けていった。


 闇の中心で、クロノス・コードが膝をつく。


「これが……“存在の意味”か……」

 その声は、哀しみではなく、安堵に近かった。


「君もまた、世界の一部だ。――もう、孤独じゃない」

 蓮の言葉に、黒い光が静かに溶けていく。


 記録層の空が、ゆっくりと輝きを取り戻していった。


 *  *  *


 アストレイアが蓮の隣に立つ。

「これで、一時的に侵食は止まった。けれど――まだ全てが終わったわけじゃない」


「次は……何が来る?」


 アストレイアの表情に、一瞬だけ陰が走った。

「“記録を観測する存在”がいる限り、それを“書き換えようとする存在”も現れる。次は……“観測そのものの否定”――つまり、“無”よ」


 蓮は空を見上げる。

「いいさ。なら、その“無”にだって意味を与えてやる」


 仲間たちの笑みが、その場に広がる。

 彼らの戦いはまだ終わらない。


 ――物語は、常に続いていくのだから。

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ