第六十七話 双神の黎明〈ツイン・ジェネシス〉
――空が、二つに割れた。
新たに生まれた世界、ノア=アース。
その天に浮かぶ二つの太陽は、まるで「創造」と「忘却」が互いを見つめ合うように光を交わしていた。
大地は翠に染まり、かつて荒廃していた浮遊大陸は、今や豊かな森と湖に囲まれた楽園となっていた。
だが、これはまだ“世界の雛形”。
理の再編によって無理やり繋がれた“仮初の安定”に過ぎない。
その中心――創界中枢塔の跡地に、蓮とカムイが並び立っていた。
「まさか……本当に、世界を作り直すとはな」
カムイが微笑し、風に髪を揺らす。
「お前が残したデータを基にしただけだよ」
蓮は肩をすくめた。
「まあ、俺たち二人が“神格外”だからこそできたことかもしれない」
「“神格外”――いい言葉だな」
カムイは笑い、空を見上げた。
二つの太陽の光が、彼の瞳の奥で反射する。
「創造と忘却、相反する理が混じり合った世界。……このバランス、そう長くは保たない」
「わかってる。だから“人”が必要なんだ。理を安定させるのは、意思を持つ存在だけだ」
その時、イリスとリーナ、ミスト、ネフェリス、そしてマリルとノアたちが合流した。
彼らの表情には疲労が滲んでいたが、その目は確かな光を宿していた。
「環境の安定化は一応完了。空気と水の成分比も、旧世界とほぼ同等よ」
ミストが報告する。
「大気中のマナ流動も正常値に戻りつつあります。ただし、空間の座標系が一部で歪んでいるようです」
ノアがタブレットを見つめながら補足した。
「座標系の歪み……つまり、異界との接続が残ってるってことか?」
リーナが眉をひそめる。
「その可能性が高いわ。新しい理が安定するまで、外部因子が流れ込む恐れがある」
イリスの声には緊張がこもっていた。
蓮は深く息を吸い、空を見上げた。
「なら、俺たちが“国”を作ろう。理を維持するための基盤として」
「国……?」
マリルが首を傾げる。
「そう。創世の中心を“人の意志”で満たす。それが、この世界を保つための“魂の核”になる」
「つまり……また、建国だね」
ネフェリスが微笑む。
「前の世界で築いた“アルカ・ノヴァ”を越える国を」
リーナが拳を握った。
「“神がいない世界”だからこそ、私たちがその理を守る」
「理想論だが……いいな」
カムイが静かに頷く。
「この世界では、俺たちは“管理者”じゃなく、“導き手”でいよう」
* * *
――数日後。
浮遊大陸の中央に、巨大な結晶柱が建てられた。
それは、蓮が無限アイテムボックスから取り出した“星命結晶〈セレスティア・コア〉”を核として構築された“理制御塔”。
塔の基部には神代文字が刻まれ、周囲に七つの小塔が円環状に配置されていた。
それぞれに仲間たちが座し、エネルギー循環を安定化させていく。
「これで……理は固定されたわ」
ミストが安堵の息をつく。
「ようやく、世界が“自力で呼吸”を始めたのね」
ネフェリスが微笑み、湖の上に浮かぶ光を見つめる。
蓮は塔の頂に立ち、周囲を見渡した。
地平線の向こうには、新たに再生された大地が広がり、
草原、山岳、海岸――すべてが再び息を吹き返していた。
「……ここを、俺たちの国にする」
彼の言葉に、仲間たちは頷く。
「名は――“ノア=アーク”。滅びを越えて再生した希望の方舟だ」
「いい名前ね」
イリスが柔らかく微笑む。
「“神なき創世”に相応しいわ」
その時、塔の基部で光が瞬いた。
「……反応あり! 座標干渉波だ!」
ノアが警告を発する。
次の瞬間、空間が裂け、紫色の亀裂が広がった。
そこから、黒い靄のようなものが流れ出す。
「くっ……まだ残ってやがったか!」
リーナが剣を抜く。
「虚神の残滓――“虚無の因果核〈アバーソン・コード〉”!」
ミストが叫ぶ。
その中心に、黒い輪郭を持つ存在が姿を現した。
声もなく、ただ、存在そのものが周囲を侵蝕していく。
「因果反応、前回よりも高い! このままだと理制御塔が……!」
「俺が行く!」
蓮が叫び、空間を跳躍する。
手に握るのは、“星創剣〈アーク・ジェネシス〉”。
カムイの魂と彼自身の創造力が融合して生まれた“理の刃”。
「お前らの出番は、まだ終わっちゃいねぇんだよ……!」
剣を振る。
光と闇がぶつかり、轟音が空を震わせる。
だが、敵の力は凄まじく、再構築された理そのものを喰らおうとしていた。
「蓮っ!」
イリスが叫ぶ。
「大丈夫だ――今度は“二人”だから!」
その声と同時に、カムイが背後に現れる。
二つの剣――創造と忘却の象徴が交差する。
刹那、空が白く輝いた。
「〈双神融合・オーバーリンク〉!」
二人の力が完全に共鳴する。
星々の記憶、世界の記録、すべてが一本の光へと収束し、
黒い因果核を貫いた。
静寂。
やがて、黒い靄が溶けていく。
空は晴れ渡り、二つの太陽が再び穏やかに輝いた。
「ふう……何とか、安定したな」
蓮が剣を納め、地上へと降り立つ。
リーナが息をつきながら笑った。
「まったく……相変わらず無茶するんだから」
「そういうのは、リーナもだろ?」
互いに笑い合い、空を見上げる。
そこには、真新しい世界が確かに息づいていた。
「なあ、蓮」
カムイが並んで立つ。
「この世界――どうする?」
「簡単だよ。ここから始めるんだ。神がいなくても、俺たちは“創れる”。人と共に歩む、新しい創世を」
二つの太陽が、まるで頷くように光を増した。
――“双神の黎明”。
それは、神を超えた“人の意志”が世界の理となった瞬間だった。
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