第六十三話 再会する亡友〈カムイ〉
空が裂け、閃光が奔る。
大地を焼き、大気を裂き、存在そのものを貫く力が、蓮たちを襲った。
アーク・ネクサス北方――《グリム・ヴェイル》。
新世界の最初の戦場となったその地で、かつての仲間同士が向かい合っていた。
「……久しいな、蓮」
カムイの声は、冷たく、そしてどこか悲しげだった。
彼の周囲には、黒い光が渦を巻き、空間そのものを侵食していく。
「お前が……どうして“反創造者”なんかに……!」
蓮が叫ぶ。
「理由か?」
カムイは淡く笑う。
「お前が“創る”ことを選んだからさ」
リーナが剣を構えながら前に出る。
「意味がわからない! 創ることの何が悪いの!?」
「創ることは、選別することだ」
カムイの声が静かに響いた。
「お前たちは世界を再構成した。だがその瞬間、“旧き存在”の多くは消滅した。選ばれなかった命、救えなかった記録……その痛みを感じたか?」
蓮の目が揺れる。
「……俺たちは、できる限りの命を救った。全てを抱えることは――」
「不可能だと? だから諦めたか?」
カムイの言葉が刃のように突き刺さる。
「俺はその“不可能”の中で、生き残った者だ。誰からも選ばれず、どの記録にも載らず、世界に“いなかった”存在としてな」
沈黙。
その一言に、仲間たちの胸が締め付けられた。
ネフェリスが悲しげに呟く。
「……あなた、ひとりで戦っていたのね」
「戦ってはいない。抗っただけだ。……“創造”という名の支配に」
カムイの背後で、黒い翼が広がる。
その翼は光を吸い込み、周囲の魔力を食らって膨張していく。
「世界が再構築されたその瞬間、俺は気づいた。――この新世界は、神々の意志をなぞるだけの“再演劇”だと。お前たちは、それを受け入れ、満足している」
蓮は首を振った。
「違う! 俺たちは、神々の意志じゃなく、自分たちの選択で歩いてる!」
「なら証明してみろ。創造が支配でないと」
カムイの杖が光を放つ。
瞬間、黒い槍が空間から無数に生まれ、蓮たちへと降り注いだ。
シャムが即座に防御陣を張る。
「防壁展開――《ルミナス・グリッド》!」
光の格子が形成され、槍の一部を弾く。だが、残りが地面を貫き、爆発が走った。
砂塵の中、リーナが叫ぶ。
「ミスト! 敵の動きは?」
「高速位相転移! 因果層そのものを滑ってる! 普通の攻撃じゃ通らない!」
マリルが歯を食いしばる。
「だったら……こっちもやるしかない!」
彼女の手の中で、植物の種が輝いた。
「《アーク・ブロッサム・フィールド》!」
無数の蔦と花が一瞬で地面から生え上がり、敵の足元を絡め取る。
その花々は微光を放ち、空間の歪みを一時的に固定した。
「いまだ!」
リーナが飛び出し、カムイへ剣を振るう。
だが――
「遅い」
カムイの指が弾かれ、剣が空中で弾き飛ばされる。
そして、カムイの目が蓮を捕らえた。
「お前に問う、蓮。創造とは、本当に“自由”なのか?」
「……ああ。自由だ。誰かに強いられたものじゃない。俺たちは自分の意志で世界を形にした」
「ならば――破壊も自由だろう?」
カムイが杖を振る。
空間が割れ、巨大な黒の球体が生成される。
その中には、因果の記録そのものが吸い込まれていく。
「やめろ! そんなことをしたら、この世界が――!」
「創造を拒絶するには、すべてを“零”に還すしかない!」
蓮が即座に無限アイテムボックスを展開した。
光の中から取り出されたのは、かつて星詠の神殿で得た“時空安定装置〈クロノ・アンカー〉。
「――止まれぇぇっ!」
装置が起動し、世界の流れが一瞬、静止する。
黒球の動きが鈍り、時間の歪みが凍りつく。
「チッ……時間干渉か」
カムイが片目を細めた。
「お前を止めるためなら、何でも使う」
蓮は息を荒げながら言う。
「……そうか」
カムイが小さく笑った。
「やはり、お前は“創造の王”だ。自らの意思を信じて進む。それを否定することは、もはや俺にはできない」
その声には、わずかな迷いがあった。
イリスが一歩踏み出す。
「カムイ……あなたの心は、まだ闇に沈みきってはいない」
ネフェリスが静かに歌を紡ぐ。
その旋律は優しく、懐かしい。かつて、戦場で仲間たちが共に口ずさんだ歌――。
カムイの動きが止まる。
「……懐かしいな」
彼の黒い翼が、ゆっくりと萎んでいく。
「カムイ、帰ろう。一緒に、もう一度この世界を――」
蓮が手を差し出した。
だが、その瞬間。
カムイの胸に、黒い槍が突き刺さった。
背後の影が、嘲るように囁く。
「裏切リ者ハ、不要ダ」
虚無の腕が伸び、カムイを闇の中へ引きずり込もうとする。
「カムイッ!」
蓮が叫び、駆け出す。
カムイは血の代わりに黒い光を流しながら、微笑んだ。
「……創造の王。次に会う時、俺は――」
光が弾け、彼の姿は消えた。
残されたのは、破れた外套の一片と、微かに残る彼の声。
『創造の中で、真の自由を見つけてみせろ……蓮』
静寂が訪れる。
リーナが膝をつき、拳を握った。
「……あの人、まだ……心は生きてたのに」
蓮は外套の切れ端を握りしめ、空を見上げる。
「必ず……取り戻す。今度こそ、お前を」
朝日が地平線を照らす。
新たな一日が、創造の国に訪れようとしていた。




