第六十一話 黎明の街〈アーク・ネクサス〉の誕生
――風が渡る。
新たに生まれた世界の大地を撫でるその風は、どこか懐かしく、そして優しかった。
蓮たちは、丘の上に立っていた。
目の前には広大な平原が広がり、遠くには海がきらめき、背後には山脈が連なっている。
まるで、すべての要素が「ここから始めろ」と言わんばかりの理想的な地形だった。
「……信じられない」
リーナが風に髪を揺らしながら呟く。
「何もなかったはずなのに、もう“世界”が息づいてる」
「再構築の際に、星命因子が環境ごと最適化を行ったんだろうね」
ミストがタブレットを操作しながら解析を進める。
「空気の組成、水の循環、植物の再生速度……どれも神代級の安定度よ」
「つまり、俺たちは“創造されたばかりの世界”に立ってるってことか」
蓮がそう言って空を見上げた。
太陽がゆっくりと昇っていく。
光が彼らの影を地面に描き、まるで新しいページに最初の一行を記すかのようだった。
「……よし」
蓮は無限アイテムボックスを開き、手を伸ばす。
「まずは、拠点を築く」
次の瞬間、光が溢れた。
ボックスから取り出されたのは、星詠の神殿から持ち出していた“星界設計図〈アストラル・プラン〉”。
建築、農耕、防御、エネルギー供給――あらゆる基盤をひとつに統合する万能基礎構造。
「この設計図を中核にして、都市を形成する。名前は……」
蓮は一瞬、考えてから微笑む。
「――“アーク・ネクサス”。世界を繋ぐ方舟だ」
その言葉に、仲間たちの表情が輝いた。
「いい名前だね」
イリスが優しく微笑む。
「神なき世界で、最初に人々を守る“核”になる」
「街の中心は、まず“中央炉〈コア・リアクター〉”を据えよう」
ノアが提案する。
「エネルギー供給と防御、両方の役割を持たせられる」
「了解。あたしは水路と農地を見てくる!」
マリルが元気よく手を挙げ、風のように走っていく。
「俺は防壁の形成を手伝う。結界術なら慣れてる」
カイエンが腰の魔具を光らせた。
「私は歌で、土と風を繋げるわ。自然がこの地に馴染むように」
ネフェリスが柔らかく微笑み、歌声を響かせる。
リーナとシャムも頷いた。
「じゃあ、あたしは城壁設計。シャム、外周の警戒お願い!」
「了解。ここはもう“新しい国”の始まりだな」
――それは、まるで奇跡のような光景だった。
誰もが笑い、汗を流し、互いに言葉を交わしながら、何もない土地に未来を描いていく。
数時間後、地平線に陽が沈み始める頃――
丘の上から見下ろすその場所には、すでに「街の原型」が浮かび上がっていた。
中央に塔がそびえ、周囲には整備された街路、並ぶ建物、光る水脈。
空には浮遊灯が灯り、夜を恐れぬ文明の光が息づいていた。
「……あっという間に形になったな」
蓮が小さく笑う。
「神の奇跡なんていらない。これが、“人の力”だ」
彼の隣で、イリスが囁く。
「でも、その“人の力”こそが、神々が最後に託した希望なのよ」
「……そうかもしれないな」
蓮は星空を見上げた。
そのとき――突風が吹いた。
同時に、リーナの通信器が反応する。
「……蓮、北の方角で反応。生命反応――いや、これは……」
ミストが解析を走らせ、顔をしかめた。
「このエネルギー波形……明らかに“敵性”よ。しかも、人工的な構造を持ってる」
「敵、ってことか?」
シャムが警戒態勢を取る。
「ええ。おそらく、創造を拒んだ者たち――“反創造派〈アナイアレイターズ〉”ね」
その言葉に、全員が息を呑む。
「もう動き出してるってわけか……」
蓮が低く呟く。
「どうする?」
リーナの問いに、蓮は空を見たまま答えた。
「――迎え撃つ。だが戦うためじゃない。“選ばなかった者たち”が何を見たのか、確かめるためだ」
イリスが小さく微笑む。
「それがあなたのやり方ね、蓮」
蓮は頷いた。
「俺たちは“創る側”だ。破壊するためじゃない。理解するために、歩き続ける」
夜空に、最初の街の灯がともる。
その光は、確かに――人の意志の輝きだった。
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