第四十七話 未来への礎〈フューチャー・ファウンデーション〉
虚王〈カオス・ドミニオン〉を討ち、中央都市〈レグナス〉が解放されてから数週間。
崩壊していた街並みには人々が戻り、瓦礫の山は少しずつ片付けられ、広場では子どもたちの笑い声が響くようになった。
だが、再建の道は始まったばかりだった。
◆ ◆ ◆
「ここを仮設の市場にするのがいいと思います!」
マリルが地図を広げ、元気よく提案する。
「市場か。確かに物流が回れば、住民も安心する」
カイエンが腕を組んで頷いた。
「でも、治安が整わなければ混乱を招くだけだ」
ミストが冷静に指摘する。
「守備兵の配置を優先するべきだわ」
「だったら……両方同時に進めればいいんじゃない?」
リーナが苦笑しつつ提案すると、蓮が口を挟んだ。
「そうだな。俺たちの国づくりは“一つずつ”じゃ間に合わない。同時に進める仕組みを作ろう」
蓮の言葉に、仲間たちの視線が集まる。
その表情は疲労を抱えつつも、未来を見据えた希望に満ちていた。
◆ ◆ ◆
蓮は無限アイテムボックスを開き、大量の資材や古代文明の建築器具を取り出す。
「お兄ちゃん、またすごいもの出したね!」
ネフェリスが目を輝かせる。
「こっちの器具は自動で石材を切り出して運んでくれる。そして、この魔導炉は町全体のエネルギー供給に使える」
その一つひとつが、かつて冒険の旅で集めた遺物だった。
仲間たちと共に積み上げた成果が、いま国の礎となって活きていく。
◆ ◆ ◆
ある日、蓮は市民の前に立ち、新しい国の理念を語った。
「俺たちが築く国――〈ノヴァリア〉は、誰か一人のための国じゃない。全ての種族が共に暮らし、互いを尊重し合う国だ」
群衆の中から歓声が上がる。
人間、亜人、獣人、かつて敵対していた者たちも、今は同じ未来を見ていた。
「自由を守り、希望を紡ぐ。そのために俺たちはここに立っている。どうか、この国を共に築いてくれ!」
その言葉に、人々は大きな拍手を送った。
蓮の胸には、熱いものが込み上げていた。
◆ ◆ ◆
夜。
蓮は街の外れで星空を見上げていた。
「……一歩ずつだけど、進んでいるな」
「ええ。あなたが導いているから」
背後から声がして、イリスが歩み寄る。
蓮は少し照れくさそうに笑った。
「いや、俺だけじゃない。みんながいたからだ」
「でも、あなたがいなければ、ここまで来られなかった」
イリスがそっと蓮の手を取る。
「これからも、一緒に歩んでいきましょう」
その温かな言葉に、蓮は強く頷いた。
◆ ◆ ◆
翌日。
浮遊大陸から新たな報せが届く。
「……何? 再び因果の揺らぎが観測された?」
ミストが報告を読み上げ、眉をひそめる。
「虚は滅んだはずじゃ……」
リーナが不安げに呟く。
「違う。これは虚の残滓じゃない。――新しい世界の“調整者”が動き始めた証かもしれない」
イリスが冷静に推測した。
蓮は仲間たちに視線を送る。
「国づくりと同時に、新たな脅威とも向き合う必要があるってことか」
「でも、それでも前に進むんでしょ?」
リーナが微笑み、仲間たちも力強く頷いた。
◆ ◆ ◆
こうして、再生した都レグナスを中心に、ノヴァリアは未来への歩みを始めた。
国の礎は築かれた。
だがその道はまだ始まりに過ぎず、次なる試練が彼らを待っている。




