第四十六話 再生の暁〈リジェネシス・ドーン〉
虚王〈カオス・ドミニオン〉を討ち果たした直後の中央都市〈レグナス〉。
黒き瘴気が晴れ、長らく覆われていた空に初めて陽光が差し込んだ。
その光景は、まるで世界そのものが息を吹き返したかのようだった。
◆ ◆ ◆
「……光が、戻った」
リーナが震える声で呟いた。
都の住民たち――虚の支配から解放された者たちが、次々と瓦礫の影から現れる。
虚の呪縛を受け、意識を奪われていた彼らは、光に照らされて正気を取り戻したのだ。
「……これで、みんな……救われたんだ」
ルアの瞳に涙が滲む。
イリスが仲間たちに振り返る。
「戦いは終わったわ。でも、世界の傷が癒えるにはまだ時間が必要」
蓮は頷き、剣を鞘に収めた。
「俺たちの役目は、“倒すこと”じゃない。“創り直すこと”だ」
◆ ◆ ◆
その後、蓮たちは虚王討伐の報告を浮遊大陸へと伝えた。
大陸各地で歓喜が広がり、各国から使節団がレグナスへと集まってくる。
「この都を、新しい世界の中心に据えるべきだ」
ミストが提案する。
「虚の門が閉じた今、ここは因果の結節点。未来を築くには最適の地になる」
「でも、まだ崩壊した建物ばかりよ?」
リーナが首を傾げる。
「だからこそ、再生の象徴になる」
イリスが穏やかに答える。
蓮は仲間たちを見渡し、決意を込めて言った。
「俺たちの国――ノヴァリアは、ここから本当に始まるんだ」
◆ ◆ ◆
再建は困難を極めた。
瓦礫の撤去、住民の保護、食糧の確保。
だが、蓮には“無限アイテムボックス”がある。
物資を取り出し、古代遺跡で集めた技術を活用することで、人々の生活は少しずつ回復していった。
「お兄ちゃんのアイテムボックス、ほんとに底なしだね」
ネフェリスが楽しげに笑う。
「整理が追いつかないけどな」
蓮は苦笑するが、その姿に人々は安心を覚えた。
誰もが彼を“再生の王”と呼び始める。
◆ ◆ ◆
ある夜。
蓮はレグナスの高台に立ち、星空を見上げていた。
隣に立つイリスが、静かに口を開く。
「……終わったわね。長かった戦いが」
「ああ。でも、終わりじゃない。ここからが始まりだ」
しばしの沈黙。
やがてイリスが、蓮の腕にそっと寄り添った。
「あなたがいてくれてよかった。蓮……」
蓮は驚いたが、すぐに笑みを浮かべた。
「俺も……お前がいたから、ここまで来られた」
二人は静かに星を見上げながら、その温もりを確かめ合った。
――それは、戦火を越えた者だけに許される、ささやかな幸福の一瞬だった。
◆ ◆ ◆
翌朝。
空には新しい日の光が昇っていた。
「この暁を……“再生の暁”と呼ぼう」
蓮が宣言する。
「いい名前だね!」
ルアが嬉しそうに頷いた。
こうして、虚との長い戦いは幕を閉じ、世界は新たな再生の道を歩み始めた。
だが――その先には、まだ誰も知らない未来が広がっている。




