第四十四話 砂塵の虚王〈デザート・ファントム〉
群島の虚の門を閉じ、海魔を討った蓮たちは、次なる地へと向かっていた。
北の果てに広がる砂漠――〈アザル砂海〉。
そこには古代都市の遺跡が眠り、虚の門が開いた影響で、砂嵐と瘴気に覆われているという。
◆ ◆ ◆
長い旅路を越え、一行は砂漠の入口に到達した。
熱風が吹き付け、肌を刺すような砂が視界を曇らせる。
「これが……アザル砂海」
リーナが目を細める。
「視界が悪い。魔物の気配も隠されやすい環境だ」
イリスが冷静に周囲を観察した。
「大丈夫。砂の声は、私に届いてるから」
ネフェリスが微笑む。彼女は精霊術によって、砂の流れを感知できるのだ。
その案内に従い、一行は砂漠を進んでいった。
◆ ◆ ◆
やがて、蜃気楼のように古代都市の遺跡が姿を現す。
だが、その中心には黒い塔が突き立ち、虚の瘴気を噴き出していた。
「あれが虚の門か……」
蓮が剣を握りしめる。
その瞬間、砂嵐が轟音を立て、砂の海から巨大な影が浮かび上がった。
「来たな……!」
現れたのは、砂で形作られた巨人。
全身が砂粒で構成され、目は漆黒に光る。
その存在感は、まさしく砂漠の王――
「砂塵の虚王〈デザート・ファントム〉……!」
ミストが震える声で告げた。
◆ ◆ ◆
虚王が腕を振り下ろすと、砂嵐が大地を切り裂く。
一撃で遺跡の建造物が崩れ去る。
「防御陣形を!」
蓮の号令で、仲間たちが即座に展開する。
カイエンとマリルが結界を張り、衝撃を防ぐ。
リーナが隙を突いて矢を放つが、砂の身体に吸い込まれるだけだった。
「効いてない……!」
リーナが唇を噛む。
「核を探せ! あれも“虚”に侵蝕された存在だ。どこかに本体があるはず!」
イリスが叫ぶ。
その言葉に、ネフェリスが両手を大地に触れる。
「感じる……砂の奥、心臓のように脈動する光がある!」
「そこだ……! 俺が突っ込む!」
蓮が走り出す。
◆ ◆ ◆
虚王が咆哮し、砂の巨腕が蓮を押し潰そうと迫る。
しかしその瞬間、ルアが星光を放ち、空間を歪ませた。
「道は、僕が開く!」
砂嵐が割れ、蓮の前に一直線の道が拓ける。
「助かった!」
蓮は無限アイテムボックスから〈穿孔槍〉を取り出し、虚王の胸部へと飛び込む。
突き刺さる刹那、砂の巨体が暴れ狂う。
マリルとカイエンが必死に結界を張り直し、リーナが矢で動きを牽制する。
「ここで決める!」
蓮が叫び、槍を虚王の核へと突き刺した。
◆ ◆ ◆
轟音。
砂嵐が一瞬にして消え、虚王の体が崩れ落ちていく。
砂粒は風に舞い、やがてただの砂へと戻った。
「やった……!」
ルアが安堵の声を上げる。
黒い塔もひび割れ、虚の門が閉じていく。
瘴気は晴れ、砂漠に青空が戻った。
◆ ◆ ◆
遺跡の奥、瓦礫の中に古代の石碑が残されていた。
そこには、かつて砂漠の民が記した祈りの言葉が刻まれていた。
『我らは大地に生き、星に導かれる。
未来の選定者よ、この地を守り続けよ』
「……未来の選定者、か」
蓮は石碑に触れ、静かに頷いた。
「残るは、中央都市の虚門……」
イリスが仲間たちを見渡す。
「決戦が、待っている」
蓮は力強く告げた。
砂漠に新たな風が吹き抜ける。
それは希望と決意を告げる、未来への風だった。




