第四十三話 群島の海魔〈リヴァイアサン・シャドウ〉
南方密林で影神獣を退けた蓮たちは、休む間もなく西方の群島へと向かっていた。
海上に点在する大小数百の島々――その中心には古代より「海の神殿」と呼ばれる場所が存在していたが、今は虚の門が開き、暗黒の海流が周囲を覆っているという。
◆ ◆ ◆
港町フェルナード。
かつて交易で賑わったその街も、今は漁も航海も絶え、住民たちは不安に怯えていた。
「よそから来たのか? なら今すぐ逃げた方がいい。あの“黒い渦”は、人の手じゃどうにもならねぇ」
漁師の男が、蓮たちに警告する。
「俺たちは、その“黒い渦”を止めに来た」
蓮が真剣な眼差しで告げると、漁師は驚き、そしてわずかに安堵したように息を吐いた。
「……なら、せめて気をつけてくれ。あそこには、“海魔”がいるんだ」
◆ ◆ ◆
数日後、蓮たちは船で群島の中心へと向かった。
海は荒れ狂い、黒い渦が空まで伸びる。
渦の中心――そこに、巨大な影が蠢いていた。
「……でけぇ……!」
ルアが息を呑む。
姿を現したのは、全長百メートルを超える巨大な海魔。
鱗は黒く、触手のようなヒレが幾重にも伸び、瞳は紅蓮に輝いている。
「リヴァイアサン……いや、“虚”に侵蝕された海魔種ね」
イリスが剣を握りしめる。
「この存在を放置すれば、群島全域が海に沈むわ」
「だったら――やるしかない!」
蓮が剣を掲げ、号令をかける。
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戦いは凄絶を極めた。
リーナの矢が海魔の眼を射抜くが、すぐに黒い瘴気が修復する。
イリスの魔法が海面を凍らせるも、巨体がそれを粉砕する。
ルアは星光を放ち、海流を押し返すが、圧倒的な水圧に飲まれそうになる。
「ちっ……物理も魔法も効きづらいのかよ!」
カイエンが苛立ちを見せる。
「本体は渦の中心にある“虚核”だ!」
ミストが叫ぶ。
「海魔はその守護者に過ぎない!」
「なら、俺が核まで突っ込む!」
蓮が決断すると、仲間たちは即座に道を開くため動いた。
◆ ◆ ◆
リーナとイリスが同時に攻撃を放ち、海魔の巨体を怯ませる。
その隙に、蓮は無限アイテムボックスから古代の潜水装置を取り出した。
「まさか、これをここで使うことになるとはな……!」
魔力で稼働する潜水装置を装着し、蓮は海へと飛び込む。
深淵の海底、光の届かぬ闇の中で、黒く脈動する“虚核”が渦を生み出していた。
「ここか……!」
蓮は剣を構え、核へ突き進む。
だが、その前に海魔が再び現れ、巨大な顎を開いた。
「お前ごときに……世界を喰わせるかよ!」
蓮は渾身の力で剣を振り下ろす。
星命の光が海を照らし、虚核を直撃する。
◆ ◆ ◆
轟音と共に、黒い渦が弾け飛んだ。
海魔の体は悲鳴を上げるように震え、やがて霧散していく。
暗黒の海は静まり返り、澄んだ青が戻った。
「やった……!」
船上で見守っていた仲間たちが歓声を上げる。
蓮が海面に浮上すると、リーナがすぐに駆け寄った。
「無茶しすぎ……でも、ありがとう」
「へへ、まあな」
蓮は濡れた髪をかき上げ、仲間たちへ微笑んだ。
◆ ◆ ◆
群島の住民たちは涙を流して喜び、蓮たちに感謝を捧げた。
「これで二つ目の虚の門が閉じられたわね」
イリスが空を見上げる。
「残りは……北の砂漠と中央都市」
「決戦は、近いな」
蓮は真剣な表情を見せた。
「でも、絶対に負けない。俺たちが築く国の未来のために」
仲間たちは力強く頷いた。
その夜、群島の星空はどこまでも美しく輝いていた。




