第四十話 多重門戦線〈マルチゲート・フロンティア〉
虚神胎動体〈アバーソン・ジェネシス〉との死闘の末、廃都エルセリアの門は一時的に鎮められた。
だが戦いは終わっていなかった。
虚神の残響が告げた「別の地で門が開いている」という言葉が現実となり、各地から報告が次々に届き始めたのだ。
◆ ◆ ◆
黎明国の王都。
作戦会議室には、蓮と仲間たちのほか、各地の指揮官や技術者たちが集まっていた。
「……確認できただけでも、虚神の門が五つ。東の砂漠地帯、南方の密林、西の群島、北の氷原、そして中央山脈です」
ミストが端末に映し出された地図を指し示した。
「五つも……!」
リーナが目を見開く。
「同時に出現するなんて、どうやって対処すれば……」
「門同士が共鳴してる。だから一つだけ潰しても、すぐに他が拡張する。連鎖を止めるには、ほぼ同時に全てを閉じなければならない」
ミストの言葉に、会議場がざわめいた。
「五つ同時……無茶だ!」
「我々の兵力では到底……」
悲観的な声が広がる中、蓮が静かに口を開いた。
「……やるしかない」
場が静まり返る。
蓮は仲間たちを見渡し、続けた。
「俺たちは逃亡者として始まり、無から国を築いた。どんな不可能でも、仲間と力を合わせて乗り越えてきた。だから今回も――必ずやり遂げる」
その言葉に、仲間たちは強く頷いた。
「五つに分かれて、それぞれの門を閉じるんだ」
◆ ◆ ◆
作戦はこう定まった。
――蓮、リーナ、ルア:中央山脈。
――イリス、シャム:南方密林。
――カイエン、ネフェリス:西の群島。
――ミスト、ノア:北の氷原。
――マリル、援軍部隊:東の砂漠。
「離れて戦うことになるけど……大丈夫。私たちの心は繋がってる」
ネフェリスが柔らかな微笑みを浮かべる。
「離れていても連携できるように、星命共鳴装置の分散型を作るわ」
ミストが端末を操作し、複数の小型装置を取り出す。
「全員が因果を繋ぎ合えば、どこにいても互いを支えられる」
「さすがだな」
蓮が頷く。
「これで五つ同時作戦が可能になる」
◆ ◆ ◆
翌日。
黎明国軍は五つの方面へと分かれ、それぞれの門へと進軍を開始した。
蓮たちの隊が向かった中央山脈は、かつて神々が祭壇を築いたとされる地。
雪を戴く峰々の中腹に、黒き門が突如として顕現していた。
「これは……でかいな」
ルアが息を呑む。
門は山脈を覆うほどの大きさで、周囲の大地を侵食しながら成長を続けていた。
「門の規模が違う。ここが“中心”かもしれない」
蓮が剣を握り直す。
◆ ◆ ◆
同じ頃。
南方密林――イリスとシャムの隊は、緑の海の中で門を目にしていた。
密林の樹々が黒く枯れ、空間に吸い込まれていく。
「ここも酷い……放っておけば森全体が消える」
イリスが眉をひそめる。
「俺が道を切り拓く! あんたは門の力を封じる方法を探せ!」
シャムが槍を構え、突進していった。
◆ ◆ ◆
西の群島――カイエンとネフェリスは、海上に浮かぶ巨大な門を目にしていた。
海が逆巻き、嵐が渦を巻く。
「これは派手だな……!」
カイエンが雷を纏い、空を見上げる。
「大丈夫。私の歌で、嵐も恐怖も和らげるから」
ネフェリスの声が海風に乗り、兵士たちの心を支えた。
◆ ◆ ◆
北の氷原――ミストとノアは吹雪の中を進んでいた。
門は氷の大地を砕き、黒い亀裂を走らせている。
「気温が下がりすぎてる……門が大気そのものを変質させてる」
ミストが端末を睨み、ノアが頷いた。
「でも、僕らなら解析できる。門の構造を暴けば、突破口が見えるはずだ」
◆ ◆ ◆
東の砂漠――マリル率いる援軍部隊は、砂嵐の中で門に迫っていた。
砂漠にそびえる黒い門は、蜃気楼のように揺らぎ、次々と幻影の軍勢を生み出していた。
「こいつら幻影じゃない……実体を持ってる!」
兵士が叫ぶ。
「幻影でも敵でも、私の矢は必ず貫く!」
マリルが弓を引き絞り、矢が黒い兵を貫いた。
◆ ◆ ◆
五つの門。
五つの戦線。
すべてを閉じなければ、虚神は完全に顕現する。
「絶対に負けられない……!」
中央山脈の頂で、蓮は剣を構えた。
「みんな、力を合わせよう! どこにいても繋がってる!」
五つの小型リゾナンスが光を放ち、仲間たちの心と因果が結ばれる。
多重門戦線〈マルチゲート・フロンティア〉――
ここから、世界の命運を賭けた決戦が始まるのだった。
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