第三十八話 虚骸竜討伐戦〈ネガ・ドラゴン・フォール〉
廃都エルセリアの空に、虚骸竜〈ネガ・ドラゴン〉の咆哮が響き渡った。
その声は大気を震わせ、兵士たちの心を直接揺さぶる。
虚神の残滓で生み出された竜は、かつての神代竜すら凌駕する存在感を放っていた。
「やべぇな……あんなのが飛び出すなんて聞いてねぇぞ!」
カイエンが顔をしかめ、全身に雷光を走らせる。
「恐れるな!」
リーナが剣を構え、前へと進む。
「ここで退けば、この世界そのものが終わる!」
蓮は無限アイテムボックスから星命共鳴装置〈アカシック・リゾナンス〉を取り出し、仲間たちの力を集束させた。
「全員で叩くぞ! 虚骸竜を倒さなきゃ門を閉じることもできない!」
◆ ◆ ◆
戦いの火蓋が切られた。
竜の口から虚無の炎が放たれる。
それは触れたものすべてを溶かし、存在すら削り取る災厄の炎だった。
「防御結界展開!」
ミストとノアが声を合わせ、魔導障壁を張る。
光の壁が炎を受け止め、仲間たちを辛うじて守った。
「持たない! 早く攻めて!」
ノアが額に汗を滲ませながら叫ぶ。
「任せろ!」
カイエンが雷を纏い、竜の翼に飛び込む。
雷撃が直撃し、竜の翼骨を砕いた。
「ぐぅぉぉぉぉ!」
虚骸竜の咆哮が響き、空気が振動する。
◆ ◆ ◆
「今だ!」
蓮が剣を掲げ、リーナと共に竜の脚へと斬撃を浴びせる。
「私が斬る!」
「俺が押し込む!」
二人の剣が交差し、竜の脚部に光の亀裂が走る。
その隙を逃さず、シャムが槍を突き立てた。
「穿てぇぇぇぇっ!」
鋭い一撃が竜を貫き、黒霧が爆ぜる。
◆ ◆ ◆
だが虚骸竜は容易には倒れなかった。
傷口から再び黒霧が溢れ出し、竜の肉体を再生していく。
「ちっ、再生かよ!」
カイエンが舌打ちする。
「なら、私が抑える!」
ルアが前に出て、光の翼を広げた。
「僕の中に残っている“虚神の影”……それを逆に使う!」
ルアの身体から放たれる光が、竜の黒霧を抑え込んでいく。
虚骸竜が苦悶の咆哮を上げた。
「ルア……!」
イリスが驚きの声を漏らす。
「今しかない!」
蓮が叫ぶ。
「全員、総攻撃だ!」
◆ ◆ ◆
ネフェリスの歌が戦場に響き渡る。
その旋律は仲間たちの心を繋ぎ、力を増幅させた。
「……星よ、仲間に力を!」
マリルの弓から放たれた光矢が竜の額を撃ち抜く。
リーナの剣が首を裂き、シャムの槍が心臓を貫く。
カイエンの雷撃が体内を焼き尽くし、ミストとノアの魔法が再生を封じた。
「トドメは俺だ!」
蓮が剣を振り下ろす。
仲間たちの力を束ねたその一撃は、虚骸竜の胸を深々と切り裂き、黒霧の核を暴き出した。
「ルア!」
「わかってる!」
ルアが両手を掲げ、光を放つ。
黒霧の核を抱き込み、自らの光で押し潰した。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
虚骸竜が絶叫し、ついに崩れ落ちる。
黒霧は霧散し、門〈ネガ・ゲート〉への供給は断たれた。
◆ ◆ ◆
戦場に静寂が戻る。
兵士たちが次々と武器を下ろし、歓声が上がった。
「勝った……!」
「虚骸竜を倒したぞ!」
リーナが剣を収め、蓮の隣に立った。
「やったね、蓮」
「ああ……でも、まだ終わってない」
蓮の視線は〈ネガ・ゲート〉に注がれていた。
虚骸竜を倒したにもかかわらず、門はまだ鼓動を続けている。
「これは……虚骸竜はただの“鍵”だった?」
ミストが分析結果を見て、青ざめる。
「……つまり、門の本当の脅威は、これから現れるってことか」
ノアが冷静に言った。
蓮は剣を握り直し、仲間たちに声をかける。
「気を抜くな。ここからが本番だ」
門が脈動を強め、黒霧が再び溢れ出す。
虚神残滓の“真の姿”が顕現しようとしていた――。




