第三十七話 廃都激戦〈エルセリア・インフェルノ〉
北方の廃都エルセリア――。
かつて神代文明の中心として栄えたこの都市は、いまや瓦礫と静寂に覆われていた。
だが、その中央に屹立する黒き結晶の門〈ネガ・ゲート〉は、静寂とは程遠い脈動を放ち、虚神の残滓を世界へと溢れさせていた。
「……気味が悪いな」
リーナが剣を構えながら、崩れた神殿の影を見やる。
「まるで都市そのものが“門の器”みたいだ」
ミストが魔導端末を操作し、因果波形を記録する。
「このエルセリアは……虚神を呼ぶために設計された都市だった可能性が高い」
仲間たちの表情が険しくなる。
その時、瓦礫の向こうから槍と旗を掲げた帝国兵が姿を現した。
「黎明国の逃亡者ども、ここで果てよ!」
先頭には、漆黒の鎧を纏った将軍の姿。
「シェルドンの犬どもか……!」
カイエンが雷を纏い、前へ躍り出る。
「ここで足止めするつもりなら、粉々にしてやる!」
◆ ◆ ◆
戦端は一瞬で開かれた。
リーナとシャムが前衛を務め、帝国兵の突撃を防ぐ。
剣と槍の鋼音が廃墟に響き渡り、火花が舞った。
「数が多い……! リーナ、無理はするな!」
「大丈夫、蓮。私はまだやれる!」
後衛では、ミストとノアが結界を張り、帝国の魔導兵からの一斉射撃を防ぐ。
ネフェリスの歌声が戦場を包み、兵士たちの恐怖を和らげ、仲間の力を高める。
「……音楽で心を守る。これが私の戦い方だよ!」
マリルは弓を引き、正確無比な矢を虚神の影に放つ。
矢は黒霧を裂き、門から溢れ出す残滓を浄化していった。
◆ ◆ ◆
だが戦場の奥で、宰相シェルドンが冷笑を浮かべていた。
「よくもまあ抗うものだ……だが、抗えば抗うほど、門は開く」
シェルドンの手には、禍々しい宝珠が握られている。
それは虚神の欠片を封じたもので、門と共鳴していた。
「開け……虚神の門よ!」
黒い結晶が轟音を立て、空間に裂け目が広がる。
その奥から現れたのは、虚骸兵を凌駕する巨影だった。
「こ、こんな……!」
リーナが息を呑む。
姿を現したのは、竜の骸骨を思わせる虚骸竜〈ネガ・ドラゴン〉。
眼窩に紅い光を宿し、口からは虚無の炎を吐き出す。
「やべぇ……街ひとつ吹き飛ぶぞ!」
カイエンが叫び、雷を纏って跳躍する。
「させない……!」
蓮は即座に無限アイテムボックスを展開した。
取り出したのは、以前神殿で授かった“星命共鳴矢”。
それをマリルに託す。
「マリル、これを!」
「任せて!」
マリルの弓が光を放ち、星命共鳴矢が虚骸竜の口内へと吸い込まれる。
轟音と共に爆発が起こり、竜の炎がかき消された。
「今だ!」
蓮が叫ぶ。
リーナとシャムが突撃し、カイエンが雷撃で翼を砕き、イリスが神力で鎖を編んで竜を拘束する。
ルアが一歩前に出る。
その背から白銀の光翼が広がり、両手に金色の光が宿る。
「……僕も戦う! 虚神の残滓は僕が抑える!」
ルアの光が竜の身体に突き刺さり、黒い霧が弾ける。
◆ ◆ ◆
「馬鹿な……! 私の虚骸竜が……!」
シェルドンが叫ぶ。
蓮が剣を構え、まっすぐに宰相を見据えた。
「シェルドン……お前の野望もここで終わりだ!」
虚骸竜の咆哮と共に、帝国軍と黎明国軍の激突はさらに激しさを増していく。
廃都エルセリアは、今まさに炎と虚無に呑まれつつあった。




