第三十一話 黒塔崩壊戦線
漆黒の塔――虚神模倣機構〈アバーソン・エコー〉が、戦場の中央で不気味な脈動を放っていた。
塔の頂から噴き上がる黒い光は空を裂き、周囲の存在そのものを侵食していく。
「やっぱり……本物の虚神に近い波動を発してる……」
ミストが蒼白な顔で呟いた。
「このままじゃ、戦場全体が“無”に呑まれるわ!」
「だったら止めるしかない!」
蓮は剣を構え、仲間たちを振り返る。
「俺たちの力を合わせて、あの黒塔を崩すんだ!」
◆ ◆ ◆
帝国本陣。
宰相シェルドンは高台から戦場を見下ろし、冷笑を浮かべていた。
「虚神模倣機構は不完全ながらも稼働を始めた。勇者たちがどう足掻こうと、因果ごと飲み込まれる……」
将軍の一人が恐る恐る口を開く。
「し、しかし閣下……あれは我々にとっても危険では?」
「愚か者め。危険だからこそ価値があるのだ。制御に成功すれば、我らは神を超える」
シェルドンの瞳は狂気を帯びながら輝いていた。
◆ ◆ ◆
戦場では、黒塔から放たれる衝撃波が兵士たちを襲っていた。
地面が捻じ曲がり、存在の輪郭が削られる。
「ぐっ……! こいつは洒落にならねぇ!」
カイエンが雷撃で防御を試みるが、光はすぐに虚無に飲まれてしまう。
「普通の攻撃じゃ意味がない!」
ノアが必死に結界を展開する。
「蓮、君のアカシック・リゾナンスで因果の根を突くしか!」
「わかってる!」
蓮は無限アイテムボックスから星命共鳴装置〈アカシック・リゾナンス〉を取り出し、剣に重ねた。
装置が起動し、黒塔の構造が光の糸となって視界に映し出される。
「見えた……因果の核は塔の中心にある!」
◆ ◆ ◆
「じゃあ、そこを叩けばいいんだな!」
リーナが剣を振りかざし、シャムが槍を構えて並び立つ。
「俺たちで道を開く!」
「蓮、突っ込めるように隙を作る!」
二人が前線に飛び込み、虚無の波動を切り裂いていく。
だが塔を守るように現れたのは、黒結晶に覆われた巨大な虚骸兵だった。
「まだ隠してやがったのか!」
カイエンが歯噛みし、雷光を放つ。
「ネフェリス、援護を!」
「了解!」
澄んだ歌声が響き渡り、兵士たちの心に勇気を与える。
その旋律に呼応するように、蓮の剣が光を増した。
◆ ◆ ◆
黒塔を守る虚骸兵は、これまでのものよりも強大だった。
ミストが解析しながら叫ぶ。
「これは“塔と直結した個体”! 倒すことで防御層を崩せるはず!」
「ならやるしかねぇ!」
カイエンとノアが同時に魔法を放ち、虚骸兵の動きを封じる。
「リーナ、シャム! 今だ!」
蓮が叫ぶ。
二人の刃と槍が同時に虚骸兵の核を貫き、巨体が爆散した。
同時に黒塔の光が一瞬弱まり、蓮の目に因果の核が鮮明に映る。
「よし、今なら届く!」
蓮は仲間たちの力を借り、光の刃を振り下ろした。
◆ ◆ ◆
剣閃が黒塔に直撃し、轟音が戦場を揺るがした。
塔の外殻が崩れ落ち、黒い霧が四散する。
「やった……!」
兵士たちが歓声を上げかけたその時、塔の内部からさらに濃い闇が噴き出した。
「まだ終わってない!」
ミストが蒼白な声で告げる。
「因果核は崩れていない……塔そのものが“虚神の依代”に変わりつつある!」
黒塔が蠢き、まるで生き物のように形を変えていく。
不気味な目のような赤い光が無数に灯り、全てが蓮たちを睨みつけていた。
「こいつ……もう兵器じゃねぇ! 生き物だ!」
カイエンが絶句する。
蓮は剣を握り直し、仲間たちを見渡した。
「ここが本当の勝負だ! この黒塔を叩き壊さなきゃ、未来はない!」
仲間たちは頷き、それぞれ武器を構える。
黒塔崩壊戦線――それが、黎明国と帝国の命運を懸けた戦いの幕開けだった。




