第三十話 帝国の切り札
虚骸兵五体との死闘が終わり、黎明国軍はついに勝利を収めた。
だが戦場にはまだ張り詰めた緊張が漂っていた。
蓮は剣を下ろし、周囲を見渡す。
兵士たちは歓声を上げながらも、その顔には恐怖と疲労が残っていた。
「……皆、よく戦ってくれた。だが油断はするな。帝国がこれだけで終わるはずがない」
その言葉に、仲間たちも黙って頷く。
虚骸兵は確かに強大だった。だが、帝国宰相シェルドンのことを思えば、必ず次の一手があるはずだ。
◆ ◆ ◆
帝国軍本陣。
宰相シェルドンは戦況を遠望しながら、口元に冷笑を浮かべていた。
「虚骸兵が全滅……予想より早かったな。だが、これでようやく“真の実験”が始められる」
隣に控えていた将軍が驚きに声を漏らす。
「ま、まだ切り札があるというのですか?」
「当然だ。虚骸兵はただの前座に過ぎん。本命はここからだ」
シェルドンが指を鳴らすと、兵士たちが黒布で覆われた巨大な装置を運び出してきた。
それは塔のように高く、表面には古代文字のような紋様が刻まれている。
「こ、これは……?」
「神代の遺産を基に再現した兵器だ。名を“虚神模倣機構〈アバーソン・エコー〉”。虚無そのものを模倣し、因果を食らう存在だ」
将軍たちが息を呑む。
「これを黎明国に放てば……世界は再び帝国の掌に落ちる」
シェルドンの声は冷酷に響いた。
◆ ◆ ◆
黎明国軍の陣地。
偵察に出ていた兵士が戻り、報告を上げた。
「し、宰相シェルドンが……とてつもない兵器を展開しています! 黒い塔のような装置で……空間そのものが歪んで……!」
「来たか……帝国の切り札」
蓮が低く呟く。
ミストが即座に魔導端末を起動し、情報を解析する。
「これは……! 因果を吸収する兵器。存在そのものを無効化する……まさか、虚神を模倣しているの!?」
「虚神を……模倣?」
リーナが眉をひそめる。
「そう。虚神は“在ってはならない否定”の象徴。それを人工的に再現したのが、この兵器よ」
「冗談じゃない……!」
カイエンが雷光を纏い、苛立ちを隠さずに叫ぶ。
「そんなもん放たれたら、この世界ごと飲み込まれるぞ!」
ノアが顔を蒼白にしつつも冷静に言う。
「放置はできない。だが、破壊するのも容易じゃない……蓮、どうする?」
蓮は無限アイテムボックスに手を伸ばした。
その中には、かつて神殿で授かった星命共鳴装置〈アカシック・リゾナンス〉が収められている。
「……あれを使うしかないな」
「でも、蓮。それは因果を強制的に共鳴させる……下手をすれば自分の存在すら削り取られるのよ!」
イリスが険しい表情で制止する。
「わかってる。でも他に方法はない」
蓮の決意に、仲間たちは息を呑んだ。
◆ ◆ ◆
やがて戦場の中央に黒い塔――虚神模倣機構〈アバーソン・エコー〉が姿を現した。
その頂から黒い光が噴き上がり、空そのものが裂けていく。
「やべぇ……空間が飲み込まれてやがる!」
カイエンが叫ぶ。
兵士たちが次々と倒れ、存在の輪郭が薄れていく。
「……ここで止めるしかない!」
蓮が叫び、剣を構えた。
「全員、俺に力を貸してくれ! これが本当の決戦だ!」
リーナが剣を掲げ、シャムが槍を構える。
カイエン、ミスト、ネフェリス、ノア……皆が頷き、それぞれの力を蓮へと重ねていく。
光と歌と魔法が集い、アカシック・リゾナンスが激しく輝いた。
帝国の切り札を前に、黎明国の反撃が始まろうとしていた。
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