第二十一話 帝国の報復
黒炎将軍ヴァルガスを退けた黎明国。
だが、勝利の余韻に浸る間もなく、次なる嵐は迫っていた。
◆ ◆ ◆
黎明城の広間では、戦後処理の会議が行われていた。
兵士たちの士気はかつてなく高く、民衆も「帝国に勝てる」という希望を抱き始めていた。
「これで帝国も、さすがに安易には手を出せなくなるはずだ」
カイエンが腕を組みながら言う。
「そうだな。二度も将軍を破られたとなれば、向こうも焦りを隠せないはずだ」
蓮は頷いた。
だが、イリスは険しい顔を崩さなかった。
「……油断は禁物よ。帝国は体面を重んじる国家。連敗を許せば権威は失墜する。むしろ――報復は必至」
「報復……」
リーナが眉をひそめた。
「それも、これまでとは比べ物にならない規模で来るはず」
イリスの言葉に、場の空気が張り詰めた。
◆ ◆ ◆
その予感は的中する。
数日後、国境沿いの偵察部隊から報告が届いた。
「緊急報告! 帝国が総勢五万の軍勢を動員! 我が国境に向け進軍中とのこと!」
「五万だと……!」
会議場に衝撃が走る。
「赤鱗軍、黒炎軍とは比べ物にならない規模だ……」
ノアが呟く。
「帝国は、いよいよ本気を出したということね」
イリスが冷静に言った。
「五万……我が黎明国の兵力では対抗できない」
カイエンが地図を睨みつける。
「国民を動員しても、二万にも満たない。正面衝突は自殺行為だ」
「じゃあ、どうするの?」
ネフェリスが不安げに尋ねる。
「選択肢は二つ」
イリスが指を二本立てた。
「一つは籠城。創世神域の防御結界を最大限に展開し、帝国軍を寄せ付けない。もう一つは――奇襲と分断。敵の補給線を断ち、内部から瓦解させる」
「籠城か、奇襲か……」
蓮は唸った。
「でも籠城したら民が恐怖で萎縮しちゃうし、物資だって長くはもたない」
リーナが反論する。
「奇襲はどう?」
ネフェリスが首を傾げる。
「補給を断つってことは、帝国軍の食料とか武器を奪うってことだよね?」
「そうだ。ただし成功すれば大きいが、失敗すれば即座に総攻撃を受けて滅ぶ」
カイエンが言った。
「つまり……どちらも危険、か」
ノアがため息を漏らす。
◆ ◆ ◆
その時、蓮が口を開いた。
「……なら、両方やる」
「え?」
「城は防御を固める。同時に、俺と一部の精鋭で帝国軍の補給線を叩く」
蓮の声は揺るぎなかった。
「蓮、それは危険すぎる!」
リーナが叫ぶ。
「わかってる。でも、どちらか一方だけでは勝てない。籠城だけじゃいつか破られるし、奇襲だけじゃ国を守れない」
蓮は真剣に仲間を見つめた。
「だから俺が前に出る。俺の力で補給線を断ち、戦況を覆す」
「……本気、なんだね」
リーナは苦笑し、そして剣を握った。
「なら私も行く。あなた一人に危険を背負わせはしない」
「当然、私もよ」
イリスも立ち上がる。
カイエン、ネフェリス、ノア――皆が頷き、蓮に続く意思を示した。
「よし……なら作戦は決まりだ」
蓮は地図に手を置いた。
「黎明国は、総力を挙げて帝国に立ち向かう!」
◆ ◆ ◆
一方その頃、帝国本国。
漆黒の玉座に座る皇帝は、報告を受けて冷笑を浮かべていた。
「ヴァルド、ヴァルガス……二人の将を失ったか。だがよい。次は“皇帝親衛軍”を出すまで」
その瞳は冷たく、残酷に輝いていた。
「黎明国よ……存分に足掻け。お前たちの抵抗が強ければ強いほど、潰す時の快楽は大きくなる」
帝国の影は、確実に迫っていた。




