第二十話 黒炎決戦
黎明国の軍勢は西方辺境へと急行した。
道中、焼け焦げた村落の跡や、黒く炭化した大地が広がっているのを目の当たりにし、誰もが息を呑んだ。
「……これがヴァルガスの“黒炎”」
リーナが唇を震わせた。
木々は根ごと焼け、石造りの家屋ですら黒い灰と化している。
「ただの炎じゃない。存在を“消す”炎よ」
イリスが冷静に分析する。
「通常の消火魔法も防御結界も意味を成さない。残るのは、燃やされた痕跡だけ」
「まるで炎そのものが呪いみたいだな……」
カイエンが険しい顔をする。
「でも、負けるわけにはいかない!」
ネフェリスが歌声を強め、兵士たちの心を鼓舞した。
黒炎に怯える心を少しでも和らげるように。
◆ ◆ ◆
やがて黎明国の軍勢は、黒煙に覆われた戦場に到達した。
そこに立つのは、漆黒の甲冑を纏い、黒炎を纏った巨躯――黒炎将軍ヴァルガス。
「来たか、小国の首領ども!」
ヴァルガスは豪快に笑い、巨大な黒剣を肩に担ぐ。
「赤鱗のヴァルドを斃したと聞いた時は驚いたが……俺に勝てると思うなよ!」
「ヴァルガス!」
蓮が前に出る。
「ここでお前を止める! この国を、未来を守るために!」
「ほう……面白い。ならば証明してみろ!」
ヴァルガスが黒剣を振り下ろした瞬間、戦場全体が黒炎に包まれた。
熱気ではない。存在そのものを削り取る絶対の焔。
兵士たちは悲鳴を上げ、次々と結界に守られる。
「全軍、防御結界を展開!」
カイエンが指揮を飛ばす。
蓮は無限アイテムボックスから 耐炎結界石 を取り出し、光を解き放った。
「――《星光結界》!」
光の壁が展開され、黒炎を押し返す。
ほんの僅かながら、その呪いの炎を無効化することに成功した。
「効くのか……?!」
ヴァルガスが愉快そうに笑った。
「面白い……だが、俺の黒炎はこんなものではない!」
黒炎がさらに膨れ上がり、空を覆う。
太陽の光すらかき消し、昼間の戦場が夜のように暗黒に包まれた。
◆ ◆ ◆
「やばい……これじゃ、兵がもたない!」
リーナが叫ぶ。
「蓮!」
イリスが駆け寄る。
「耐炎結界石は万能じゃない! あの炎を封じるには、あなたの力――“創世の因子”を解放するしかない!」
「創世の因子……!」
蓮は拳を握り、決意を固めた。
「わかった。全力を出す!」
彼は剣を掲げ、無限アイテムボックスを再び開いた。
そこから取り出したのは、星詠の神殿で授かった 星命共鳴装置〈アカシック・リゾナンス〉。
「全軍、後退! 俺が前に出る!」
「蓮、無茶だ!」
リーナが叫ぶ。
「無茶じゃない! 俺にしかできない!」
蓮は振り返らず、前に進んだ。
◆ ◆ ◆
「来い、小僧!」
ヴァルガスが咆哮し、黒炎の奔流を放つ。
「――《黎明剣技・創刃》!」
蓮の剣から放たれた光刃が、黒炎を切り裂いた。
星命装置の力と彼自身の創世の因子が共鳴し、純白の光が戦場を照らす。
「光……だと?」
ヴァルガスが目を細める。
黒炎と白光が衝突し、轟音が戦場を震わせる。
「これが……俺たちの未来だ!」
蓮が叫び、さらに剣を振る。
光の奔流が黒炎を押し返し、ヴァルガスの鎧に亀裂が走った。
「ぐぬぬ……! だが、これで終わりではない!」
ヴァルガスはなおも笑い、黒炎を増幅させる。
「蓮、一人じゃ無理だ!」
リーナが剣を構え、イリスも魔力を注ぎ込む。
カイエン、ネフェリス、ノア――仲間たちが次々と力を貸し、光はさらに強くなった。
「――みんなの力で、未来を切り開く!」
最後の一閃が放たれた。
黒炎を裂き、ヴァルガスの黒剣を粉砕する。
「な、に……?!」
ヴァルガスが膝をつき、黒炎が消えていく。
「勝負は……ここまでだ!」
蓮の叫びとともに、戦場に光が満ちた。
◆ ◆ ◆
黒炎将軍ヴァルガスの敗北。
黎明国の軍勢は歓声を上げ、勝利を喜んだ。
だがその中で、蓮は剣を握ったまま、表情を引き締めていた。
「これで終わりじゃない。帝国は、さらに強大な力を送ってくるはずだ……」
空を見上げる蓮の瞳には、次なる戦いへの決意が宿っていた。
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