第十四話 地竜の余波
黎明国とローヴァ村の交易が正式に始まった翌日、黎明国の広場には驚くべき戦利品が並べられていた。
討伐した地竜の鱗、牙、そして莫大な肉塊。
「うおお……! こんな大きな肉、見たことねえ!」
「鱗は刃物でも削れないぞ……鎧にしたら無敵じゃないか?」
村人たちは口々に驚きの声を上げた。
「これだけの資源があれば、食料も防具も一気に強化できる」
ノアは鱗を手に取り、魔導装置で解析を始めていた。
「魔力を通しやすい性質がある……加工すれば“竜装甲”として兵士に装備させられるはずだ」
「私に任せて!」
カイエンが大きな腕を振り上げる。
「鍛冶屋の親方に弟子入りした経験がある。こいつを武器や鎧に仕立ててやる」
「肉はどうするの?」
ネフェリスが興味津々で竜肉をつつく。
「無限アイテムボックスで保存する。少しずつ配分して……干し肉にもできるな」
蓮は次々と竜肉を収めながら言った。
「国の食料備蓄が一気に潤うぞ」
「ふふ、竜を食べる国なんて聞いたことないわね」
リーナが笑い、場の空気が明るくなった。
◆ ◆ ◆
その日の午後、黎明国では小規模ながらも祝宴が開かれた。
焚き火の上で竜肉が焼かれ、香ばしい匂いが村中に漂う。
「うわ……硬いけど旨味がすごい!」
「力が湧いてくるみたいだ!」
村人たちの顔には喜びと活力が溢れ、まるで戦いの傷を忘れるかのようだった。
ネフェリスは竪琴を奏でながら歌い、子どもたちがその周りで踊る。
イリスは静かに杯を傾けながら、全体を見渡していた。
「……蓮、この光景を見てどう思う?」
「誇らしいよ。でも同時に、責任の重さも感じてる」
蓮は焚き火を見つめながら答える。
「俺たちが竜を討ったことで、人々は“国としての力”を信じ始めた。でも、それは同時に帝国の目を引き寄せる」
イリスの表情が引き締まった。
「そう。敵は必ず次の手を打ってくる」
その言葉は、現実となるまでそう長くはかからなかった。
◆ ◆ ◆
帝国・黒牙軍本陣。
密偵の報告を受けた赤鱗将軍ヴァルドは、豪快に笑った。
「地竜を倒しただと? 面白い、実に面白い!」
「将軍、あの黎明国は侮れません。補給拠点を築き、兵を増やしてから攻め込むのが得策かと」
副官が進言する。
「いや――時間を与える方が危険だ」
ヴァルドの赤い瞳が鋭く光る。
「奴らは“国”を作ろうとしている。今のうちに潰す方が簡単だ」
彼は立ち上がり、赤鱗の甲冑をまとった。
その姿だけで、周囲の兵たちは息を呑む。
「準備を整えろ。我が軍が動く」
帝国の大軍が、静かに黎明国へと迫り始めていた。
◆ ◆ ◆
一方、黎明国では新たな挑戦が始まろうとしていた。
竜素材の加工、交易の本格化、そして国の制度作り。
「やるべきことは山ほどあるな」
蓮は広場を歩きながら呟いた。
リーナが笑みを浮かべる。
「でも、やりがいがあるでしょ?」
「そうだな」
蓮は旗を見上げた。
星を象ったその旗は、確かに人々を導いていた。
だが同時に、その旗は帝国にとって“消すべき光”となりつつある――。




