第十一話 国民会議
朝日が昇ると同時に、村の広場には人々が集まっていた。
木製の長椅子が並べられ、中央には簡素な壇が設けられている。
そこに立つ蓮の胸は、高鳴っていた。
「みんな、今日はありがとう。俺たちは黒牙軍を退け、生き延びた。だが、これからは“国”を創るための道を進まなければならない」
ざわめきが広がる。
人々の顔には不安と期待、そして緊張が入り混じっていた。
「そのために必要なのは、俺一人の判断じゃない。みんなの声だ。今日から俺たちは、“国民会議”を開く」
蓮の宣言に、村人たちの間に小さな拍手が起こった。
それはまだ戸惑いを含んでいたが、確かな一歩だった。
◆ ◆ ◆
最初に話し合われたのは「名前」だった。
ただの村から国へ――その象徴となる国名が必要だったのだ。
「“自由の国”なんてどうだ?」
若者の一人が声を上げる。
「いや、“黎明”って言葉もいいわ。新しい朝の始まりを意味するし」
年配の女性が提案する。
「食べ物が豊かになるように、“穂の国”なんてのも……」
農夫が手を挙げ、笑いが広がった。
やがて、多くの意見を集めた結果――
国の名は 《黎明国》 に決まった。
「新しい朝を迎える国か……いい名前だな」
蓮はその響きを胸に刻み込んだ。
◆ ◆ ◆
次に議題となったのは「役割分担」だった。
「軍事は私に任せて」
リーナが即座に名乗りを上げる。
「剣を握り続けるのが私の役目だから」
「なら俺は土木と建築だな」
カイエンが胸を叩く。
「水路も柵も、俺と若者たちが作り上げる」
「私は癒やしを担うよ。医療班を整えて、誰も取りこぼさない」
ネフェリスは真剣な表情で頷いた。
ノアは魔導装置を手に持ち、静かに言った。
「僕は研究と技術の担当。装置を改良して、国の力を底上げする」
「なら私は行政と記録を引き受けるわ」
イリスが手を挙げる。
「みんなの意見を取りまとめ、制度を整えていく」
人々は次々に自分の得意分野を名乗り、役割を分担していった。
その光景を見ながら、蓮の胸に熱いものがこみ上げる。
「……これだ。これが、俺の作りたい国なんだ」
誰か一人に依存するのではなく、皆で支え合う国。
その礎が、今この瞬間に形作られていた。
◆ ◆ ◆
会議の終盤、イリスが一歩前に出た。
「最後に、一つ決めておきたいことがあるわ。それは、この国の“旗印”」
「旗印……」
蓮は呟き、しばし考えた。
「俺たちが掲げるのは、力や血じゃない。希望だ。だから――」
無限アイテムボックスから取り出したのは、星を模した布だった。
星々を描いた紺青の旗を掲げると、人々から歓声が上がった。
「いい! 夜空の星みたいに、俺たちを導いてくれる!」
「どんな闇でも、星は消えないもんな!」
こうして、黎明国の旗が掲げられた。
それはまだ粗末な布切れに過ぎなかったが、人々にとっては未来を示す光だった。
◆ ◆ ◆
夜。
蓮は焚き火のそばで、仲間たちと肩を並べていた。
「今日は……大きな一歩だったな」
「ええ。でも、まだ始まったばかりよ」
イリスが頷く。
「そうだな。敵は必ず来る。赤鱗将軍ヴァルド……名前だけだが、恐ろしく強いらしい」
カイエンが呟き、場が引き締まる。
蓮は空を見上げた。
夜空に瞬く星は、掲げた旗と重なって見えた。
「どんな敵が来ても、この国は守る。みんなで、必ず」
その言葉に、仲間たちは静かに頷いた。
新たな国の夜は、希望と決意に包まれて更けていった。




