第百五話 価値相殺領域〈リバース・オリジン〉
光と闇が同時に震え、起源の裏層――ゼロ・レイヤーの空間そのものが波紋のように揺らいだ。
蓮が“過去の自分”を救うと宣言した瞬間、黒蓮――いや、“影の蓮”の輪郭が揺らぎ始める。
その変化は敵対者の崩壊ではなく、より深い対話と衝突への“移行”だった。
『……認めるのか。逃げたお前を、弱かったお前を――そのすべてを』
影の蓮の声は、先ほどまでの嘲笑とは違う。
痛みを帯び、戸惑いを抱え、そして……願いにも似た揺らぎが混じっていた。
「認めるさ」
蓮はまっすぐに影の蓮を見る。
「逃げたかった俺も、傷ついてた俺も……その弱さがあったから、助けてもらったから、今の俺がいる」
ネフェリスが涙ぐみながら叫ぶ。
「蓮は弱さを否定したりしないよ! ずっと……ずっと、あたしたちを救ってきたもん!」
シャムも腕を組み、深く頷いた。
「強がってばかりの奴なんて信用できねぇ。弱えからこそ立ってる、それが蓮だ」
「蓮くん……あなたの弱さは、優しさの裏返しです」
マリルが静かに微笑む。
影の蓮は全員を見渡し――そして、蓮を見た。
『……では、次の段階に移ろう』
◆ ◆ ◆
■ 世界が“ひっくり返る”
ゼロ・レイヤーが音を立てて反転した。
黒い空が白へ。
白い地が闇へ。
上下も概念もあらゆる基準が一瞬で入れ替わる。
「っ!? 重力が……逆方向に!?」
ミストが体勢を崩す。
「概念変換……ゼロ・レイヤーが“価値相殺モード”に入ったのね」
イリスが歯を食いしばりながら説明する。
「価値相殺……?」
ノアが問い返す。
「蓮と影の蓮の価値基準が競合すると、世界が二人の“存在価値の差”を測ろうとして、空間自体が基準をひっくり返すのよ!」
「簡単に言えば――」
リーナが蓮の腕を掴みながら言う。
「蓮の価値が揺らいだら、この世界ごと“蓮をゼロに戻そうとする”の!」
「……それ、最悪じゃねぇか!」
シャムが叫ぶ。
◆ ◆ ◆
■ 影の蓮、真の形へ
反転した大地の中心に、影の蓮が立った。
その身体から黒でも白でもない――“無彩色の光”が立ち昇る。
『俺は“可能性を捨てた蓮”。お前は“可能性を選び続ける蓮”。』
影の蓮は静かに掌を開く。
『この世界は、どちらを“真価”と認めるのか――それを測る試練が始まる』
蓮は一歩前へ出た。
「お前が何であれ、否定しない。だけど……俺は進む。未来を創るために」
『ならば見せてみろ。“お前に未来を託す価値”があるのか』
影の蓮の後ろで、ゼロ・レイヤーが裂けた。
◆ ◆ ◆
■ 裂け目から現れた“もう一つの蓮”
「え……?」
リーナが目を見開く。
裂け目から出てきたのは――影の蓮とは違う、弱々しい姿の“別の蓮”。
蓮自身も息を呑んだ。
「……これ、俺が……もっと前に折れていたら、こうなっていた……?」
その蓮はしゃがみ込み、膝を抱えていた。
「やめてくれ……もう、何もしたくない……責めないで……比べないでくれ……」
影の蓮が言う。
『創造主を名乗るなら、“どんな可能性の自分”も救えるかを試される』
蓮は震える膝で、しゃがみ込む蓮へ近づいた。
「俺……」
言葉が詰まる。
しかし――リーナがそっと背中を押した。
「蓮。大丈夫。あなたはずっと、私たちを救ってきた。今度は――自分自身を救う番だよ」
イリスも穏やかに微笑む。
「恐れなくていいわ。“自分”に手を差し伸べるのは、誰よりも勇気が必要だから」
蓮は深く息を吸い、膝をついた。
「……俺は、お前を否定しない。逃げたくて、諦めてて、誰にも言えずに苦しかったお前を……」
震える蓮の肩にそっと手を置く。
「――俺が救う」
しゃがみ込んだ蓮の身体が震え、そして少しずつ光の粒になり、蓮の胸へ吸い込まれていった。
◆ ◆ ◆
■ “二つ目の自己救済”――完了
影の蓮が静かに呟く。
『……二つ目の“否定核”が解放されたか』
蓮の背後に浮かぶ六つの光輪が轟音を上げ、
――七つ目の輪が生まれた。
イリスが息を呑む。
「七輪……創造主階梯【中位層】の証……!?蓮――あなた、もう……!」
『なるほど。“逃げた自分を許す”だけでなく、“折れた自分を抱きしめた”か』
影の蓮の眼がわずかに揺れた。
『次で――決まる』
「次……?」
『“価値”の最終基準は――お前が“何のために未来を創るのか”』
影の蓮が構えを取る。
『次は、戦いだ。理念でも、力でもない――“存在理由”の衝突だ』
蓮はゆっくりと立ち上がり、拳を握った。
「来い――俺はもう、逃げない。どんな“俺”が相手でも!」
ゼロ・レイヤーが再び震え、起源世界の深層に“最終試練”の扉が開いた。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




