第百三話 記憶統合領域〈エコー・アセンブル〉
光と闇が激突し続ける創世階梯。その空間は今、二つの理念の衝突によって限界まで軋んでいた。
蓮の“未来結界”は黒蓮の虚子核を防ぎ続けているが、その衝撃は世界そのものに影響を与えている。階段の段が揺れ、光の粒子が散り、まるで階梯が悲鳴を上げているかのようだった。
「まずい……このままだと階梯が崩れる!」
ミストが警告する。
「階梯が壊れたらどうなるんだ?」
シャムが歯を食いしばりながら問い返す。
「創造の座そのものが“未確定状態”になって、世界の未来が消滅する!」
「消滅って……そんなのダメだよ!」
ネフェリスが目を潤ませる。
イリスは蓮の背に手を置き、小さく首を振った。
「創造主の戦いは、理念の衝突……でもね、蓮」
「なんだ?」
「あなたの心……まだ全部“出し切れていない”」
その言葉に、蓮は思わず息を呑んだ。
イリスの瞳は静かに、しかし確信を持って蓮を見ている。
「蓮。あなたの記憶のどこかに、“本当の核”がまだ眠っている。
黒蓮はそこに干渉してるのよ」
「俺の……記憶の核……?」
その瞬間、黒蓮が不気味な笑みを浮かべた。
『思い出せ。お前は“世界から逃げようとした男”だ。その事実からは逃れられない』
黒蓮の声が階梯全体に響いた瞬間、白い空間が一気に暗転した。
まるで記憶の海そのものが引きずり出されたかのように、蓮の視界がゆらぎ――
◆ ◆ ◆
■ 蓮、精神世界へ落下
蓮の周囲に広がるのは――中学の教室。
夕暮れの空。
閉ざされた窓。
机に刻まれた傷。
「……なんで、こんな場所が……?」
リーナたちが叫んでいるはずの声は聞こえない。
ここは完全に“蓮の精神世界”だ。
黒蓮の声が頭に直接響く。
『忘れたのか?お前が“何者でもない自分”を嫌い、未来を諦めた日を』
「…………ッ」
蓮は言葉を飲み込んだ。
確かに――あの日。
蓮はすべてを閉ざした。
自分は平凡。
努力しても報われない。
誰からも期待されない。
そんな“諦め”が胸にあった。
「だけど……!」
蓮が叫ぼうとした瞬間――
教室の扉が静かに開いた。
◆ ◆ ◆
■ 記憶の中の“少年・蓮”
そこに立っていたのは――蓮自身。
中学時代の、自信も希望もなかった頃の蓮。
「……お前……」
その少年は蓮を見つめ、かすかに笑った。
「逃げたくて、泣きたくて、苦しかったよな。俺が、お前だ」
蓮は拳を握った。
胸が痛い。
だけど、もう逃げられない。
「……ああ。お前の気持ちは、忘れてない」
「じゃあ――」
少年の蓮が問いかける。
「なんで変われたんだ?」
蓮は、一度目を閉じた。
そしてゆっくり答える。
「――仲間と出会ったからだよ」
◆ ◆ ◆
■ 記憶空間、仲間たちの声が響く
教室の壁がひび割れ、白い光が差し込んだ。
「蓮! 戻ってきて!」
リーナの声が空を裂く。
「あなたは一人じゃない!」
イリスが叫ぶ。
「記憶なんかに負けないでよ!」
ネフェリスの声。
シャム、ノア、ミスト、マリルの声が次々と響き、精神世界が揺らぎ始める。
「……聞こえるか、俺」
本来の蓮が静かに言った。
「俺は、お前の延長線上にいる。でも――“俺たち”は、一人じゃなかったんだ」
少年の蓮は、初めて表情を崩した。
「……いいな、それ」
「お前の痛みも、諦めも、弱さも――全部俺が受け継いで強くなる。だから、もう休んでいい」
蓮が手を伸ばすと、少年の蓮は静かに頷いた。
「任せたぞ、未来の俺」
その身体は光となり、蓮の胸の中へ吸い込まれた。
■ 記憶統合、完了
蓮の意識が現実へ戻ると――
◆ ◆ ◆
■ 階梯、白光へ包まれる
「蓮!」
リーナが抱きつき、シャムが安堵の息を吐く。
「戻ったのね……!」
イリスが胸に手を当てた。
「悪い……みんな」
蓮は微笑む。
「もう大丈夫だ」
黒蓮は沈黙して蓮を見つめていたが、次の瞬間――
『記憶統合完了……“否定核”の一部を失ったか』
黒蓮は初めて、わずかに後ずさった。
「俺はもう、お前に揺らがない。逃げたくなる気持ちも、弱かった自分も――全部認めて前に進む」
蓮の背後で六つの光輪がさらに輝きを増す。
イリスが驚愕する。
「創造力が……倍増してる……!?蓮、あなた――」
「“自分”を取り戻したんだ」
ミストが呟く。
黒蓮が腕を広げる。
『では――次の段階に進む。理念ではなく、“存在価値”の戦いだ』
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