第百話 理念衝突〈デュアル・クリエイター〉
光の階梯は止まり、天の彼方へ伸びる白い道の上で、
蓮と“もう一人の蓮”が対峙した。
無限に拡がる白の世界。
その中央だけが、黒と白の二分に分かれ、
まるで価値観の境界そのものが形となったかのようだった。
「蓮……気をつけて」
イリスが背中から囁く。
「ああ。こいつは――俺だ。 俺の弱さ、俺の迷い、その全部が“形”になって現れてる。前に統合した『可能性の俺』とは違う。こいつはもっと根源的な……俺の抱える『感情の影』そのものだ」
“もうひとりの蓮”は感情の欠片も見せず、蓮へと視線を向ける。
『自由は、不安定を招く。
選択肢は、混乱を招く。
意思は、衝突を生む。』
「その通りだよ」
蓮は正面から受け止めるように言った。
「自由があれば、争いも生まれる。選択肢があれば、迷いや失敗もあるだろう。でも、それでも人は生きるんだ」
影の蓮は瞬きもせず告げる。
『無駄だ。失敗の可能性を排除すれば、世界は“完全に平和”になる。恐怖も苦痛もない、完璧な秩序が生まれる。』
「……それ、平和か?」
シャムが剣を握り、低く言った。
「違う。それは“檻”っていうんだよ」
「そうだよ!」
ネフェリスが強く叫んだ。
「蓮の世界は、もっと広くて、もっと自由で……温かいっ!」
影の蓮は動じない。
「温かさは必要ない。効率こそが至高。均等な幸福を強制することこそ、最適化された世界だ」
「強制された幸せなんて――それはただの服従です」
ノアが言う。
「“幸せだと信じ込まされる幸せ”より、“自分で選ぶ幸せ”のほうがいい」
リーナが蓮の前へ立つ。
その瞳には確かな決意が宿っていた。
「蓮はね……ただ“優しい世界”を作りたいんじゃない。“誰かが誰かを諦めなくていい世界”を作りたいの」
蓮は仲間の言葉に、静かに微笑んだ。
「お前は間違ってないよ。過去の俺。弱かった俺。何も信じられなかった俺」
影の蓮の瞳がわずかに揺れた。
「……だが、それでも俺は前に進む。お前が守ろうとした“絶対の秩序”なんかより、俺は――」
蓮は拳を握りしめる。
「仲間と生きる未来のほうが、何千倍も大事なんだよ!」
世界が震えた。
影の蓮の背後に広がる黒い空が、ざらついた波紋を生む。
『無価値な感情だ。仲間? 繋がり?そんな脆いものが、創造主に必要だと思うのか』
「必要だよ」
イリスが蓮の側に立ち、白銀の光を放つ。
「蓮の強さは、決して“孤立した力”じゃない。出会い、想い、繋がり……その全部が彼をここまで導いたの」
「そうだね。蓮は昔より強くなった」
リーナが微笑む。
「でもね――優しさも、ちゃんと強くなったんだよ」
シャム、ノア、ミスト、マリル、ネフェリス……
全員が蓮の背中に立った。
その姿を見て、影の蓮は初めて僅かな感情を見せた。
それは――困惑。
『……理解不能。なぜ依存する?孤立したほうが強い。他者は不確定要素だ』
「確かにそうだった」
蓮も嘘は言わない。
「けどな――“一人じゃ見えなかった未来”があるんだよ」
蓮はゆっくりと前へ進む。
「お前は俺じゃない。俺の過去の“残滓”だ。だから消すんじゃない。――乗り越える」
影の蓮は静かに目を閉じた。
『証明しろ。本当に仲間が強さになるというなら――創造主の階梯において、実力で示してみせろ』
影の蓮が腕を広げた瞬間、黒い世界が一気に構築される。
無限の刃、吸い込む重力、思考を混乱させる幻惑――
かつて蓮が味わった弱さと恐怖が、すべて具現化した。
「来るぞ――!」
シャムが剣を構える。
「蓮、私たちが支える!」
イリスが光を展開する。
「仲間の力、全部見せつけてやるんだから!」
リーナが剣を引き抜く。
蓮は、胸の奥で熱く脈打つ何かを感じながら、一歩踏み出した。
「創造主の資格――お前にだけは渡さない!」
光と影が激突し、階梯全体が共鳴した。
創造を決める“理念の戦い”が今、始まる。
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