第九十九話 未来図の胎動〈デザイナーズ・ワールド〉
眩い光が蓮の胸元から溢れ、周囲を包んでいく。
階梯は静止し、ただ蓮の言葉を待っていた。
光の階段は、天に向かって伸びたまま動かない。
今は蓮の想いが“世界の形”を決める――そんな静謐な緊張が漂っていた。
「……創る世界の姿、か」
蓮はゆっくり口を開く。
仲間たちの視線が、自然と彼へと集まる。
「俺が創りたい世界は――」
蓮の言葉とともに、光の海が波紋を描き、その中心からひとつの映像が立ち上がる。
それは――
草原、青空、自由に笑う人々。
「争いがまったくない世界、じゃない」
蓮は静かに続けた。
「人は自由を求め、選択する以上、衝突は必ず起きる。完全な平和なんて、押しつけるべきじゃない」
リーナが小さく頷く。
「そうだね。平和“だけ”を求めると……誰かが縛られちゃう時もあるし」
「でもな、俺は――」
蓮は右手を前に伸ばす。
光が反応し、未来の景色がさらに鮮やかになった。
「“誰でも未来を選べる世界”を作りたい。その選択肢が奪われない世界を」
「未来を……選べる?」
ノアが呟く。
「ああ。生まれがどうであれ、才能がどうであれ、誰かの都合で道を塞がれたりしない――そんな世界だ」
蓮の言葉に、シャムが笑う。
「……いいじゃねえか。そういう世界なら、俺も胸張って戦える」
「蓮の世界……素敵」
ネフェリスはうっとりとした表情で空を見上げた。
「蓮」
イリスが一歩踏み出し、その目をまっすぐ向ける。
「あなたの言う未来は、きっと“創造”に値する。でも……選択できる未来って、具体的にはどういうこと?」
「それは――」
蓮は少し息をつき、光で形づくられた“未来の世界”を指した。
「たとえば、魔法が使えない子でも、
別の才能で生きられるようにする。
たとえば、力を持つ者が弱い人間を踏みつけられないようにする。
たとえば、種族の違いで道が閉じられないようにする。
――そんな世界だよ」
ミストが感嘆するように目を細めた。
「……能力ではなく、選択肢による自由。蓮らしい合理で優しい設計ね」
「私は、もっと単純でいいと思うよ」
リーナが柔らかく言った。
「“みんなが笑っていられる場所”――それが蓮の目指す世界なんじゃない?」
気恥ずかしさに蓮は頭を掻いた。
「……まあ、そうかもしれないな」
そのとき。
光の階段が、蓮の言葉に呼応したように震えた。
「……反応が出てる」
ミストが装置を見て言う。
「蓮のイメージが“世界の構造”として認識され始めたのよ」
そして、空間に新たな文字が浮かんだ。
《世界設計、一次承認》
蓮の未来図、基幹構造として受理。
創造階梯は第二段階へ移行。
天から降り注ぐ光が階段へ注ぎ込み、無限の段がゆっくりと動き出す。
「動いた……!」
マリルが叫ぶ。
だが、その直後――
空間全体が低く唸りをあげた。
「これは……拒絶反応?」
ノアが走査値を読み取る。
「違うわ」
イリスの声には緊張があった。
「“対抗理念”が現れたの」
「対抗……理念?」
蓮が眉を寄せる。
「あなたの世界設計に対して、別の“創造の候補”が異議を唱えている」
光の世界が揺らぎ――
黒い影が、音もなく立ち上がった。
まるで蓮の未来図を裂くように。
「誰だ……?」
シャムが剣を握り締める。
黒い影は、ゆっくりと形を成していき――
やがて、ひとりの“人の形”をした像へと変化した。
その顔が露わになった瞬間――
蓮の胸が強く脈打つ。
「……え?」
蓮とまったく同じ顔。
だが瞳は冷たく、表情には一切の温度がない。
「蓮……?」
リーナが思わず蓮の腕を掴む。
イリスが低く告げる。
「彼は――“蓮のもう一つの可能性”。創造主の別解。あなたが辿らなかった未来からの、残留理念」
「俺の……別の未来?」
蓮は唾を飲んだ。
もう一人の蓮が、無機質な声で囁く。
『選択肢など不要だ。秩序のみが世界を安定させる』
階段が軋み、世界構造が揺らぐ。
「くっ……完全に“対立設計”だ!」
ミストが叫ぶ。
「蓮、これは“創造権争い”……!」
イリスが蓮の手を強く握る。
蓮は深く息を吸い、目の前の“もう一つの自分”をまっすぐ見据えた。
(ああ……そうか)
こいつは俺の――
最も弱かった時の思想の残滓。
誰も信じず、誰にも頼らず、ただ効率と安全だけを求めていた“あの頃の俺”。
「……お前を乗り越えない限り、創造主にはなれないってわけか」
別の蓮は答えない。
ただ、階段の上へ一歩踏み出した。
蓮もまた、前へ進む。
世界の未来――
ここで本格的に“分岐”が始まる。
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