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¶17 祐人、おまえね

「おっ」

突然、エルラガルが軽く声を上げた。

 みぞおちを鳩尾を鋭くえぐる小さな拳を、祐人はとっさに受け止める。受け止められる。身体が再び実体化したのだ。

 それを把握して、また実感して、エルラガルは拳を高く振り上げた。

「やった、戻った!」

祐人と筒井は、おぉ、と棒読みの歓声と拍手だ。エルラガルは、嬉しいのをごまかそうとして照れくさそうに拍手を手で制す。

 えほん、とわざとらしいせき払い。

「えー再びー、あたしの身体が実体化したことについてー、誠にー嬉しく思うー」

変に間延びした口調で、エルラガルが口上を述べる。

 それを見た筒井が、祐人に耳打ちしてきた。

「あれ、なんですか?」

「さぁ、俺にも解んないですけど、照れ隠しのつもりかと。 テレビでやってたんじゃないんですかね」

「へぇ、テレビっ子なんですか。 意外ですね」

「最初の頃なんて、カタコトみたいな堅苦しい日本語だったのを、きっとテレビ見て学習してたんです。 余計なモノも入ってるかもだけど、今では、たぶん俺よりも情報通ですよ」

「とーいうわけでー、あたしは本来の目的であるー敵拠点の襲撃をー、実行に移そうと」

「!? ちょっと待った!!」

祐人が叫ぶ。

 右手を高々と振り上げるエルラガルの肩を掴もうとして、

「!!?」

その手が空を切った。

 はっとしてエルラガルの顔を見ると、同じく驚いた表情の青い目が祐人を見ていた。すぐに、怒りのそれに変わる。

 また、エルラガルの実体化が解除されたのだ。

「……祐人、おまえね」

「な、何が?」

エルラガルが口角の端だけを上げて、笑いを浮かべている。

「祐人、おまえだったのね」

「言ってる意味が分からないッ」

祐人は即刻否定する。エルラガルの意図は分からないが、気配から察するに、良くないことなのは明らかだ。

 もう、とエルラガルは唸って、髪をかきむしる。ギラギラした野獣のような気配が薄れると同時に、エルラガルは再び実体を取り戻した。

「祐人、おまえがあたしへのエーテル供給を調整してたんでしょ」

「そんな難しいこと、出来るわけないだろ」

祐人にとっては事実だ。供給調整など思いつきもしなかったし、むろん意識してやれるはずもない。

 だが、祐人も置いてけぼりの筒井も無視して、エルラガルはひとりで大きく頷いた。

「祐人はあたしの『依り代』なんだから、当然といえば当然か。 でも、無意識に供給調整されると厄介ね」

「えぇい! 勝手に話を進めるんじゃない!」

「もぅ……いい? あたしのエーテル供給元である祐人が、あたしの許可なく供給減らしたから、実体化できるだけのエーテルが足りなくなったの」

指を振り振り、エルラガルが解説する。

 そういうものか、と祐人は自身の事柄にもかかわらず身勝手にも納得しかける。筒井がおずおずと質問することがなければ、そうなっていたはずだ。

「あの、何故そう考えるのか、ってところが私には今ひとつ解らないんですが……」

「祐人があたしを制止しようとすると、実体化できなくなる。 この観点で、あたしには充分すぎるほど納得できる。……かなり釈然としない話だけど」

最後の言葉は、エルラガルがぼそりと呟いた。

 それで、なんとなく祐人と筒井は、エルラガルの言葉が真実だと納得する。真偽のほどは定かではないが、一番詳しいエルラガルはそう考えているのだ、そしてそれは一番答えに近いはず、という程度ではあるが。

 エルラガルが口火を切る。

「これからどうするか、っていうことなんだけど」

「あのゲーセン、確認したいんだろ?」

祐人が言葉を継いだ。『確認』に力を込める。それに、エルラガルは大きく頷く。ギラギラとした目線と、物珍しさが半々だ。

 筒井が、慌てて口を出してきた。

「壊すのはダメですよ!? 一応、職務中の警察の前ですし」

「分かってるって。 『確認』だから」

エルラガルの青い目が、らんらんと輝いている。

 早速、足がゲームセンターの建物の方へ向く。祐人は、心配そうな筒井の方に振り向いた。

「大丈夫だよ。 なんとなく、オチが見えてるから」

「……そうなんですか?」

「早く!」

そうこうしているうちにエルラガルが、自動ドアの前に仁王立ちしていた。さながら気迫溢れる道場破りといった体裁だ。

 だが、エルラガルは入ろうとはしない。エルラガル、と祐人は声をかけた。

「攻撃の準備だけはしておいて」

エルラガルの手が、淡い光を放ち始め、

「んっ」

その手首を、祐人が掴む。

「俺が手を離すまでは攻撃するんじゃないぞ」

祐人の精一杯の譲歩、と同時に虚勢だ。

 エルラガルに無関係な人間を攻撃させないこと、敵の罠の可能性、双方を辛うじて達成できる選択肢だ。だが、エルラガルが祐人の言うことを聞くのかが問題だった。

 不本意なようだったが、エルラガルは納得したようだ。

「わかった」

「……ぷっ」

「笑うな、そこ」

後方で見ていた筒井に釘を刺す。

 周囲にくまなく目線を配るエルラガルの手を引き、祐人はゲームセンターに入った。

 案の定、騒音と光の明滅が錯綜する。エルラガルの手に破壊のエネルギーが集積するのを、祐人は感じた。だが、すぐさま攻撃に移ることはないようだ。祐人はひとまず安心する。

「攻撃は、ないようだな」

「ーーーーーーッ」

目を白黒させるエルラガルは置いといて、祐人は筒井に目線をやる。納得したようなしてないような、半信半疑の顔だ。

 それはおそらく筒井が、"ゲームセンター"を知らない人が存在し、よもやエルラガルがそのひとりであるということに考えが及ばないためだ。

 そんなことより、と祐人は気を持ち直す。

 例の三人の情報を集めるのと同時に、怪しい人物がいないかも確かめなければならない。

「じゃあ、手分けして探そうか」

「そうですね。 私はまず店長に話をして監視カメラの映像を見せてもらってきます」

そう言って、筒井は店の奥の方へ向かった。

 それを見送りつつ、祐人はエルラガルに声をかける。

「遊びに来たんじゃないんだからな、それだけは肝に銘じておけよ」

そこで、何の前触れもなく手を離したのが、祐人の最大の失策だった。

「……敵!?」

すぐさま反応したエルラガルは、集積した破壊エネルギーを爆発させる。手近にあったクレーンゲームの筐体が、ひしゃげて吹き飛んだ。



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