092話 男になれなかった?勇者
魔石伯の城で神殿の事を元勇者ファムと元聖女ラーナに聞こうと思って文官部屋に行ってみたら、ラーナの具合が悪いようで2人共に休んでいるようだ。まあ大事ないと思うが念のために自宅を訪ねて見る事にした。
分身ルキウスはお留守番で、蒼汰で出掛ける事を城の居間で親達に告げる。
「元神殿組だけど具合が悪いみたいだから、様子を見て来るね。聞きたい事があったし」
「具合が悪いのは男の子の方かしら? それとも女の子の方?」
母が聞いて来たので答える。
「女の子の方だね」
「私が行くと迷惑かも知れないので、爺と婆を連れて行きなさい」
「え? 俺だけで治せるけれど」
「何か違う予感がするのよ」
母の感は良く当たるので剣聖とマレ婆を連れて行く事にした。まあ何か伯爵夫人から聞いているのかも知れないけれどね。その間の母の護衛は父が務めるようだ。
2人が住んでいる場所を文官部屋で聞いて来たので、剣聖と婆を伴って転移した。彼らは寮住まいから貴族街にある賃貸の2階建ての一軒家に変わったようで、生活の質が向上していた。
玄関をノックするとヒプドゥが出て来た。勇者と聖女に付き従っていた4人の人族の男性達の1人で、孤児院でいい加減に名前を付けられたのか4人共に名前の頭にヒプと付いているので、俺はヒプシリーズと勝手に呼んでいる連中だ。
「ソータさん? ……剣聖!」
「後ろは剣聖夫婦ね。神殿の事で話を聞きたかったので、ファムとラーナに会えるかな?」
「そ、それがラーナ様は体調が優れません。お引き取りを」
「噂くらい知っているでしょ? 俺なら大抵の病気を治療できるぞ」
「あっ! そうでしたね! 失礼しました。診て頂けると助かります!」
室内には他のヒプシリーズ3人も居て、ファムと一緒に室内をうろつき回っていた。ファムは心ここに在らずという感じだったので、俺は呼び止めた。
「おい、ファム。ラーナの具合が悪いと聞いたぞ」
「……ソータか。揶揄いに来たのか? ……剣聖!」
「今日は剣聖夫婦と一緒ね。お前ねぇ。病人かも知れないのに、そんな無体な事する訳ないだろ! 俺なら大抵の病気を治療できるから診せて見ろ」
「おっ! お、お願いします!!」
ファムはオロオロしているのを止めて、俺の近くに寄って縋って来た。ヒプシリーズの4人も俺の周りに片膝を跪く。まったく男共はだらしがないね……。
俺はファムの頭を撫でてやって落ち着かせ、ラーナの元に案内させた。ラーナは2階で寝ているようで、扉をノックしてからファムと共に俺と剣聖が入った。
「まあっ! ソータさん……け、剣聖まで!」
「剣聖夫婦と一緒にお邪魔するよ。具合が悪いと聞いたけれど、診ないと分からないからね。良ければ様子を診させてくれるかな?」
「はい。お恥ずかしながら、元神殿の者の身でありながら、今回の病気が良く分かりませんでした。神聖魔法も効かないですし困っていたので助かります」
「症状はどんな感じ?」
俺はベッド近くの椅子に座るとラーナに尋ねた。
「食欲がありませんね。吐き気もします」
「う~ん、そうすると内臓か消化器官系が考えられるから、原因追及した方が良いね。一気に治療できるけれど、またなっても困るしね」
「い、一気に治療ができるのですか?」
「エリクサーがあるからね」
「「エリクサー!!」」
ファムとラーナは凄く驚いた。元神殿関係者なので魔法薬の事は習っていたようで、その価値を知っているようだ。
「そ、そんなものをどこで手に入れた?」
ファムに尋ねられるが、特に後ろ暗い事もないので正直に答える。
「俺が錬金術で錬成を使えるのは知っているでしょ?」
「ああ。あの怪しげな金色の杯のような物で作る奴か」
『わいは、怪しげでやすか……』
『怪しくても凄い物を作れるんだから落ち込むなよ。アルグラ』
『そうでやすね! 旦那にそう言われると心が軽くなりやす!』
怪しいのは棚上げしつつ、アルグラを褒めて置いた。どう見繕っても怪しいのは消せないからね!
「それで作れるようになったんだよ。ただ今回は原因追及するので、これを使うね」
俺は収納からホーミング水鉄砲を出すと、新ナノ・ゴーレム薬をラーナに撃とうとした。ファムから待ったがかかる。
「ちょっと待った! それは俺達を操り人形にした奴じゃないか?」
「そうだけれど、使い方で毒は薬にもなるんだよ。今回は身体の中を調査する目的だから無害だし、痛くも痒くもないよ」
「……それなら良いけど、本当だろうな?」
「君達が信仰しているアルティウスに誓って」
「「ブフッ!」」
剣聖と婆が俺の言葉に吹き出した。俺がアルティウスだと知っている2人には、俺が誓うのはブーメラン的なギャグに聞こえるようだ。何故吹いたのかキョトンとしているファムに、そこまで言うならと了承されて、ラーナにホーミング水鉄砲で新ナノ・ゴーレム薬を撃つ。
『どうかな? ミネルヴァ』
『……お目出度です』
「は?」
「わ、悪いのか!?」
「わ、私……死ぬのね!」
「いや、違うよ。病気じゃなくて、お目出度みたい」
「まあっ!」
俺は予想外過ぎて疑問の声を出してしまい、若者2人は慌てて勘違いするが、お目出度と聞いて婆が歓声を上げた。それを聞いて若者2人は放心してしまった。俺は女性同士の方が話しやすいと思い、収納から黒糖黒酢飴を大量に取り出して婆に持たせて妊婦のラーナを任せる事にする。
「マレさん。ラーナは妊婦なので色々と教えてあげて」
「任されましたよ!」
「よ、よろしくお願いします?」
男性陣は退出して、1階に降りるとヒプシリーズ達から神妙に見つめられた。俺は彼らに事実を伝えた。
「ラーナはお目出度だね」
「「「「お、おおっ!」」」」
流石にヒプシリーズ達は妊娠を知っているようで喜んだ。ファムは純粋培養すぎて分からないらしい。
「お目出度って何だ?」
「ラーナのお腹の中に子供ができたの。ちなみにファムの子だよね?」
「俺の子?」
「まさか子作りとか教えてないの?」
俺はヒプシリーズ達をジト目で見つめた。彼らは教えていない自覚があるようで、露骨に目を逸らされる。
「童貞が女の味を覚えたのではないのか?」
「剣聖、言い方……」
剣聖が露骨な事を言い出したので、俺は窘める。まあここは男性だけだし、ぶっちゃけても良いかと思って机に収納からお茶の用意をして話し合いの席を設けた。取りあえずファムがどこまで知っているか聞き出さないとならない。
「それでファムは子供がどうやって出来るか知らないの?」
「そんなの知っているぞ! その……女の子と……キスするとできるんだ!」
「「ブフッ!」」
「「「「……」」」」
俺と剣聖は噴き出してしまった。ヒプシリーズ達は可哀想な者を見る目でファムを見つめる。純粋培養にも程がある! しかしどうしてラーナが妊娠したんだろう?
剣聖が盛大に溜息を付いて俺を見た。
「儂が性の喜びを教えるので教材を出してくれぬか? ソータ殿」
「また言い方……教材は用意するけれどラーナはどうするのさ?」
「そちらはマレに任せるぞい」
俺はアルグラを出して性教育の教本を2部印刷した。教本を渡すと剣聖は2階に行って1部を婆に渡して戻って来る。俺もそうだけれど男の子はこういう話が好きだよねと思いながら、剣聖の話を横で聞いていた。俺が剣聖達にした話よりも実感が籠っていて聞いていて面白かった。剣聖の実話とか騎士や冒険者達の間で話されている体験談とかもあって充実していた。
妊娠や出産や子育ては大変なので、望まぬ時は避妊するようにと避妊具をファムに多めに渡して置いた。足りなくなったらウルスメル商会で売っていると伝える。何故かヒプシリーズ達も欲しがったので上げる。
ファム達は話だけで催したようで、休憩を入れる事にした。ファム達が前屈みで退出してから剣聖が疑問を俺に投げかけて来た。
「騎士科を履修しても同期や先輩に避けられていたとは……。まああれだけ純粋であると儂でも教本がなかったらお手上げであったわい。あの様子では孕ませるのは無理ではないか?」
「う~ん、ファムとラーナが十九歳でしょ。ヒプシリーズ達は二十八歳なのに、両方共に擦れてなくて凄くピュアで可愛らしいよね」
「お互いに望まれた子であれば祝福できるが、そうでなければ悲惨であるからな。戻って来たら聞いてくれぬか?」
「えー? 俺が聞くの?」
「ソータ殿は2人と同じ孤児であろう? 儂とは境遇が違うので言いにくいかも知れぬのでな」
「成程、分かったよ。その前に本当に2人の子か確かめたいね」
「そのような事が可能であるか?」
「親から子に生物の設計図が男性の子種と女性の見えない小さな卵から半分ずつ受け継がれるんだけれど、それをどの親から子に伝えられたのか調べる方法がある」
「それは良いのう。認知で揉める事は多いのでな」
婆の性教育が終わって下に降りて来たラーナの口内粘膜をスプーンでもらい、スッキリして戻って来たファムの口内粘膜も採取すると、アルグラに投入する。最初は入れるのをいつものようにゴネられたが、報酬として婆がアルグラを腕に抱える事を約束して喜んでやってくれた。アルグラの年齢の守備範囲が広くて助かったよ。
ラーナにかけた新ナノ・ゴーレム薬で調べた胎児のDNAとの照合をミネルヴァにお願いした。ちなみにナノ・ゴーレム薬で調べる方法は、アルグラに入れられないので時間加速が使えないので時間がかかるので普段は使わない。
『どうかな? ミネルヴァ』
『九十九.九九九九九九九九九パーセントの確率で、ファムとラーナの子と判定しました』
「確実に2人の子供だね」
「「「「おおっ!」」」」
「「……」」
ヒプシリーズ達は歓声を上げるが、若者2人は実感が湧かないようで呆けたような表情で固まっていた。俺はファムに子供を授かる行為について聞いてみる。性教育を受けた後なので該当する行為を思い出せるはずだ。ファムは顔を真っ赤にしながら教えてくれる。
「それで子を授かる行為に心当たりある?」
「多分、この家に引っ越してきてラーナが一人寝を怖がったので、ベッドで一緒に寝たんだが抱きつかれて暴発した時じゃないかと……」
「何じゃ、お主は男になれなかったのであるか」
「剣聖は直球過ぎ! 事故だったのか……。お前、神聖魔法が貞操に関係なく使えると知った時、ラーナにやろうとか言っていたよね? 子作り方法は知らなかったの?」
「き、今日まで知らなかった! 知っていたらこんな事にならないだろ!」
「まあそうだよね。それでその時は何をやろうとしていたの?」
「き、キスを……」
「『か、可愛い!』」
余りにも可愛らしい事を言うので、俺はファムの頭を撫でて上げた。以前は俺より背が低かったのに、いつの間にか追い越されている。頭を撫でるのも一苦労だ。女性の念話が聞こえたので見上げてみると、青龍が見悶えていた。
『何か可愛らしいよね!』
『私、この子達に祝福を上げたいのだけれど?』
『それは駄目だよ。この子達には俺がアルティウスだって言うつもりないからね』
『それは残念ね……。可愛らしいので陰ながら応援する事にするわ』
青龍が静かになったので、肝心な事を2人に聞いてみる。
「それで2人は子供ができて嬉しいの? 嬉しくないの? 最悪としては俺ならば安全に堕胎させる事もできるけれど……」
「それは嫌だ!!」
「それは嫌よ!!」
少なくとも2人に取って子供が嫌な存在じゃないのがハッキリして安心した。しかしファムは不安があるようだ。
「それでどうすれば良いんだ? 俺、親が居なかったし、どうしたら良いか分からない」
「俺も親なしの孤児だったから気持ちは分かるよ」
「そ、そうなのか?」
「うん。分からない事は人に相談すると良いよ。俺達でも良いけれど、帝都に帰っちゃうから相談しにくいよね。……そうだ! アイルなら同じ文官の仕事仲間だから聞きやすそう。彼の両親が城内の庭師の邸宅に住んでいるし相談したらどうかな。アイルとリーリを育てているしベテランだよね。2人が話しにくかったら、最初は俺からアイルに相談してみるけれど」
「アイルの両親なら時々にお話していますので、気軽に相談できます!」
ラーナが名案だと訴える。ファムも異論はないようで頷いた。ヒプウーが手を上げて発言するのを求めた。
「あの、発言して良いかな?」
「どうぞ?」
「私達はファムとラーナだけじゃなくて、孤児院の赤子の面倒を見ていたので経験済みです」
「うわっ! 身近に適任者が居たじゃん!」
「ただ、神殿の外の事情には詳しくないので、そこらの意識の擦り合わせをアイルの両親としたいですね」
ヒプシリーズ達はファムのあれが大変だったとか、ラーナのこれが大変だったと呟きながらお互いに頷き合っていた。幼い時の事を知っている人には頭が上がらないようで、ファムとラーナは恥ずかしがっていた。
婆に言われて何をしに来たのか思い出す。
「ソータ様。この子達に話を聞きに来たのではないですか?」
「あっ! そうだった! お前達、帝都の神殿の中枢に居ただろ? 神殿がベトスの都を調査している目的を知らないか?」
ラーナは神託を受けられる聖女として神殿に崇められていたし、ファムはその聖女を守護する勇者に認定されて居たらしい。俺と四神による神殿包囲網で金策に苦労していたようで、神殿の聖騎士団を辞めてマギウスジェム領の奨学金制度を使って貴族院を卒業して文官になった経緯がある。
ラーナが思い出したようで答えてくれた。
「え~と、何かの物か人かは分かりませんが、法王様が行方を捜しているそうです。昔の古い文字で書いてあると聞きましたよ」
「……そうなんだ。ありがとう」
『青龍?』
『ごめんなさい、ソータ。ベトスの移動首都エンポリウムベトス関係は私達からは見えないのよ。創造神様が理の言葉でお隠しになられて、アカシック・レコードでも参照できないようになっている徹底ぶりよ』
『神殿の目的は、エンポリウムベトスにある世界樹の真祖なのかな?』
『おそらくそうなのでしょうね。獣人に対する扱いと言い、本当に困ってしまうわね……』
『うん……』
神殿の謎行動に、俺の胸はモヤモヤとした気持ちで覆われた。
次回の話は2025年6月4日(水)の19時になります。
ワンコはとんこつラーメンの匂いに釘付けです!
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