083話 離宮の幽霊[後半]
離宮に死者の魔物である幽霊が出て取り壊しが滞っているようで、物見遊山とばかりにレイス退治に出掛けた俺達。
離宮は宮殿の中でも裏手の敷地に集まっている。廃妃された元皇妃の家族が住む離宮も近くにあった。そっちも一緒に取り壊して欲しいけれど、俺ルキウスの見た目は子供、頭脳は大人なので黙っていた。
先頭の父は母を守る陣形で、剣聖は婆の腰を抱きながら着いて来ていた。剣聖と婆の位置だけど普通は逆じゃないかと突っ込まないで置く。続けて俺とオケアヌスの後ろに、ミネルヴァに引率されてスマラとソラリスの子供達が続いた。ミネルヴァは何故かアルグラを抱えて連れて来ているのがシュールだ。その後ろにアダマス・メイド達3体が護衛している。
取り壊し予定の離宮の庭には工事用の道具が散乱していた。良く見ると庭の片隅に風景が人型に薄暗く歪んでいる所があって、ミネルヴァが生成した魔素レーダーを見るとレイスのようだ。
「レイス捕まえて良い?」
「触られると穢れや呪いになって、魔素症にもなるから駄目よ」
母に止められた。俺はスーパー・ルキウス君モードになって、超絶的な身体強化をして捕まえる事にした。
「スーパー・ルキウス君なら平気だよ。傷つけられる生物は居ないんじゃないかな」
「もうっ! 誰に似たのかしら! 気をつけなさいね」
「は~い」
スーパー・ルキウス君モードになると全身が光り出した。自分では見えないけれど、薄っすらと光輝いているようだ。
レイスに近づくと襲い掛かって来たので、左手で掴んだ。最初はこんにゃくかなと思ったけれど、何となく掴みどころがないので、巨大なビーズクッションのような感触がする。薄黒い人型のモヤのレイスは暴れるが、スーパー・ルキウス君の握力から逃げられるわけがなかった。
心配した母が様子を聞いて来た。
「ルキウス。穢れとか大丈夫なの?」
「うん。元々アルティウスは穢れや呪いを浄化できるからね。耐性が高いのは分かっていた。しかもこいつ、俺が掴んでいると弱って来ているね」
レイスは俺が掴んだ所から黒い煙のような物が立ち上がって、煙の先の方が浄化されたのか白く光って空気に溶け込んでいく感じだ。苦しめるのも可哀想なので、ライト・セイバーを突き立てて討伐してやった。
ゴグギャァァァァァ!!
奇声を発しながらレイスはライト・セイバーを受けると消滅して行った。床に魔石が転がったので拾って収納して置く。
父が俺の行動が意外なようで揶揄って来た。
「ベトスの都では死体に喚いていましたが、アンデットは平気なんですね」
「死体は感染症が怖いじゃん。アンデットは地球に居た頃から信じてないから実感が薄いんだよね。死肉系のゾンビとか出たら嫌かもだけれど。居るの?」
「居ますね。ダンジョンで時々見かけます」
「うひぃ! 見かけたらダンジョンごと燃やそう!」
「危ないので止めて下さい!」
正面から入るのは遠いので大広間のバルコニーから入った。5体のレイスが居たが父と婆とオケアヌスが直ぐに倒してくれた。母が風魔法で2体を寄せつけなくしてくれていたので助かった感じだ。剣聖が婆の後ろに陣取って怖がったままなので、俺はライト・セイバーを貸す事にした。
「爺。アンデッドも剣で切れるなら戦ってくれる?」
「剣が効かないから怖いのじゃ。切れるならば戦おう」
「はい、これ」
「おおっ!」
剣聖はライト・セイバーを受け取ると少年のように目に輝きが戻った。軽く振り回してブンブンと鳴る効果音を楽しんでいる。
「ライト・セイバーですか? 音が反則的に格好良いですね。父上、後で交換しませんか?」
「その炎が出る剣も良いの。そうするかのう」
剣聖がいつもの調子が戻って来たので、奥へ進むことにした。大広間の奥の通路を守るようにレイスが居たので、そちらの方に向かってみる。
「こちらは使用人が使う通路のようね」
母が言うように離宮の裏方が通る狭い通路だった。キッチンに2体、使用人休憩室に1体が居たので、1階は探索し尽くした感じだ。母に階段の前でどちらに進むか尋ねられた。
「ルキウス。上はどうかしら?」
「不思議な事に上には居ないね。下に居るんだけれど何か変」
「どう変なのかしら?」
「倉庫かな。広い場所に3体いるけれど、その先の行き止まりの通路を守るようにレイスが密集している」
「怪しいわね。どうせ退治しないといけないし、行ってみましょうか」
「「「「「「「はい」」」」」」」
階段を降りて地下に行くと、広い場所は倉庫のようで入ってみる。この倉庫のレイスは父と剣聖と婆が倒してくれた。剣聖は今までの鬱憤を晴らすように、レイスをライト・セイバーで滅多刺しにしていた。一通りライト・セイバーを楽しんだのか、父のフレイム・セイバーと交換していた。
倉庫を出て倉庫の周りを迂回するように通路を進むと、看守の部屋と牢屋が5つ並んでいた。
「う~ん。離宮に牢屋があるのが不思議」
「いつの時代でも逸脱した者は出るからな。宮殿にもあるぞ」
「へぇ」
オケアヌスが教えてくれた。でも知らない方が良かったかも。
牢屋が途切れた先に通路が続いていて、不自然にレイスが大量に詰まっていた。
「あれ殲滅するのは面倒そうだね……。子供達はここに待機で。俺とアダマス・メイドは奥の手を解放で」
「「「はい、マスター」」」
俺とアダマス・メイドのイグニスとアクアとヴェントゥスは剣を持つように右手を握ると、握り拳の上に魔法陣が浮かび上がり光の刀身が現れた。剣聖が文句を言って来た。
「最初からライト・セイバーをルキウスが使わなければ、儂がポンコツではなかったのではなかろうか?」
「ポンコツな爺が可愛かったからつい!」
「ぐぬぬ……」
取りあえず無闇に突っ込んで行っても無謀なので、父と剣聖が突入したら母が風属性魔法で牽制する感じでまとまる。俺とオケアヌスが次に突入し、婆とアダマス・メイド達は母と子供達の護衛にした。
剣聖が合図を出した。
「では行くぞ。ホリゾン!」
「はい、父上」
剣聖が突進技の要領でレイスの群れに突っ込み、フレイム・セイバーで即座に2体を仕留めた。父が続き剣聖に迫って来たレイス1体を薙ぎ払う。母は風属性魔法で父と剣聖を取り囲もうとしていたレイスを吹き飛ばしたまでは良かった。
「えっ?!」
母が吹き飛ばしたレイスが次に突入しようとしていた俺とオケアヌスを無視して飛び越え、アダマス・メイド達に群がった。何体かはアダマス・メイド達が倒すが、レイスの方が圧倒的に数が多かったので、アダマス・メイド達がレイスに捕まってしまった。
「マスター。アダマス・メイドが制御不能です」
ミネルヴァの申告の後にアダマス・メイド達の手にある光の刀身が消え、俺とオケアヌスに襲い掛かって来た。
「ソータ様。メイド達が襲ってきます!」
「レイスに取りつかれたのか! スーパー・メイド・モードにして置けば良かった……」
俺がアクアとヴェントゥスを抑え、オケアヌスがイグニスを取り押さえている。母が無体な事を言い出した。
「ルキウスにオケアヌス。メイド達の服を汚したら許さないんだから!」
「ちょっ! 母さん。無茶が過ぎるよ……」
「姫様、それ所ではないのですが!!」
母は俺とオケアヌスの心配はしておらず、着せ替え人形にしているメイド達の服を心配し出した。
アルグラが不吉な事を言い出した。
「坊ちゃんの御恩は、わいの胸にしまっておきますぜ!」
「ちょっと待て! まだ負けると決まった訳じゃないぞ! もうこうなったら奥の手しかないな。皆、ごめんね……。アルグラには丁度良いお仕置きだ。マギウス・ドレイン起動!」
俺は使う事がないと思っていた魔法を発動した。普通の人は世界樹と契約して龍脈を通して原初の海から魔素の供給を受けている。この世界樹からの供給は一方通行で例えると水道管だ。しかしアルティウスは違っていて、原初の海から直接的に魔素を得ている。この違いは大きくて直接的に原初の海から魔素の取り出しが出来るならば、逆の動きの魔素を原初の海に返却する事も可能なはずだと考えた。それがマギウス・ドレインだった。
スーパー・ルキウス君モードの光の輝きが黒く変わり、俺の右手に発生していた光の刀身も黒く塗り替わった。まずは俺が掴んでいたアクアとヴェントゥスが気を失ったように床に倒れた。
次にオケアヌスの近くに寄るとイグニスが同じように倒れ込んだ。メイド達から光の粒が俺に吸収されているのがハッキリと見えて止んだ。オケアヌスも影響を受けるようで、フリーズ・セイバーの雪が消え、全身から光の粒が俺に吸収されていって倒れてしまった。
「ま、魔素症だ……」
父と剣聖の救援に行こうとするが狭い通路なので、ミネルヴァが出している結界が俺に吸収されて消えた。ミネルヴァが倒れてアルグラが転がって行く。
「マスター。魔素が足りません」
「わ、わいはどこ? ここはだれ?」
貴族院の入学時に世界樹と契約したスマラからも、魔素を吸い取ったのでスマラも倒れ込んだ。
「る、ルキウス……これなに?」
「兄上?」
「それが魔素症だよ。ちょっと我慢してね」
ソラリスは世界樹と未契約なので平気なようだが、母と婆が倒れ込んだ。婆のライトニング・セイバーの紫電も消え去った。
「ルキウスは悪い子ね……」
「ま、魔素症なんて久しぶりですよ……」
「ごめんね2人共」
父と剣聖にようやく近づくと、ライト・セイバーの光とフレイム・セイバーの炎の刀身が消え、2人が床に倒れた。
「凄く禍々しいですよ……」
「儂のルキウスが!」
「後で治療するから待っていてね」
俺は通路の奥に身を寄せて俺から逃れようとしているレイスを、片っ端から闇の刀身で切り取って行った。レイスが掃除機に吸い込まれるように吸収されるので面白い。レイスを全て倒し終わると通路の行き止まりが揺らいで、認識阻害の魔法が俺に吸い込まれて消えた。普通の行き止まりだった壁に隠し扉が現れる。
帝星の2本の世界樹金から緊迫した念話で呼びかけられた。
『アルティウスの方。龍脈から魔素を吸い取らないで頂けますか』
『緊急措置として帝都のマギウス・ポータルとレビタス車両を停止してしまいましたわ。まもなく結界モニュメントも停止しないと帝都が墜落してしまいます』
『あっ! もう魔素を吸うのを止めるよ』
「マギウス・ドレイン停止!」
マギウス・ドレインを停止すると、扉に嵌っていた大きな魔石が床に転がり落ちた。魔石は色がくすんでいるので魔素を吸い尽くされて空になったようだ。閉まっていた隠し扉も薄く開く。
俺はスーパー・ルキウス君モードも止めて、右手の光の刀身も消した。
『世界樹金、復帰した?』
『復帰しましたわ』
『帝都を墜落させないようにするのは大変でしたわ』
『ごめんね。レイスがウザかったからヤバイ魔法を使って倒した』
『お疲れ様ですが、私達にご褒美くらいくれてもよろしくてよ』
『そうですわね。お姉様』
『え? 世界樹にご褒美って何を渡せば良いんだろう?』
『簡単でございますわ。山脈に向かって右側の私は、姉のソロル』
『山脈に向かって左側の私は、妹のユニオレでございます。ご褒美としてお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?』
『ああっ! そう言えば自己紹介がまだだったね。遅くなったけれど俺は蒼汰ね。ソロルとユニオレ、よろしく!』
『ソータ様。お名前を伺えて喜ばしい限りです』
『アルティウスの方のお名前を伺えるなんて光栄でございます。ソータ様』
『帝都を守ってくれてありがとう。またね!』
『『いつでもお呼びください。アルティウスの御心のままに』』
俺は父とアルグラを抜かして神聖魔法で魔素症を治療した。ミネルヴァにはたっぷりと魔素を渡してやって送還した。それから床でへばっている父の近くに腰を下ろして尋ねる。
「それで俺は禍々しいの? 黒くて格好良かった気がするけれど」
「き、聞いていたのですか……。格好良かったので早く治療して下さい」
「スーパー・ルキウス君モードだったからね。数キロ先の囁きも聞き取れそう」
父の治療が済むと、アルグラの元に行って腰を下ろして尋ねた。
「俺が負けそうなセリフを吐いていた気がするけれど?」
「……」
完全に魔素切れなようなので、ほんの少しアルグラに魔素を注いだ。
「す、すみませんでやした。言葉の綾でやす。ルキウス坊ちゃんの格好良い姿が胸に染みると言い間違えやした!」
「分かれば良いよ。魔素を注いで送還!」
俺はアルグラに魔素を注いでから送還した。
俺は行き止まりの隠し扉の前に向かった。扉の表面に刻まれている魔法陣を解読してみた。
「認識阻害と認証者以外の扉の開放が出来ないようになっているね。建物に一定の被害がでるとレイスを放つようになっていたみたい。扉が強引に破壊されると地下室が爆発して埋まるように組まれているね。もう魔石も外れたし、他の罠も動かないと思うけれど入ってみる?」
「これがレイス大量発生の原因だったのね。入ってみましょうか」
母の号令で俺達は隠し部屋の中に入った。中には金銀財宝が詰め込まれていて俺達を圧倒した。
「うわぁ……」
「すごいですね……」
「隠し財産か何かかしら?」
「少しくらい儂が持って行っても良いかのう」
「私は目眩がしそうです」
「これは想像してなかったな」
「キラキラ!」
「きれいだね!」
オケアヌスが皇帝陛下を呼んで来て事情を説明し、金銀財宝を見せたら喜んで俺にキスの雨を降らせてきた。マギウス・ドレインで帝都が混乱したようだけれど不問になった。まあこれだけの財宝があったら大抵の事には目を瞑るよね。
俺は財宝をアカシック・レコードで鑑定すると、7代前の皇帝の隠し財産なのが分かった。帝室の記録を調べた所、財宝のあった離宮の取り壊しは慎重にするようにとだけ記載があった。財宝は帝室の財産に計上され、発見者の俺達には報酬として1割が譲渡された。お留守番だったウェルテクスにも分けて上げた。
俺的にはギルド口座の残高がまた増えたのと、収納の肥やしが増えただけなので微妙だった。父達は凄く喜んでいたから良かったけれどね。
そして後日談がある。マギウス・ドレインで離宮周辺の魔素を片っ端から吸い取ったので、近くの離宮に住んでいる廃妃された元皇妃の家族の夫婦が魔素症で倒れたと聞いたことだ。まだ世界樹と契約していない息子だけ魔素症にならなかったようだが、父母が倒れたのを見て慌てたようだ。
父母にワザとやったのじゃないかと笑われながら言われたけれど、俺は黙っていた。
次回の話は2025年5月3日(土)の19時になります。
パパはサプライズが好きなようですね。
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