081話 演習場の花火
今日は貴族院の演習場へのマギウス・ポータルと結界モニュメントの設置の日だ。作成するのはアルグラで訳ないけれど、巨大かつ重量が重いので奇麗に設置するのが難しいので、父と剣聖に手伝ってもらう事になっている。スマラも設置が見たいようなので一緒に隠居伯の屋敷からマギウス・ポータル前駅に転移した。
マギウス・ポータル前駅には沢山の人々が集まっていて、俺達が転移して来ると拍手に包まれた。帝国軍からオケアヌスや統合作戦本部で見た面々が来ていて、魔聖に貴族院領主セネクスや教授達が揃っていた。スマラを見つけると貴族院寮組のアモルとリーリが近寄って挨拶していた。
騎士科教授エクエスが半泣きしながら今までの苦労を語った。後ろの助教授達も頷いている。
「このスコーラ大陸から、演習場があるギュムナシウム大陸に通う時間の無駄だったこと……」
魔法科教授アドミラリも苦労していたようだ。
「攻撃魔法も危険なので仕方なく通っておったな……」
オケアヌスと魔聖も演習場の遠さを嘆いた。
「帝国軍も帝都では演習できる場所がないから貴族院の演習場を使っていたけれど、人員の移動計画とか立てるのが面倒だった。今までは宇宙船で移動していて予算もかかって大変だったんだ。今度から帝都からはマギウス・ポータルを2回通れば行けるので楽になるな!」
「私も新しい攻撃魔法を使いたい時とかは演習場に行かなければならなかったのだけれど、貴族院からでも宇宙港から宇宙船で2時間かかるから不便だったわ。まさかマギウス・ポータルを作れる人が現れるとは思っていなかったし」
セネクスが設置場所に案内してくれるようだ。連れだって行くと案内施設の前の案内板の地図が新しく変わっていて、既にマギウス・ポータルと結界モニュメントの場所が記されていた。
「もう記載したのか! 気が早すぎ!」
「そうじゃ。どれだけ皆が望んでいると思っとるのじゃ。案内標識も新設しておるぞ」
セネクスが指さした先に、演習場行きマギウス・ポータルと記された案内標識が建っていた。案内板にも標識にも「帝国歴六千八十年 ソータ寄贈」と書かれている。
「は、恥ずかしいんだけれど……」
「まあ良いではないか! マギウス・ポータルはこっちに建ててくれ」
マギウス・ポータル前駅から徒歩で1分くらいの所に広場があった。元はレビタス列車の設備があった所なようで、今回のマギウス・ポータル設置で移設して更地にしたようだ。俺は土属性魔法で更地にマギウス・ポータルの台座を作成する。
「ちょっと下がっていてね。マギウス・ポータルの台座を作成するから」
ミネルヴァの作成イメージが表示されたので、右足を踏み下ろすと土属性魔法が発動して地面が岩で覆われた。マギウス・ポータルを建てるための窪みがあり、その下には侵入方向の矢印と行先が、こちらの文字で彫られてある。
「「「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」」」
「それじゃあマギウス・ポータルを出すから、とう……ホリゾンと剣聖は受け取ってね」
「「了解した」」
父と剣聖に立ち位置を指定して待たせ、収納からマギウス・ポータルを出した。2人の凄まじい身体強化でマギウス・ポータルの台座まで運ばれ、大きな音を立ててはめ込まれた。
ガゴンッ!!
2人に指示して窪みにはめ込む位置を再調整して、こちら側のマギウス・ポータルの設置は完了した。
「おつかれさま。魔素症を回復!」
「ありがとうございます」
「助かるのう」
2人の表情的に魔素症の手前くらいだったので神聖魔法で回復した。マギウス・ポータルは直系十メートルくらいのドーナツ状の円盤で前後から見た輪の幅は三十センチくらいで、横幅は5センチくらいの超硬合金アダマンタイト製の輪だけれど何トンあるんだろうか? 2人がかりとは言え持ち上げられるのが凄いと思う。
マギウス・ポータルの転移先をセネクスに聞くと演習場があるギュムナシウム大陸の西海岸に宇宙港があるので、そこの案内標識の先に作って欲しいとの事なので、父と剣聖とオケアヌスと共に転移魔法で転移した。
演習場に併設している宇宙港に着くと案内板の地図がマギウス・ポータルありに既に書き換わっていて、いくつかの案内標識にもマギウス・ポータルの位置が記されていたので、それに従って進む。父が設置するのに良さそうな丘の上を示してくれた。
「ここなら宇宙港だけでなくて、演習場からも見えて分かりやすいので良さそうですね」
丘の上から見下ろすと見渡す限りの平原が広がっていて、地平線の彼方まで山や構造物が見当たらない感じだ。アカシック・レコードで確認すると三百万平方キロメートルに渡る大平原なようだ。大平原の感想を呟くとオケアヌスが帝国軍の事情を語った。
「しかし凄くだだっ広い平原だね」
「これだけ広いから帝国軍の殆どが集まっても問題ないから、ここが選ばれたんだ」
「じゃあ、ここにマギウス・ポータルを設置しようか」
「「「了解した」」」
先程と同じように土属性魔法で丘の頂上に岩の台座を作ってから、収納からマギウス・ポータルを出して父と剣聖にはめ込んでもらう。父と剣聖とオケアヌスに感覚共有して、貴族院にある世界樹金を呼び出した。
「ディヴェシータス?」
『これはソータ様。何用ですかな?』
「大丈夫だと思うけれど念のために確認。今から1組マギウス・ポータルを設置して、結界モニュメントをギュムナシウム大陸の西海岸の大平原に設置するけれど、魔素量は平気だよね?」
『帝都と違って大陸を浮かせるでもなく、マギウス・ポータルは帝都行きの片側しか今はありませんので、魔素は余っております。幸いにソータ様のお陰で結界モニュメントとマギウス・ポータルの使用魔素量が激減しているので、追加しても何も問題ありません』
「そうか。ありがとう」
『アルティウスの御心のままに』
世界樹金ディヴェシータスとの念話を終えると、オケアヌスが世界樹金との念話に驚いていた。
「ソータ様。先程の声は世界樹なのですか?」
「うん。貴族院の世界樹金のディヴェシータスだね」
「世界樹はソータ殿の言いなりなので契約停止とかやりたい放題ですよ」
父は一時的に契約停止された事を、まだ根に持っているようだ。
「もう父さんも昔の話は忘れてよ。マギウス・ポータルを起動するから。マギウス・ポータル起動!」
俺はマギウス・ポータルに寄って手を触れると起動した。マギウス・ポータルの輪の中央に人混みが揺らめいて見えるようになった。俺は上半身だけマギウス・ポータルに突っ込んで待っている人々に声をかけた。
「マギウス・ポータルを起動したので演習場に渡れるようになったよ!」
「「「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」」」
歓声を上げて次々とマギウス・ポータル前駅の広場に居た人々が、マギウス・ポータルに突入して演習場にやって来る。
俺は上半身をマギウス・ポータルから抜け出すと、父と剣聖が魔物と戦っているのが見えた。父に向かって来ていた馬のような魔物の攻撃を父が躱すと、剣聖が胴体に拳を付き入れて魔物が絶命していた。剣聖の拳には魔物の魔石が握られていて、魔物に埋没していた汚れた袖を見て嘆いていた。
「袖を汚してしまったぞ! マレに怒られてしまうではないか!」
「私もですが油断していましたね、父上」
「この演習場は魔物が多いのをすっかり忘れておった。戦える者は名乗りを上げるが良い! 戦えぬ者は一時的にマギウス・ポータルで戻るのじゃ」
剣聖の号令でハッとした帝国軍関係者が動き出し、戦えない教授達や生徒達を統率してマギウス・ポータルの向こうに追いやった。残ったのは父と剣聖、オケアヌスと統合作戦本部で見た面々に魔聖、騎士科教授サクスムとその助教授達に、魔法科教授アドミラリとその助教授達だ。
取りあえず魔物の流入は避けないとならないので、結界モニュメントの設置を急ぐことにする。
「結界モニュメントの設置を急ごうか。俺とホリゾンと剣聖は設置組ね。転移魔法で設置場所に移動する。その間の残り組だけどオケアヌス達はここで待機して、魔物がマギウス・ポータルに入るのを阻止して。結界モニュメントを設置して起動して俺達が戻ったら、宇宙港に常駐している騎士達と共に魔物の殲滅をしようか」
「ソータさん。この大平原は広すぎるので、例え宇宙港の騎士を入れても見回りは難しいわ」
魔聖が諭して来た。俺は考えがある事を伝える。
「ここ広くて良いよね。例えばだけれど魔物の立場になって、この大平原の中心部で火山の噴火が起きたらどうする?」
「え? 外側に逃げるのじゃないかしら」
「大平原は結界モニュメントで囲うので、外側に逃げた魔物は中に入って来られないよね。その噴火のような事を人為的に起こせるとしたら?」
「いくらソータさんでも無理でしょ」
「君達、教授連中が見たいって昔から言うから見せて上げるよ。大規模殲滅魔法」
「あっ! ここで使ってくれるの?」
「マギウスジェム領で使ったのは熱に特化した奴だけれど、今度は魔物達を驚かせたいから爆発でいいかな」
「「「「「「「「「「爆発っ!」」」」」」」」」」
俺はニヤリと笑うと、父と剣聖を連れて結界モニュメントの設置先へ転移した。
剣聖が心配そうに聞いて来た。
「ソータ殿。あれだけ使うのを嫌がっていた大規模殲滅魔法を使うのであるか?」
「まあ三百万平方キロメートルもある大平原の魔物を殲滅するのは根気がいるからね。今回はサービスね」
「見た所、楽しそうなのでストレス発散じゃないですか?」
父に見透かされたようで、俺はギクッとした。続けて父に予想されて当てられた。
「父上。多分ですがルキウスで望まぬお見合いが続いているのが、ストレスが溜まっている原因ではないかと思われます」
「それは可哀想であるな。知らぬ女子とお見合いなどした事がないので、儂には分からぬが」
剣聖に頭を撫でられた。俺は少し愚痴る。
「女の子とお見合いは別に嫌じゃないけれど、今回の子達は俺のお金目当てだからね! 背後の両親や家の圧力が透けて見えて面白くないの!」
「これは相当に溜まっていますね……」
「儂らは発散する場を用意するしかできんが、すまんのう……」
父と剣聖に慰められたので少し持ち直したので、結界モニュメントの設置を始めた。まずは宇宙港も結界内に含めたいので西海岸の海上の小島に転移して来た。土属性魔法で安定地盤まで掘り、水属性の結界モニュメントを収納から出して父と剣聖に突き立ててもらった。土属性魔法で穴を埋めれば完成だ。南西の水属性の結界モニュメントが終わったので時計回りに北西の風、北の光、北東の火、南東の土、南の闇と次々に設置して行った。最後の南の闇属性の結界モニュメントから大平原を囲うように結界を展開する。
「結界起動!」
「「おおっ!」」
空が一瞬光って、無数の六角形の煌めきを放った。ディヴェシータスに調子を聞いてみた。
「ディヴェシータス。調子はどうかな?」
『問題ありません』
「それじゃあ戻ろうか」
「はい」
「そうじゃな」
マギウス・ポータルのある丘の上に転移して戻ると、オケアヌス達が複数の魔物と戦っていた。空を飛ぶ魔物のようで巨大なコンドルのような姿をしていて、魔聖達の遠隔魔法で攻撃しているようだが、飛び交うスピードが速いので呪文の詠唱時間が長すぎて避けられているようだ。
「加勢いる?」
「ソータさん! 良いタイミングね。このフォールダウンコンドルは帝国軍の天敵なのよ。助けて!」
「そうなの?」
俺は父に聞いてみた。
「この演習場を使う上で一番の邪魔者ですね。地上からの騎士の攻撃は無意味ですし、頭が良いので倒せそうな者には降りて来ませんね」
「どうやって対処しているの?」
「遠隔魔法で追い払ったり、宇宙船を周回させて追い払ったりしていますね」
「何か今日は好戦的だね」
「彼奴は東の山脈の方に巣があるはずじゃが、結界で遮られたのではないか? 近くに居たオケアヌス達の仕業と思っておるのかも知れぬな」
「「あっ!」」
剣聖に解説されて俺と父は声を上げた。結界によって帰り道を塞がれたので、近くに居たオケアヌス達で憂さ晴らしをしているようだ。
どうしようか迷っていると、魔聖が声を上げた。
「ソータさん! 私達、貴族院の教授は帝国で空を飛べるよう申請が通ったわ!」
「お前達はまだ飛べないでしょ?」
「ソータさんも名義上は名誉教授なので飛べるわよ!」
「おいっ! 俺、教授になるって同意してないけれど……」
「実質的に教授に教えるのだから教導する立場は必要なのよ。空を飛ぶ方法を私達に教えてくれるのでしょ?」
「まあそう約束したけれど、お前達は好き勝手してるなぁ。飛ぶのは宇宙も良いの?」
「「「「宇宙!!」」」」
「え~と、特に縛りはない申請なので問題ないはずだけれど、宇宙で飛べるの?」
「大気圏内も大気圏外の宇宙も大して変わらないだろ?」
「何かソータさんが言うと、そう思えて来るから不思議!」
父と剣聖から突っ込みが入った。
「おそらく一般人からすると手間が倍増していると思いますよ」
「あの気持ち悪い飛び方は好きじゃないのう……」
「手間と言うか問題解決していったら飛べただから、ちょっと違うよホリゾン。剣聖の言っている気持ち悪い方は転移魔法と一緒で、覚えるのに時間がかかり過ぎるから教えないよ。それじゃあ落としてくるからトドメはよろしく!」
「「「「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」」」
俺は重力魔法で重量軽減しながら運動魔法で空に飛び上がった。フォールダウンコンドルが俺を警戒して地表のオケアヌス達を狙うのを止める。俺は収納から超硬合金アダマンタイト・ブレードのジョイン・ブレイカーを出して、フォールダウンコンドルの背後に転移魔法で転移した。
フォールダウンコンドルが警戒対象を見失ったようで隙が出来た所を、ジョイン・ブレイカーで右の翼を切断した。この刀は良く切れるが、物質的な結合を破壊する魔法陣がナノ・テクノロジーで無数に組み込まれているので切った手応えがないのが玉に瑕だ。
ギギャーーーーッ!!
右の翼を失ったフォールダウンコンドルは奇声を上げながら墜落して行った。次々と後ろに転移してフォールダウンコンドルを墜落させていく。手を焼いていた魔物が空を飛ぶと言うアドバンテージを失ったのを好機と見て、オケアヌス達がトドメを差してくれた。
俺はジョイン・ブレイカーを収納にしまうと地表に降りた。魔聖達の遠隔攻撃組が撃っていた普通の魔法を撃ったことがないのでボヤいた。
「う~ん。俺、普通の魔法攻撃した事ないよね……。貴族院で教えてくれるのかな?」
「そう言えば見た事がないですね。冒険者ギルドで水浸しにしたくらいですか?」
「それは消火が目的だから違う気がする」
「今日は大規模殲滅魔法を撃ってくれるのでしょ?」
魔聖や教授達がワクワクした目をしながら俺を囲んだ。
「それも純粋な攻撃魔法じゃないからねぇ……。普通が知らないから貴族院の講義を楽しみにしておくか!」
「ソータさんの大規模殲滅魔法が普通じゃないのが良く分からないわね。何が違うのかしら?」
「それを説明すると数千時間くらいかかるし、時間かけても理解できるかは分からないけれど?」
「……詮索は止めて置きましょう。結果が見られれば十分よ!」
科学的な知識がないと説明が不可能なので、割り切って貰えて助かるね。取りあえず危険なので大規模殲滅魔法の効果を伝えて対策を取って貰う事にした。
「この大平原って大きな攻撃魔法とか使っても平気なんだよね?」
「そのためにこれだけ広い大平原を、演習場として用意しているので問題ないわよ」
魔聖のお墨付きを貰ったので安心する。今回は五百キログラムの純鉄を瞬間的に1パーセントの割合で質量欠損させるので、TNT火薬換算で約百十メガトンが爆発した威力になるはずだ。地球の旧ソ連の水素爆弾ツァーリ・ボンバは実験では五十メガトンだったので、今回はそれの約2.2倍の性能になる。計算では広島の原爆の約七千三百倍、長崎の原爆の約五千二百倍になる。
この方法を模索するのに色々と実験をしてみたら反物質の対消滅は連鎖的に反応を起こすのが難しく、素粒子の強い力を司るグルーオンを運動魔法で引き離すのも連鎖的には難しかったので、鉄を時間魔法で止めてから鉄のグルーオンを空間魔法で物質の外に転移させる事によって解決した。グルーオンは物質を形作っている素粒子なので、それが無くなると他の素粒子が崩壊してエネルギーとなる。核分裂や核融合のプロセスを経ていないので放射性物質が残らないクリーンなエネルギーを取り出せる方法になった。
前にミネルヴァと一緒に計算した効果だけ上げ出した。
「え~と、大平原の中心部で爆発させるので中心から5キロメートルの範囲が蒸発。五十キロメートルの範囲に居た人は衝撃波で即死。二百二十キロメートルの範囲に居た人は大火傷だね」
「いくらソータさんでも冗談よね?」
「取りあえず貴族院のあるこの星のジェミノスサークルムは飛行禁止で、特に演習場のある三百万平方キロメートルの大平原は立ち入り禁止にしてね。俺は上空から大規模殲滅魔法を使いたいから成層圏外に宇宙船を出してくれると嬉しいかも。まあなくても自分で上がれるけれど」
かくして魔聖を含む貴族院の教授達は、大規模殲滅魔法を見たいがために準備に明け暮れた。
大規模殲滅魔法の準備が終わった。
演習場のあるギュムナシウム大陸の宇宙港には、アダマス・メイドを1体置いて来て結界魔法イージスで防御させる事にした。新しく設置した結界モニュメントとマギウス・ポータルは自前の結界があるので壊れる心配はない。俺は貴族院が用意した宇宙船で演習場を見下ろす成層圏外に来ていた。
何故か俺の隣に皇帝陛下が来ている。母と分身ルキウスと弟ソラリスとマレ婆に、宮殿勤めの貴族達が押し寄せて来たようだ。宇宙船が1隻だと足りないので、もう1隻用意されて、そちらには役人や軍関係者が詰め込まれたようだ。仕方がないのでもう1隻の方にもアダマス・メイドを1体置いて結界で防御する事にする。直視すると失明の恐れがある可視光や、紫外線から始まって放射線まで出るはずなので結界で防御するしかなかった。
宇宙船の甲板上では机が出され、何故か俺がお昼を振る舞っていた。完全に屋形船で花火を鑑賞するツアーになった気がする。今日のお昼は面倒だったのでホットドッグと冷えたレモン果汁入りの炭酸飲料にした。帝都ではまだウルスメル商会がないので皆が美味しそうに食べてくれた。
宮殿勤めの貴族達の中に何故か廃妃された親族の3人組が来ていて、俺に声をかけて来た。まずは廃妃された元皇妃の息子グラキエスが口を開いた。
「平民が花火を見せてくれるそうではないか。こんなに遠くて見えるのかね?」
「……」
次にその妻ロセウムだ。
「平民風情ですが先程の食事は悪くなかったわ。専属の料理人として雇ってあげるわ」
「……」
最後に2人の息子のニクスだ。
「平民の割に金を持っていると聞いているが、ルキウスの師匠を辞めて僕に仕えたら、男爵位はくれてやるぞ」
「……」
近くでそれを聞いていた俺の親族は顔を少し青くしていた。こういう時に不愉快な連中は連れて来て欲しくないよね……。
俺は無言で大規模殲滅魔法に使う五百キログラムの純鉄を収納から出した。形はどうでも良いのでアルグラとミネルヴァに任せてデザインして貰ったので、今日が初お目見えになる。流石に五百キログラムの純鉄を甲板に置くと床板が耐えられないと思ったので、運動魔法で宙に浮かせている。
「ブフッ! 遮光器土偶!」
それは凄く大きな純鉄製の遮光器土偶の形で、目の部分に魔石が埋め込まれていた。アルグラとミネルヴァが感想を聞いて来た。
『旦那。面白い形でやす?』
『マスター。気に入りましたでしょうか?』
『お前達のお陰で嫌な気分がちょっと晴れたよ!』
俺は大規模殲滅魔法を使う事を宣言した。
「これから大規模殲滅魔法を行使します! 2つの宇宙船は俺の結界で守られますが、最初は恒星に匹敵する光量になるので注視は危険です。キノコ型の爆発煙が発生するまでは注視しないようにして下さい! カウントダウン5秒で爆発させます!」
俺の言葉に船内の人々は半信半疑なようで騒めいた。俺は無視して純鉄の遮光器土偶を演習場中央の上空6千メートルに転移魔法で配置した。
「5……」
「4……」
「3……」
「2……」
「1……」
「ゼロ!! クォーク・エクスプロージョン!!!」
五百キログラムの純鉄から瞬間的にグルーオンを空間魔法で物質の外に転移させられる。グルーオンの強い力によって物質たらしめられていた鉄は素粒子のクォークレベルで分解し、莫大なエネルギーとして放出された。
爆心地から5キロメートルの範囲が火球に包まれ、周囲を瞬間的に蒸発させる。行き場を無くしたエネルギーが熱線に変換されて二百二十キロメートルの範囲を焼き払った。その後に爆風が形成されて衝撃波が惑星を6周も駆け抜けた。想定外だったのは地震が発生したようで、ミネルヴァの計測によるとマグニチュード6弱の地震が地表では発生していたようだ。
しばらくすると火球を覆うようにキノコ雲が発生して、演習場の中心部を覆いつくすのが見えた。
その光景を見下ろした宇宙船に乗っている人々は無言になり、ある人は口を大きく開け、ある人はアルティウスに祈りを捧げていた。
廃妃された親族の3人組に俺は声をかけた。
「花火の特等席は演習場の火球のお近くが良かったですかね? 今からでも転移魔法でお運びしますよ」
3人組の顔が青くなったので俺は留飲を下げた。
次回の話は2025年4月26日(土)の19時になります。
幽霊は剣じゃ切れないですよね……。
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