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008話 父子パーティ結成

「私は…助かったのか?」


 朝、俺がベッドから起きると、父のホリゾンが椅子に座って呟いた。まだ白い顔をしているのに、起き出してしまった事に少し腹が立った。


「まだ完全に回復した訳じゃないんだ。ちょっと見せろ」


 ベッドに腰かけて父の脈を測ったが、少し脈が弱いような気がする。聴診器(ちょうしんき)でもあれば良いのにと思った所、そう言えば身体強化で耳も強化できるのを忘れていた。


「心臓の鼓動(こどう)を聞かせてくれ。声は出さないように」


 俺は父の裸の胸に耳を当てて、心臓の鼓動を確かめた。熱は下がったようだが、やはり少し鼓動が弱い気がするので、これで良く身動きできるなと感心する。尿が出たか確認すると朝に出たようなので、脱水症状と発熱は改善して、貧血状態ではないかと推察(すいさつ)した。血液検査できれば良いのだけど、医療技術の発達していない異世界に落胆(らくたん)するしかない。


「おそらく貧血(ひんけつ)だ。怪我(けが)で大量の血を失ったので、今日は安静(あんせい)にして欲しい」

「うわっ!」


 俺は父を抱き上げるとベッドに寝かせて毛布をかけた。自分より大きな男を抱えられる身体強化は面白いな。これなら父より大きな幼馴染を抱え上げても余裕だろう。地球に帰る楽しみが少し増えて、俺は内心でニヤリと笑った。


「ガキはおねんねの時間だ」


 俺は子供にするように、父の胸を手の平で優しく(たた)いた。


「私と年は、そんなに変わらないだろうに……」

「これでも四十のオッサンなんでね」

「嘘だろ!」


 日本人は欧米人から見ると若く見えるらしく、アメリカで散々(さんざん)やり取りした事がぶり返される。父も欧米人並みに体格が良いので羨ましいが、ルキウスは大きくなるのだろうか?


「その調子なら何か食べられるな。作って来るから大人しく待ってろ」


 俺が受付に行くと昨日の宿屋の男が待っていましたとばかりに、男物の上着を差し出してきた。急いで父の部屋に上着を置いて戻り、厨房(ちゅうぼう)を貸して欲しいと願い出た。気持ちよく申し出を受けてくれて、俺は厨房で食材とにらめっこした。


『調味料が岩塩(がんえん)しかないじゃないか……』

『塩以外の調味料ってあまり聞かないわ』


 青龍の言葉に、俺は異世界生活の最大のピンチを(むか)えた。可及的速(かきゅうてきすみ)やかに調査すべき件だが、そう言えばルキウスの離乳食(りにゅうしょく)味気(あじけ)なかった気がする。

 取りあえず造血に必要なタンパク質が豊富な料理にするかと考えて、何かの干し肉と何かの葉物を細かく切ると、ひよこ豆らしき豆を大量に(なべ)に入れて魔法の水で浸した。コンロを使おうとすると(まき)コンロなのが判明したので、面倒くさくなり運動魔法で一気に加熱した。

 少し()えたら岩塩を削って鍋に投入して、もう一度、加熱する。味見(あじみ)をすると出汁(だし)が足りないので、味が付いた会社に感謝しながらグルタミン酸ナトリウムを生成して鍋に入れた。また味見すると、うまみが増して味は良くなったが、まだ豆が少し硬いので身体強化の応用で鍋を強化する。運動魔法で鍋と(ふた)圧力釜(あつりょくがま)並みに密着(みっちゃく)させて、しばらく加熱をすると完成した。

 調理中は鍋が蒸気を噴き上げる音に宿屋の男は厨房の入り口で始終(しじゅう)ビクビクとしていたが、良い匂いに釣られて俺の近くに寄って来た。


「欲しいのか?」


 勢いよく宿屋の男が(うなず)くのでお(わん)によそって渡すと、(おそ)る恐る口にする。一口食べた後は目を見開いて一気に、かき込み出したので味は良さそうだ。本当は昆布(こんぶ)とか鰹節(かつおぶし)とか煮干(にぼ)しで出汁を取りたかったが、無い物はしょうがないので魔法の調味料に感謝しよう。

 宿屋の男が満足そうにして厨房を出て行くと、俺は投げて当たったら絶対に怪我をするくらいの固いパンもどきを保管庫から取り出すと、皿の上で水滴を魔法で出し、同時に運動魔法で蒸気(じょうき)にして()した。指で突くと焼きたてくらいの柔らかさに戻ったので、それと一緒に鍋と食器をトレイに乗せて父の元に向かった。父は先ほど渡した上着をすでに着ており、ベッド上で上半身を起こした。


「こんな物しか出せないが食べてくれ」


 俺は少しだけお椀に豆スープをよそって、パンは手で3分の1くらいを千切って渡した。少なく思ったのか、父が(うら)めしそうな目線を俺に向けた。


「しばらく食べてないだろ。少し食べて胃を慣らしてからにしろ」

「分かった……美味(おい)しいな!」


 父は食べ始めると宿屋の男の動きを彷彿(ほうふつ)するように、目を見開いて早く食べ始めた。育ちが良いからか、かき込むような事はしなかった。俺は経口補水液もどきをコップに2人分生成すると、1つを父に渡した。


「この水も美味しい……。私は売られるのか?」

「おいおい、どうしてそうなる」

「こんな美味しい食事を出されるだけか、魔物に付けられた傷も治療してもらった。私は手持ちに金がないので、お礼も出来ない。奴隷(どれい)落ちするしかないではないか」

「あーあまり言いたくなかったんだが、マレば…じゃなくて、マレさんに頼まれたんだ」

「母上を知っているのか!」

「俺は彼女の親戚のような者だ」


 俺は笑いながら内心でマレ婆は祖母だし、お前は俺の父親だからな、と思った。後で婆には口裏合(くちうらあ)わせをしなければならなくなった。


「俺はソータだ」

「知っていると思うが私はホリゾンです。この恩をどう返したら良いのか見当もつかないが、何でも(おっしゃ)って下さい」

「特にない…と言いたい所だけど、実は困っている事がある」

「何でしょう?」

「俺は、ここの常識を知らないので教えてもらえると助かる」

「具体的に私はどうすれば?」

「一緒に行動して教師役のような?」

「パーティを組みたいという事でしょうか?」

「それいいね。金も稼ぎたいんだ」

「私も稼ぎたいですね。普通は、お互いの実力は見て見ないとですが、貴方と組めたら願ったり(かな)ったりです」

「俺、赤ちゃんだから弱いけど」

「プッ!」

『ちょっと! 笑わせないでよ!』


 父が()き出して、青龍が笑い出した。まあ本当の事だし。


「そんな大きな赤ちゃんは居ないと思いますが……」

「これが居るんだよ。世界には不思議が一杯で困ってる」

「冗談はさておき、私は騎士なので片手剣と盾の戦闘スタイルです。魔法は身体強化くらいですね」

「俺は武器で戦った事ないから魔法かな」

「あれだけの傷を回復できるのは頼もしいので、逆にこちらから頼みたいくらいです」


 俺は握手をしようと手の平を出したが、「握って下さい」と言われて拳を握ったら、父は拳をぶつけるようにしてから、腕を組んできた。


「冒険者とか戦闘職の挨拶は、こんな感じです」


 俺は異世界の挨拶に感心し、ここに父子パーティが誕生した。

次回の話は翌日の19時になります。

魔法の調味料の中毒者が出てしまいました……。


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