070話 皇子様誕生
皇族になる前に今の皇族と顔合わせがあった。廃妃された元皇妃の息子夫婦、そしてその息子だ。皇妃が廃妃されて実家の侯爵家も取り潰されたとは言え、皇帝の息子の血族であることは変わらないので簡単に廃嫡は出来ないらしい。皇族が少ないのもあるので、我慢して欲しいと顔合わせ前に皇帝陛下から申し訳なさそうに言われた。
廃妃された元皇妃の息子は、俺達を見て冷たく言い放った。
「正当な皇位継承者の血統のグラキエスだ」
その妻もこの有様だった。
「侯爵家から参りましたグラキエス様の妻ロセウムよ」
最後には息子夫婦の息子でトドメだ。
「次期皇帝のニクスだ。ルキウスとソラリスと言ったか? 僕の下僕にしてやる」
我慢する事なんてあるのかと思ったら、母が前に言っていた選民思想の貴族主義を連発されて呆気に取られた。同じ皇族として仲良くするようにと皇帝陛下が気を利かせて早めに退出すると、敵意をあらわにされた。
夫グラキエスの冷たさが増す。
「滅んだ伯爵家の末裔が、子供を拵えて帝都に逃げ帰って来るとは。そのまま出奔しておれば良かろうに。しかも子種が騎士爵の成り上がりとは片腹痛い。服装も身分相応に見窄らしいのがお似合いだな」
妻ロセウムは俺達の服装を貶して来た。
「まあっ! 滅んだ伯爵家の末裔に騎士爵上がりでは貧相な服装です事。これから皇族に相応しい恰好が出来るのかしら? うふふ……」
息子ニクスは、超えてはならないラインを超えてしまった。
「ルキウスとソラリスは僕の下僕になったら、汚らわしい犬共と付き合いを止めるように」
その言葉を聞いた瞬間、ルキウスの立っている床に黒い魔法陣が現れ、ルキウス自体はスーパー・ルキウス君になっていたようで身体が光っていたようだ。父が咄嗟に俺を抱きかかえて母が愛想笑いをしながら挨拶をして、その場は解散したらしい。
俺は記憶が飛んでいたので定かではなくて後で聞いた話だ。父母と剣聖と婆に代わる代わる抱っこされてあやされると、床の黒い魔法陣が消えてスーパー・ルキウス君が解除されたようだ。
そして俺は原初の海で生命の庭の時間を止めて、6人分の正装の刺繍をしていた。
「蒼汰は夜鍋をして、正装の刺繍をしてた~♪」
俺達が早く帝都に着いたので前倒しで皇族としてのイベントをやると皇帝陛下の鶴の一声で決まり、俺は夜鍋をしている所だ。アルティウスは寝なくて良いので、こういう時は便利である。
俺の手元を見ながら前述の事情を知らない白虎が呆れたように呟いた。
『ソータの家族愛は溢れすぎていないか? そこまでのクオリティの服は必要なかろう』
『えー。晴れの舞台に見栄えは大事だよ』
『どう見ても帝国の技術を超えているクオリティだと思うが』
『見返したい奴もいるし、持っている技術は惜しまずに使わないとね』
男性陣の父と剣聖、ルキウスと弟ソラリスは白い騎士正装にした。アルグラで地球の最高品質の光沢ある布地を再現して、黄金色に輝くオリハルコンの糸で縁取りや装飾を頑張っている所だ。飾り紐もオリハルコンの糸で作ったので奇麗だ。マントは白いビロード生地で背中の帝国紋章は、こちらもオリハルコンの糸で施してある。
女性陣もアルグラで地球の最高品質の光沢ある布地を再現している。マレ婆は付き添いなので、ローズビンクのマーメイドラインのドレスにしてみた。こちらもオリハルコンの糸で縁取りや装飾を頑張った。ミネルヴァが提示した参考資料から本人が選んで気に入ったようだ。マーメイドラインは剣聖の好きな腰のラインが特に目立つので、興奮を抑えるのに苦労した感じだ。
母は女性の一大イベントの結婚式もあるので2着用意した。結婚式用はプリンセスラインの純白ドレスだ。薄いレースを幾重にも重ねてあって、帝国の技術では絶対に作り出せない代物に仕上がっている。作れるものならば作って見るが良い。
母の付き添い用は父と大揉めしたが、あのアメリカンスリーブのドレスにした。瞳の色の碧眼に合わせたドレスで、背中を極限まで露出して、足は腿中程まで露出したスリットを入れた。それから上半身はヒダなしで胸の形が強調される感じで左右の布を分けて谷間が見えるようにして大胆に攻めていて、下半身はヒダを多めの代物だ。こちらもオリハルコンの糸で縁取りや装飾を頑張った。これは確実に男性陣の目は釘付けだろう。俺と弟を除く。
男性陣のアクセサリも頑張った。皇族に連なるので冠が必要で、剣聖家なので月桂樹を編んだデザインのオリハルコン製の冠にした。シンプルに見えるけれど細い枝が巻き込まれているのをオリハルコンで再現してあるので良く見ると手が込んでいるのが分かる。飽きが来ないデザインなので皆に好評だ。剣聖が侯爵に陞爵されるので紋章を決める。両手剣グラムクルッジに月桂樹の冠が添えられているデザインにした。オリハルコンの板の表面を紋章の模様に削りだした紋章盾と、紋章旗を3枚刺繍して用意した。1枚はオリハルコンの糸を旗として編み込んだ総オリハルコン製の旗でタペストリーとして使う物だ。
女性陣のアクセサリも頑張った。青龍がお祝いに宝石を大量にくれたので、ふんだんに使用した。婆の冠は月桂樹を編んだデザインの白金製で、女性用なので所々に宝石を散りばめた。母のプリンセス・クラウンも白金製にして所々に宝石を散りばめてある。翼をモチーフにしたデザインだ。2人共に他には耳飾りや指輪を白金製で揃えて、首飾りはイージス・ペンダントにするそうだ。
それから白虎から貰ったベヒーモスの革で靴を作成した。女性陣だけハイヒールタイプにする。両方共に表面をテクタイトでコーティングしたので、エナメルのような輝きが出るようになった。
皆で衣装合わせをしていたら皇帝陛下が拗ねた。伝説級の布や革や装身具がてんこ盛りなので、皇帝陛下の方が見劣りするらしい。仕方がないので意見を聞いて服やマントや靴を急いで用意した。
衣装合わせで既にある帝冠と帝錫を装備してみたら、見劣りするので拗ねたのが2回目だ。この際なのでそちらも新しく作る事にするが、帝冠は火炎土器に太陽をモチーフしたようなデザインにして、中央にドラゴンの魔石を配していて手持ちの材料で作れた。
しかし帝錫は良さそうな木材がないので帝都の神殿に忍び込んで、世界樹金の枝を大量に貰って来て作成した。上端が帝冠と合わせた火炎土器と太陽のデザインにして巨大なドラゴンの魔石を中央に配していて、下端はドラゴンの手を模していてドラゴンの魔石を手の平で握っているデザインになっている。ドラゴンの魔石は全属性で染めてあるので魔法の杖としても使える感じだ。
最後に侯爵の紋章盾と紋章旗を見てしまった皇帝陛下に、謁見の間の物の作成をお強請りされてしまった。孫が爺にお強請りではなくて、逆なので母も呆れていた。仕方がないので帝国の紋章にした物を、剣聖の物と同じくらいのクオリティで作成した。今回の作業で、俺の刺繍スキルがマスターレベルになった気がする。
剣聖の陞爵は2回に分けて行われるようで、午前中に今までの功績によって子爵に上がってから、父母の結婚式後に侯爵にするようだ。いきなりは皇族の外戚の侯爵には上げられないようで、貴族って面倒くさいと思った。
宮殿の謁見の間には急な陞爵式に関わらず、帝都に近い貴族達が大勢詰めかけていた。見知った顔だとフラステス公爵や、魔聖としてではなくイーリス公女殿下に、貴族院領主のセネクス子爵が訪れている。魔石伯は辺境で遠いので参加せず、ミネルヴァが通信の魔術具を経由して中継する事にしたら喜んでいた。
剣聖は廃妃された皇妃の後釜として、皇帝陛下から熱烈に求められたが一刀両断に断っていた。
「儂が皇妃になると、陛下と並んで立つと逆に思われるからのう」
「ブフッ! でも爺の髭の皇妃とか見たかったかも!」
「「「孫が煽らないで下さい!」」」
剣聖の息子3人に止められたので実現はしなかった。ほんの少し残念である。婆も残念そうにしていたので密かに聞いてみると、男性同士の恋愛が好みのようだ。皇帝陛下と剣聖の仲は婆の公認のようで、2人が仲良くしていると自分も嬉しくなるとの事だ。俺の妻と気が合いそうなので教えてあげると、是非、会いたいらしい。地球に帰る楽しみが増えた感じだ。
剣聖の子爵への陞爵式の服装は俺製じゃなく借り物だったが、父母の神殿での結婚式から俺製を解禁した。貴族達が服をどこで作ったのか気になるようで、あちこちで噂をしているのが聞こえて来た。元皇妃の息子親子達は口を開け広げて驚いていたので、俺としては留飲が下がった感じだ。
父の白い騎士正装と母のプリンセスラインの純白ドレスは、2人共に背が高いので映えている。神官の進行で儀式が進んでいるが、婚姻誓約書と皇女配誓約書にサインしてから2人が参列者の間を戻る時に事件が起きた。まあ俺が青龍にお願いされて身体を貸して、青龍が特大の祝福を飛ばしまくったからだが……。
「神からの祝福よ!」
「凄い、奇麗……」
「こんな結婚式は初めてだ!」
神殿の上方から祝福の光の粒が舞い降りて、2人の門出を祝っているようだ。父が犯人はお前かとジト目を俺に向けたが、中身は青龍なので許して欲しい。
結婚式は神殿だったが、また宮殿の謁見の間に場所を戻して剣聖の侯爵への陞爵式となる。ここから剣聖も俺製の服装を着て参加するので注目を集めた。結婚式の間に謁見の間の紋章盾と紋章旗も変えたようで、皇帝陛下も俺製の服装を着て挑むようだ。婆と俺とソラリスも俺製の服装に着替えたので、元皇妃の息子親子達は口をハクハクと開け閉めしていたのが笑えた。
母のアメリカンスリーブのドレスが強烈で、貴族の男共の目が釘付けなので、父が必死に視線を遮るように立ち位置を工夫しているのが可笑しかった。2児を産んでいるのに未だに崩れないボディラインがドレスで強調されているので男性には目の毒だろう。
続けて皇子を皇族に迎える儀式をやるそうだ。鍵のような魔術具に魔紋を登録し、ギルドカードを作って皇族籍を登録する流れのようだ。最後に皇帝陛下が皇子を皇族に迎えられた事を宣言して終わりだそうだ。
俺が最初に儀典官に呼ばれて前に進み出ると、鍵のような魔術具を渡されて魔紋を登録した。鍵の持ち手の部分の魔石が光輝いたので観衆が騒めき出した。
「あのように光ったのは初めて見たぞ!」
「何て奇麗なのかしら……」
ここまではちょっと不思議な現象ですねと笑っていられたが、次のギルドカードのアーティファクトでギルドカードを作る時に問題が発生した。
「登録できないですね……」
儀典官が不思議がって首を傾げる事態となった。俺もギルドカードを作るのは2回目なので訳が分からなかった。
『ソータよ。来られるか?』
玄武に呼ばれて助け舟が来たと胸を撫で降ろした。原初の海に行ってルキウスが意識不明で倒れる前に急いで生命の庭を時間停止した。原初の海に行くとルクスネブラ近くの空き地に出た。そこには四神と創造神が勢ぞろいしていた。
『助けてよ、玄武』
『それがな、問題があるんだ。ギルドカードは同一人物が2枚作れないのだ』
『同一人物って蒼汰とルキウスは別物じゃん』
『正確に言うと、魂が同一だと魔紋が一緒になるので、同一人物と判定される』
『うはっ! ルキウス最大のピンチだ!』
俺は近くに浮いていた創造神を抱きかかえると、顔をモフフカの中に埋めた。
『助けてよ、創造神』
『これは想定外だね。ソータは初めてケースが多いから面白いけれど!』
『お前、面白がっているな! こうしてやる!』
今はルキウスなので創造神はバランスボールくらいの大きさになるが、俺が腕に力を込めると創造神が歪んで球体から変形し出した。四神達は顔を青くしながら、その様子を見るしかないので困っているようだ。
『はははっ! 何か楽しい感じ?』
『これ、くすぐったい奴じゃないか?』
『ええっ! これがくすぐったい感覚なのか! 面白いね!』
しばらく創造神と戯れていると、創造神が何か思いついたのか声を上げた。
『あっ! 仕方がないのでアカシック・レコードに手を加えよう』
『どうするの?』
『今、登録しようとしているギルドカードをソータの持っている物と差し替えて』
『まあ時間魔法とか使えば出来るけれど、それだと蒼汰のカードじゃん』
『そこでアカシック・レコードを改修してソータがカードを持つとソータの情報が出て、ルキウスがカードを持つとルキウスの情報が出て来るようにする』
『ギルド口座とかは一緒にして欲しいかな』
『そうするとギルドで管理している情報が一緒になってしまうけど問題ない?』
『父さんと爺とパーティ組んでいるとかもそう?』
『うん。ギルドランクとかも全部だねぇ』
『上げるのが面倒だから逆にありがたいかな』
『じゃあアカシック・レコードに行こう!』
俺は創造神の魔法で持ち上げられて、創造神の上に跨らされた。モフフカで凄く上等なクッションに乗っている乗り心地だ。青い顔が更に酷くなった四神達に手を振りながら、創造神がルクスネブラに突進し、奥のアカシック・レコードに着いたので俺は創造神から飛び降りた。アカシック・レコードは銀河の縮図が犇めいているので凄く奇麗だ。
『ソータの入れ物を加工してルキウスも入れるね!』
創造神が点滅すると銀河の縮図から、無数の人の姿が映し出された。今度は人の連なりが多次元的に回転し、蒼汰が現れてその隣にルキウスが並んだ。創造神が少し縮むとルキウスが取り出され連なりの列が詰められた。次に創造神が少し大きくなると、蒼汰にルキウスが渡されて手を繋いで並んだ。
『これでギルドカードを共有が出来るようになったよ』
『凄いな創造神。ありがとう!』
『ううん。私が至らなくて心配をかけたね』
『それじゃあ、戻ってギルドカードをすり替えるよ』
俺は原初の海から戻ると、即座に謁見の間を時間魔法で停止した。俺だけが動けて収納から俺のギルドカードを出してアーティファクトに乗せられている物と交換して、新しいギルドカードは収納にしまった。時間停止を解除すると儀典官を促した。
「もう一度、やって見て良いですか?」
「はい」
俺がギルドカードに指を乗せるとカードが光ったので成功したようだ。
「成功ですね。アーティファクトの調子が悪かったようです。ルキウス・フィウスレギス・サークルム皇子殿下が承認されました!」
「余の孫としてルキウスを認める!」
謁見の間の観衆の騒めきが止み歓声が上がった。前方から見ていた皇帝陛下は顔の強張りを解いて嬉しそうに声を張り上げた。
元居た所に戻ると、後ろから見守っていた父達はヒヤヒヤしていたようで、胸を撫で降ろしたようだ。次にソラリスが呼ばれたので、ソラリスは前に出て行った。父が俺のギルドカードの件を聞いて来た。
「少しヒヤッとしましたよ。どうしましたか?」
「普通は1人1枚しか作れないんだって。蒼汰とルキウスは魔紋が一緒だから無理だったんだけれど、創造神に言ったら特別対応してくれた」
「それは難儀でしたね。見せてもらって良いですか?」
「うん」
俺がギルドカードを渡して父が見ると絶句していた。
「ギルドランクとか口座の金額がソータ殿と一緒に見えますが!」
「だから特別対応だって」
「ギルドランクBの8歳が居て良いのか問い詰めたいですね」
「ふふん、ここに居るじゃん! 文句なら設定した創造神に言ってよ」
「ぐぬぅ!」
俺達のやり取りを聞いていた母達は呆れたようだ。
皇子を皇族に迎える儀式も無事に終わって、俺は皇子様になってしまった。
次回の話は2025年3月22日(土)の19時になります。
ようやく蒼汰君は貴族院に入学です!
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