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007話 父を探してMGS[後半]

 城塞からの隠し通路の終端は、昔に玄武が作った水属性の結界モニュメントの近くに通じていた。ここは領都カストルムの西側らしく、結界モニュメントは崖の上に建てられている。崖下には川が流れていて、低地に貧民街が広がっているのが見えた。城塞からは、かなり離れたらしく遠くに見え、東には繁華街のような高い建物群が見える。

 隠し通路の出入り口から()い出る時にしていた認識阻害を解除すると、玄武にお願いされた。


『結界モニュメントを調べたいのだが』

『それ気になっていたので、よろしく頼む』


 玄武に身体を貸して調査をして貰った。結界モニュメントは古代エジプトのオベリスクのような石柱が六角推の形をしていて、3階建てビルくらいの高さがある。玄武が結界モニュメントに触れると、光で描かれた魔法陣が無数に中空に出現した。


『動作に問題はないな。他の5基とも連携が取れている』

『なあ、その魔法陣は教わったら読めるようになるのか?』

『簡単ではないが可能だ。習いたいのか?』

『なんかこう上手く言えないけど、集積(しゅうせき)化と階層化されてないから美しくないように見える』


 こちらにはコンピュータなどないので複雑な建築物や工業製品を立体的にCAD(キャド)で視覚的に表したり、集積回路や積層基盤(せきそうきばん)もないので階層的に機能を美しく配置する概念(がいねん)がないのだろうと推測した。俺は魔法陣に寄って説明して見る事にした。


『魔法陣の細かい機能は分からんが図形としてパッと見ると、ここを含めて4ヵ所が重複(ちょうふく)している。これらの魔法陣の重複を削除し、機能毎に別の魔法陣としてから層を重ねるように配置すればシンプルになるし、機能が集約して美しく見えるようになる。おそらく魔素の消費量も減るのではないかと』

『…………素晴らしいアイデアだ! ソータは学者か何かだったのか?』

『一応、最高学位と博士号は取得したが、幼馴染のポンコツのせいで学者としては働いたことはない』


 幼馴染に仕事をさせないと経済危機だと周りに脅されて学者への道を諦めたのを思い出したが、俺が居なくなって誰があのポンコツの面倒(めんどう)を見るのかと疑問に思った。まあ俺が居なくても、俺の妻の言う事は聞いてくれていたから何とかなっていると良いのだが……。


足枷(あしかせ)がなくなったのであれば、こちらで研究者になるつもりはないか?』

『それもいいな。まだルキウスの背景が見えてないから先の話になるけど』


 時々、魔法陣の再配置と集積化と階層化について意見を交わすことを約束して、玄武から身体を返してもらった。


『しかし、結界に問題ないとなると何に備えているのやら……』

『比較的自由に動けるようになったし、住民に聞いてみるしかないな』


 思わぬ寄り道で謎が増えたが、本来の目的に戻るとする。


『俺の…ルキウスの父親が、ここから見える場所に居るか検索する』

『アカシック・レコードを使いこなしているな』

『方法がまだ不明だけど、もう少し使い勝手を良くしたい所だね』


 また神羅万象を味わいたくはないので、アカシック・レコードからの返答の数が膨大にならないように凄く気を使っている。もう少しコンピュータとかAIに近い使い方ができるように改良したかった。先ほどのように魔法陣を中空に表示させる技術はあるみたいなので、実現したら面白そうである。


『しかし服を買いに来たのではないのか?』

『それも欲しいけどアカシック・レコードなんて神のツールを使える俺達の方が、人探しとか探し物には有利じゃん。母や暗部に負ける気がしない』

『まあそうだろうな。見つかったか?』

『ああ、貧民街から反応があるから行ってみるか』


 俺は崖下に降りる道を見つけると、身体強化を使いながら()()りた。治安が悪そうな街外れにつくと、少しゆっくり目な速足にする。道端にたむろしているゴロツキ共に絡まれるかと思ったが、人間離れした速足に躊躇(ちゅうちょ)しているのか無事に通り過ぎた。

 目的地の安宿は小汚くて入るのを躊躇(ためら)ったが、勇気を出して入った。受付カウンター奥の通路を進み、父が居ると思われるドアの前で立ち止まった。かなり大きな音を立ててノックしても応答がないし、鍵がかかっているようでドアは開かなかった。アカシック・レコードが間違った情報を提示するとは思えないので思案していると、中から男の呻き声が聞こえた。


『呻き声がしたな』

『鍵を開けてしまえば良いのでは?』

『そんな魔法あるの?』

『魔法的な鍵ではないので簡単だ。運動魔法は朱雀が得意なので朱雀を呼ぶか。朱雀、ソータに運動魔法を教えてやれ』

『もう城から出たんだね』


 玄武が呼んで朱雀が現れた。運動魔法は得意だけど、説明は得意じゃない朱雀の説明を要約すると、魔力で物を動かすのは火属性が良いらしい。おそらく科学的に言うと原子や分子の振動が熱の正体だから火属性で、運動魔法は超能力のように物体に直接、熱や運動エネルギーを与えられるようだ。物理学を知る者として、初めて魔法が恐ろしくなった……。

 試しにマレ婆から貰った金貨を収納から出した。火属性で上に上がるように魔力を送り込むと宙に浮く。ゆっくり円を描くようにイメージすると、その通りになる。込めた魔力がなくなると落ちて来るし、込める魔力の大きさでスピードが変わり、初速から魔力量に比例したスピードになるようだ。物体を急激に加熱や冷却もできそうなので、応用力抜群の魔法に満足する。


『凄い使い熟しまくり……』


 朱雀が金貨の動きに感心する。俺は金貨を収納してドアに右手を当てた。魔力を流すと引っかかりのような感触がするので、立体に思い描いてみると(かんぬき)のような構造に思えた。魔法で閂を外す操作をすると、ドアが開くようになった。

 部屋の中は昼間でも薄暗く、(せま)くて畳で3畳くらいの広さしかなかった。中には粗末(そまつ)な椅子と机しかなく、ベッドの上に男が横たわっているので鑑定して見た。


【名前:ホリゾン・フィウストリア・グラディウス

 性別:男

 年齢:十八歳

 概要:ルキウスの父】


 父だと判明して近づくと、婆に似た茶色の目を薄く開けて俺を見た。同色の髪は汗で張り付いていて、苦しそうな声で俺に(うった)えた。


「金なら…無い…。犯すなら…長く苦しませずに……殺してからにしてくれ。……頼む……」


 治安が悪そうな地区なので俺を強盗とでも思ったのか、理不尽(りふじん)な頼みをすると気を失った。四十歳の知らないオッサンがカギのかかったドアを無理やり開けて入って来た状況なので勘違(かんちが)いされるのも仕方がないが、このまま死なれても困る。

 父から鉄錆(てつさび)のような臭いが鼻に付いたので良く見た所、右肩が血まみれだったのが固まっているのが見えた。傷を確認すると、大きな獣に引っかかれたように見える。額に手をやると発熱に発汗しているので、感染症(かんせんしょう)にかかっている可能性が高いのも分かった。医療は専門外なんだがなぁ……。


『魔法で身体の中の悪い物をやっつけるような感じのないか?』

『光属性の神聖魔法にあるよ』

『ありがとう、やってみる』


 このまま回復魔法をすると身体の中の悪い物も活性化するイメージしか湧かなかったので、右手を父にかざして朱雀に聞いた神聖魔法を発動する。抗生物質で感染症を治療するイメージだ。俺の右手から光の粒が舞い降りて父を包むと、幾分(いくぶん)か顔色が良くなる。続けて回復魔法を右肩に発動すると、水の泡に包まれて傷口が(あら)わになった。爪痕(つめあと)に沿って凹んでいた肉が盛り上がり、周囲と同じような肌色に戻ったので成功だ。

 俺は入口の受付に行くと、大声を張り上げた。


「宿屋の誰か居ないか!」

「……そんなに大声を出さなくても聞こえるぜ」


 受付カウンターの奥のドアから初老の男が出てきた。


「3番目の部屋の男の知り合いなのだが」

「ここ2~3日ですが部屋から出て来ないので宿賃を貰ってないぞ」

「では、これで用意して欲しい物があるんだが」


 俺は右手を後ろにやって宿屋の男から見えないように金貨を収納から取り出すと、男に放り投げた。慌ててキャッチした男が驚愕の声を上げる。


「こりゃ大金貨じゃないですか!」

「今から言う物を用意してくれたら宿賃含めて、その半分やる」


 俺が品名を言うと、宿屋の男は元居たドアから出て行って、すぐに戻って来た。そう言えば、この世界の貨幣(かへい)の価値を知らなかったけど、急ぎだし仕方がないかな。息子の命にかかわる事だし、お小遣いとしてくれた婆も納得してくれるだろう。


「男物の上着はないので買ってきます」

「頼んだ。後でここに取りに来るが、持ち逃げしたりしたら許さないからな」


 俺は宿屋の男の胸倉を掴んで軽々(かるがる)と持ち上げた。一回やってみたかったのもあり、ニコリと宿屋の男に微笑む。


「ひぃっ! そんな事しませんぜ旦那……」


 宿屋の男を降ろして()手繰(たく)るように荷物を受け取ると、俺は父の元に戻った。ドアに閂をかけて、まずは荷物からティーポットを取り出す。2~3日飲まず食わずだったと思われるので、脱水症状と低体温症が心配になった。


『白虎が砂塵を戦闘で出していたし、水とか簡単な化合物くらいなら出せるんだよな魔法で。水よ』


 ティーポットに突っ込んだ指から水が(こぼ)れ落ちる。続けて塩化ナトリウムとブドウ糖を指からパラパラと生成して()ぜて溶かした。指に付いた液体を()めてみると、薄い経口補水液(けいこうほすいえき)に近い味がしたので合格とする。出来れば(さわ)やかな汗?な飲み物くらいの味にしたかったが、汗をかいて失った水分と塩分と栄養の補給が優先だ。

 魔法で父を起き上がらせて、ティーポットを口に(くわ)えさせて直接流し込んだ。何度か同じ工程を繰り返して1リットル以上は飲ませたので一安心する。

 落ち着いたのを見て、朱雀が疑問を口にした。


『水は分かるんだけど、他は何を飲ませたの?』

『簡単に言うと塩と糖分を混ぜた液体を作って飲ませた。本当は造血剤(ぞうけつざい)も欲しいが化学式を覚えてないから作れない。これで峠を超えたら肉とか豆とかを食わせて、失った血を体内で作らせるようにしないと』

『それだけ出来れば医者いらなそう』

『俺は医者じゃないから()焼刃(やきば)だけどな。それから悪いけど朱雀は出てって欲しいんだけど』

『え、何で?』

『父の身体を拭いたりしたいから』

『退散するよ!』


 朱雀が消えたので父を魔法で浮かしてシーツの取り換えをした。木の洗面器に水属性魔法で水を出しながら火属性魔法で温度を上げてお湯にした。玄武が2属性同時の魔法に驚いていたが口は出されなかった。父を脱がすとタオルをお湯で濡らして身体を拭いたが、肩の爪痕の他にも切り傷痕が所々にあるので、魔物の居る世界は大変だなと溜息を付いた。

 自分の身体も拭いて一段落つき、板窓から外を覗き込むと夕闇が迫っていたので今夜はここに泊まりだなと、さっき貰って来た新しい毛布を父と一緒に被って横になると、疲れていたのか寝つきが良かった。その夜は父の温もりのせいか、幼馴染に引っ付かれて寝苦しかった時の夢を見る。異世界に来て初めて見た地球の時の夢だった。

次回の話は翌日の19時になります。

蒼汰君、異世界生活の最大のピンチを迎える!


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